一.緑河 莉乃
世界観は、クトゥルフ神話TRPG要素が入った現代ファンタジー系でございます。
夏休みが終わって、学校が始まって、数日経って・・・
私は、今までの人生では無かった出来事に悩まさせている。
学校に入ることに対しての恐怖、というのだろうか?いや、怖いわけではないのだ。ただ、学校に入ろうと校門を通ろうとすると、勝手に足が止まってしまい、入れなくなるのだ。足を止めている時は、ただ何も考えず《無》になってしまう。数分もすれば、足も動くようになって学校に入れるようになるのだが、この現象には、すごく悩まされている。これのせいで何度遅刻しそうになったことか。
そして今日。靴の踵をコツコツと鳴らしながら、今日はスムーズに入れるようにと祈りながら学校に向かった。
しかし、そんな祈りは届かず、また校門の前で足を止めてしまった。
一つ違うところといえば。校舎を見ていると、段々と視界がボヤけていき、息をするのも苦しくなり、耳に鳴り響くように鼓動と呼吸の音がした。
ーここにいてはいけないー
そう思った私は、学校に入らずに街に向かって走った。
一、緑河 莉乃
太陽が真上まで上がりきり、傾き始めた頃。
結局、学校に入ることが出来なかった彼女、莉乃は、学校の最寄り駅である《月野駅》周辺をふらふらと歩き回っていた。
「(お母さんに連絡がいくのは嫌だな・・・)」
そう思った彼女は、【体調不良で欠席する】と学校に連絡をした後、公園のベンチに座った。
「(さて、どうしたものか・・・)」
先程の経験したことの無い、あの感覚は何だったのか。
お昼ご飯として持ってきていたお弁当を完食するとベンチから立ち、公園から出た。
何も考えず、ただ歩き続けていく。
店が立ち並ぶ場所から離れ、住宅街に入っていった。
住宅街を進んでいくと、もう少し進んだ先に小さな森があることがわかる。
「(森・・・にしては、少し小さい?)」
その小さな森が気になった彼女は、森に向けて進み始めた。
小さな森に入っていってすぐに石の階段があり、登った先に赤い鳥居が立っていた。
「神社なのかな?」
鳥居を潜って敷地内に入っていく。
そのまま進んで行くと、狐の石像が二つ、並んでいた。
「(優しそうな顔してる)」
そう思いながら、お賽銭箱に近づき、彼女は五円玉を財布から取り出して、お賽銭箱に入れた。
「(挨拶はした方がいいよね?)」
彼女は目を閉じて、手を合わせた。
心の中で挨拶を終えて目を開けた時だった。
「珍しいですねぇ。学生さんが来るのは・・・」
急に後ろから声がしたことに驚き、直ぐに勢いよく振り返った。
そこには、頭に小狐を乗せ、黒い手袋をした巫女が立っていた。
「えっ!あっ、す、すみません・・・」
「あらあら、こちらこそすみません。驚かせてしまって・・・」
お互いがアワアワと焦っていると、小狐が巫女の頭をバシバシと叩いた。
「あらあら、あまり激しく叩かないでくださいますか?狐様。」
そう言って、巫女は小狐を優しく撫でて宥める。
「(なんで頭に小狐が乗ってるんだろう??)」
そう疑問に思っていると、巫女がこちらをじっと見つめていることに気づいた。
どうすればいいのか分からず、莉乃がアワアワしていると、巫女はニコッと笑った。
「もし良ければ、お茶でも飲んでいきませんか?」
「えっ?いや、でも・・・」
どうしようかと困っていると、巫女の頭に乗っていた小狐が、巫女の頭から勢いよく飛んで、莉乃の頭に着地した。
「わっ!なにっ!?」
「あら、狐様も来てほしいみたいですね」
彼女の頭に定着した小狐を見て、巫女はニコニコと莉乃を半ば強引に手を引いた。
「こちらにどうぞ」
「えっ、えええぇ・・・」
抵抗も出来ず、そのまま大きい社務所の方に連れていかれたのだった。
「お茶を持ってきますので、座って少しお待ちください」
巫女はそう言うと、莉乃を和室に案内して、お茶を取りに和室を後にした。
莉乃は座卓を前にして、置いてあった座布団の上に座る。
座卓の上には小さな座布団が置いており、莉乃の頭に乗っていた小狐は、座布団の上に乗り移り、丸まった。
「(結局、断れずに来てしまった・・・)」
荷物を置きながら周りをキョロキョロと見渡す。
「(和室の匂い・・・落ち着くなぁ)」
そう和んでいると巫女が帰ってくる。
