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もう一人のハウスキーパー

「確かにそうだな、オイ、二人とも、そこらへんで一時休戦だ。ホラホラ、いつまで睨みあってんだ」

 初対面の人間に至極真っ当な意見を出され、弘矩がやめやめ、と諌めに入ったところで俺と茉莉はお互い視線を切った。

「ダメだよ茉莉。君は女の子なんだからそんな簡単に手を上げちゃ」

 茉莉にそんな事を言ってる執事君に助言しておこう、思考より行動、行動に勝る思考無しが茉莉の生き様だと。もちろん、心の中での助言だ。

「ほら、真人も落ち着け。見慣れない幼なじみに驚いただけだろ?」

 ム、まぁ、驚いたには驚いたけど……。

「へぇ、弘矩さんの言葉だとすぐ大人しくなるんだ?」

 茶化すように喧嘩売ってきやがるな、茉莉の奴。ハラタツなぁ。

「別に。茉莉相手に無駄な会話して無駄に体力減らすのがもったいなくなっただけだよ」

「なんですって?そっちが先に……!」

「ハイハイ、真人から喧嘩売ったんだから謝っとけ」

「なっ、俺!?」

「当たり前だろ、ホラホラ早く。これからさき空気悪いの嫌だぞ、俺」

「うっ……」

 こうゆう時の弘矩って逆らえないんだよなぁ。

「ほら、茉莉も謝る。先に殴り付けたの茉莉なんだから」

「……わかったわよ」

 なんてやり取りの後、俺と茉莉はお互い“ごめんなさい”と頭を下げ、弘矩や拓也と謎の執事君にも悪かったと謝った。

「それで、こっちの人が碓氷(ウスイ) 朔馬(サクマ)君?」

 とりあえず配給された制服に着替え、中庭に戻ってきたところで気になっていたことを聞いてみた。

「あ、はい。碓氷 朔馬と言います。20歳です。短い間ですがよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げた碓氷 朔馬君は、男にしちゃ華奢で背丈も俺より低く、声もいくぶん高い感じ。顔は端正な造形で、お兄系の弘矩や童顔の拓也とも違う雰囲気で、そう、ショタ系とでも言うのか、小動物じみた可愛さ溢れるキャラクター。20歳でまだ可愛さが残るのであれば子供の頃は、さぞ年上キラーだったのではなかろうか?

「あの、何か?」

「いや、なんでもない」

「マサは人の顔を覚えるの苦手だから初対面の人をガン見しちゃうの。気にする事ないわ」

 さっきの騒ぎの影響か若干冷たい対応に思える。

「それは記憶障害か何かなんですか?」

「いや、単に人の顔が覚えにくいだけだから。そんな深刻な話じゃないから大丈夫だよ」

 いやはや、ばあちゃんの言うように真面目だなぁ。


 こうして俺と碓氷 朔馬は出会い、この水菱屋敷における事件が因果な関係の始まりとなることを、その時は予想だにしなかった。




「ところでさ、俺達着替えてきたけど何すればいいの?」

 そんな拓也の素朴な疑問から俺達は本館の大掃除、別館の大掃除、書庫に納められた本の虫干しなど主に肉体労働全般を任され、華奢な朔馬君と茉莉は食器類を洗い、ベッドメイクや遊技場の準備で夕飯までゆっくりする時間は皆無だった。

 使用人に割り当てられた食堂に各々の仕事に一段落つけて集まったのは、

夜8時を回った頃だった。

「あ~、腹ペコだぁ」

「たっつぁんは本を干してただけだろ」

「いやいや、本を出したり戻したりで結構重労働だよ、あれで。それでもまだ全部本を干せたわけじゃないから明日も大変だな」

「ああ、こっちも別館だってのにまだ掃除しきれてない部屋あるんだよな。真人、本館どのくらい終わった?」

 背骨を回転させて凝りをほぐしている弘矩はキッチンから出てきたばかりの俺に話をふってきた。

「こっちはだいぶ終わったよ。茉莉と朔馬君にちょこちょこ手伝ってもらってたし」

「はぁ?こっちは一人で別館片づけてたんだぞ?ズルくねぇか、それ」

 そんな事を言われても、茉莉や朔馬君に掃除している現場を見られると“手伝うから”と強引に掃除機持って行かれるわけで。

「まぁ、俺の滲み出る主人公成分のおかげ?」

「気色悪いこと言わないでよ。単に危なっかしいから見てらんないのよ。掃除機で高そうな壺割りそうだったし、棚の中にある食器類を取り出さずに動かそうとするし」

 だって面倒じゃないか。

「そうですよ。二階のガラス窓拭くの面倒だからって外に乗り出してパントマイム~なんて言って。危ないです」

 と二人に抗議されては反論のしようも無いわけで。

「あ~、……大丈夫だよ。俺、運動神経と反射神経良いし」

「アタシは金銭的な心配してんの!」

「落下し後動ける人が足らなくなると僕達が大変なんです」

 あれ?俺の体を心配してくれたんじゃないの?

 言い様の無い虚しさが木枯らしを心に吹かせ、ちょっと悲しくなった。

「なあ、たっつぁん。真人って茉莉ちゃんと話す時と俺らと話す時の性格変わってるよな」

「そうだね。それだけ付き合いが長いってことなんじゃない?」

 うっ、そうゆうことは知っても話さないでほしい。

 そうゆう話題に食いつく奴がいる時は特に。

「あ、それ気になるな。マサって普段の学校でどんな奴なんです?」

 ほらな。なんだか嫌な予感が止まらない展開だ。

「どんな奴、って、普段は大人しい無口キャラ装おってるけど根がスケベだからたまに鼻の下延びきってる時あるよな。最初あれ見た時にムッツリスケベってことがわかったし」

「おい!?」

「ああ、確かに。一年のサークルの時に伊織ちゃんの尻ガン見してたな」

「おい、そこらへんに……」

 いかん、今まで秘密にしていた大学生活の恥部がさらけだされてしまう!茉莉なら諦めているからいいが、ここには朔馬君も居るわけで俺のキャラというのが固定される!

「へぇ、伊織(イオリ)さんっていう人のお尻見てたんだぁ」

「なんだか、真人さんって……」

 茉莉は、口で笑みを作りつつ目で『いっぺん天国逝ってみる?』と語ってるのがわかる。

 朔馬君は、残念そうなものを見る視線を投げ掛けて来て、俺、逃げ場無し。

 ああ、これで俺のキャラは、無口なムッツリキャラに定着しちまったことだろう。

 クソ、拓也と弘矩め、後でおぼえてろ。



 それから野郎二人にイジられ、幼なじみと初対面君からの冷たい視線が刺さり、それでも笑いが絶えずほのぼの過ごし、あっという間に2日が経過していき、水菱一族が避暑にやって来る日にちにカレンダーが移動した。


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