巫女が持つお盆の上には、湯のみが三つと白い箱が一つ、お皿が三つ重なっておりその上にはフォークが三つ乗っていた。
座卓にお盆を置き、巫女も座布団の上に座る。
「この前、知り合いの方にカステラを頂いたんです。甘いものは大丈夫ですか?」
「大丈夫です・・・その、頂いていいんですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。それに、美味しいカステラなので、是非食べてください」
巫女はそう言って微笑むと、莉乃の前にお皿に分けた二切れのカステラとほうじ茶が入った湯のみを一つ置いた。
「(ほうじ茶、いい香りだなぁ)」
「狐様もどうぞ」
巫女は小狐の前にも、同じものを置いた。
小狐はジッとそれを見るだけだった。
「(・・・食べれるのかな??)」
そんなことを思いながら、莉乃はほうじ茶を一口飲んだ。
ほうじ茶を飲んで一息着いた莉乃を見ると、巫女が話し始めた。
「さて、名前を名乗っていませんでしたね。私は”サクヨ”と申します。ここ、月夜神社の巫女をしております。」
「さくよさん?」
「はい。”桜”に”夜”と書いて”桜夜”です。こちらの狐様は、”美しい”に”桜”と書いて、”美桜”と申します。呼び方は、何でも良いみたいです」
そう桜夜が言うと、美桜はコクンっと頷いた。
「わ、私は、緑河莉乃です。えっと・・・」
莉乃は鞄からノートを出すと、名前が書いてある部分を指さした。
「漢字はこうやって書きます」
「なるほど、莉乃さんですね。よろしくお願いしますね」
「よ、よろしくお願いします・・・」
莉乃は軽く頭を下げた。
「さてと、すみません。いきなり和室に案内してしまって・・・どうしても今の貴方にお聞きしたいことがありまして・・・」
「聞きたいこと・・・ですか?」
桜夜の言葉に首を傾げる莉乃。
桜夜は莉乃をジッと見つめる。
そんな彼女にただひたすら困惑している莉乃は、目を泳がせた。
「莉乃さん、貴方・・・ココ最近で特定の場所、例えば学校とかで、非常に疲れが出たり緊張したりしませんか?」
そう言われて、莉乃は驚いた。
「な、なんで・・・」
そんな彼女の反応を見て、「やはり・・・」と桜夜は頷きながら納得していた。
「ここに来た時から、ずっと精神が不安定な感じがしていたので少し様子を見ていたのですが、体力も精神も不自然に消耗していたので、もしかしたらと思いまして・・・」
「え??見る???」
「あっ、そこはお気になさらず」
桜夜は、手を控えめに挙げて気にするなと言った。
莉乃は、すごく気になるじゃん!?と思いながらも、これ以上は追求しなかった。
「まぁ、とにかく。疲れている時は甘いものと暖かいもの。と言いますからね。どうぞ、召し上がって下さい」
「あ、ありがとうございます・・・」
若干、カステラを食べようかどうか悩んでいたのが分かっていたのだろうと思った莉乃は、フォークでカステラを一口サイズに切り分けて、口に運んだ。
「・・・美味しい、ですね」
「でしょう?」
ぱくぱくと美味しそうにカステラを口に運び食べ、嬉しそうに微笑んでいる莉乃の様子を見て桜夜は、愛おしい子どもを見守るように眺めていた。
そんな視線に気づいた莉乃は、ピタリと手を止めて顔をほんのりと赤くした。
「す、すごく美味しくて、つい・・・・すみません」
「あらあら、全然良いのですよ?こちらも、嬉しくて、見てただけですので」
桜夜は微笑むと、ふと壁に掛けてある時計を見た。
「あら、そろそろ、あの子達が来る時間ですねぇ」
桜夜がそう言うと、大人しく座っていた美桜が耳をピコピコと動かした。
「・・・あの子達?」
莉乃が不思議そうに首を傾げると、玄関の方から勢いよく戸が開く音が響いた。
「こんにちはーーッ!!!」
玄関から元気よく叫ぶ子どもの声が聞こえてくると、莉乃は驚いて目を丸くする。
「あら、やっぱり」
あらあらと微笑んだ桜夜は立ち上がり、襖に手をかける。
「少々お待ちくださいね」
莉乃にそう言うと、彼女は和室を出ていった。
「(近所の子とかかな?)」
そう思っていると、座っていた美桜が机から降りて、部屋の端っこに重ねておいてあった座布団を口で引っ張り始めた。
その様子を見た莉乃は、すぐに美桜のもとに行く。
「これを運べばいいの?」
美桜に問うと、頷いた。
莉乃は座布団を二枚持ち上げて座卓まで運び、床に並べた。
並べ終えてすぐに廊下から元気よく走ってくる音が聞こえてくると、和室の襖がガッと開いた。
「ほんとに知らない人いる!!!!」
おぉっ!と目を輝かせながら莉乃を見ている男の子が立っていた。
「待ってよヤマト!」
そう言って後からもう一人の男の子がやってきた。
ヤマトと呼ばれていた男の子は中に入ると、座っている莉乃の前に立った。
「こんにちは!お姉ちゃん!」
「えっと、こんにちは」
「俺、桝井大和!後ろにいるのは、奈音!」
大和の自己紹介を聞いた奈音は、大和の横に立った。
「奈音です。よろしくお願いします」
奈音は、莉乃に軽く頭を下げた。
莉乃は二人の方に向き直した。
「初めまして、私は緑河莉乃と申します。よろしくね」
「りの姉ちゃん!よろしくな!」
大和の元気な挨拶を聞いた莉乃は、二人の顔を交互に見る。
「君たちは、双子?」
「そうだよ!俺がお兄ちゃんで、奈音が弟なんだ!」
「あんまり似てないって言われるけどね」
三人で会話をしていると、莉乃の頭の上に美桜がポスッと乗ってくる。
「あ!みーちゃんだ!」
「こんにちは〜」
美桜がウムッと頷き奈音の頭に移動すると、桜夜が襖をあけて二人分のお茶とカステラを持ってきた。
「大和くん奈音くん、カステラとお茶持ってきましたよ」
「わーいッ!!!カステラだ!!」
「手は洗いましたか?」
「洗いました」
「えらいです!じゃあ、おやつの時間ですね」
「「やった!!」」
双子はランドセルを下ろして、座布団の上に座ると、出されたカステラを見て「「いただきます!!」」と元気よく言って口に頬張った。
「美味しい!!」
「このカステラ、スミレ姉ちゃんがこの前持ってきたやつですよね?」
「そうですよ」
そんな微笑ましい様子を見た莉乃は、壁の時計を見ると、鞄を持ち立ち上がった。
「私、そろそろ帰ります」
「あら、そうですか?」
「はい」
そう返事をすると、大和が残念そうな顔をする。
「えーー、もう行っちゃうの?」
「電車の時間もあってね」
彼に対して微笑み返すと、莉乃は桜夜の方を向いた。
「カステラとほうじ茶、ご馳走様でした。美味しかったです」
「いえいえ、お粗末さまでした」
「では・・・」
「あっ、外まで送ります」
桜夜はそう言うと、立ち上がった。
「りの姉ちゃん!またね!」
「・・・・うん。またね」
莉乃と桜夜は、和室を出ていった。
二人は鳥居に向かって歩いていた。
先に口を開いたのは桜夜だった。
「子どもは苦手でしたか?」
質問に対して驚いた莉乃は、すぐに返事をした。
「えっ!違いますっ!ただ・・・」
「ただ?」
「その・・・なんだかなって・・・」
「・・・そうですか」
鳥居に着くと、二人は足を止めた。
莉乃は鳥居をくぐると、鳥居の先に立つ桜夜の方を向いた。
「その、色々とありがとうございました」
「いえいえ、楽しかったですよ」
そう言って、桜夜は手に持っていた物を莉乃の手を取り握らせた。
「こちら、あげますね」
「え?」
手の中の物を見ると、朱色の紐が付いた桜の形をした鈴だった。
「これは・・・」
「御守りです。身につけていると、様々なものからきっと守ってくれます。先程言っていた学校とか」
「学校・・・」
喋っていた内容を思い出していた莉乃は、聞きたいことがいくつか出てきたが、今聞くのはやめておこうと思った。
「ありがとうごさいます・・・あの、」
「はい」
「また・・・来ても良いですか?」
「はい、もちろん。いつでも待ってます」
桜夜は、彼女の少し不安そうな表情を和らげるように微笑んだ。
次の日、莉乃は鈴を身につけて学校に向かった。
「(きっと大丈夫)」
そう言い聞かせながら歩いていくと、いつの間にか校門の前に着いていた様で、前で立ち止まった。
鞄を握りしめながら目を瞑り、深呼吸をする。
意を決して校門を通った。
チリンッと鈴がなると、周りに桜の花びらが舞う。
その花びらは、彼女が目を開けた時には消えていた。
「・・・・行けた」
一人で感動している彼女は、嬉しくてニコニコとしながら教室に向かって走った。
今回のお話、いかがだったでしょうか?
なんとなく楽しんでいただけたなら幸いです。




