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静馬ばあちゃんという人

 さて、大学から地元に戻り、バイトの仲介人でもある“隣のばあちゃん”こと御原(ミハシ) 静馬(シズマ)御老体に感謝の挨拶でも、と思い立ち進路を自宅の隣に変える。

 ここらで俺の地元を紹介しておこう。仙台市から電車で約35分の場所にある牧歌的な田園風景が広がる産業皆無、市政もこれと無く現代社会から切り離された田舎町だ。

 最近になり仙台圏に家を持てなかったサラリーマンご一家の方々が流入してくるようになり、新市街と呼ばれる住宅地を形成。昔からこの町に住んでた人間から見れば急に人口が増えたように思う。

 そんな田舎町のせいか原住民の老体方は、新参者の新市街に住む人達にいい感情を持っていないようだ。

 この地方過疎化の時代において人口が増えるだけでもありがたいと思うべきだとは思うんだがな。頭の硬い老体と地元原理主義者は徹底抗戦の構えでなんだか空気が悪い。

 ああ、そうだ。あまり口に出す事でもないが俺の先祖は、大層な地主だったらしく新市街の反対側の山ん中に屋敷と言っても過言ではない家があり、なぜか知らんが旧市街の顔役、なんてポジションに納まっちまった。

 おかげで俺が次期神栖家当主だと勘違いした新市街の連中から子供の頃にはいろんな嫌がらせを受けたもんだ。だが俺は、大人になったらこんな狭い土地とはオサラバするんだと言い続けたため旧市街の連中からは裏切者、なんて言われて新市街、旧市街どちらからも援護の無い世界に住んでたわけだ。

 そんな生活が続いた小学2年の時、家の隣に東京で暮らしていた、ジジイの友達と言うバア様が孫を連れて帰ってきた。

 旧市街の連中は、頭数を増やそうと。新市街の連中は、敵方のウィークポイントを知るであろうニューフェイスを抱えこもうと盛大なお帰り会が開かれた。

 それはそれは、イカれた光景だったとも。だいたい状況がイカれていると人間って奴は、イカれ度合いに拍車がかかる生物らしいな。一人の老婆を囲んでヤジと小競り合いの応酬。まあ、今思えば爆笑ものだ、だが傑作だったのは、ついに殴りあい寸前というところで静馬ばあちゃんが『黙らんか、バカ者共!!』と大の大人数十名を一声で黙らせてしまったことだ。

 その後隅っこの方に引っ込んでいた俺の目の前まで歩ってくると、『まったく、最近の大人がバカだと子供がかわいそうなもんだよ。見な、人を下から見るひねくれちまった子供がここに居るってのに大人が一人も気づかないなんてね』なんて今まで会話の中に欠片も出なかった俺を引き合いに出しやがった。

 確かに当時の俺は、ひねくれてたし、人間不信と現実のバカらしさを悟ったように他人との繋がりを断っていたが、確実に言えるのは無表情、つまり半目で何事もつまらなさそうな顔だちだっただけで下から顔を見るような陰鬱な子供じゃなかったのに。

 まあ、それは置いといて続きを話せば、静馬ばあちゃんは俺の視線の高さに合わせるように腰を下ろし、『坊や、年いくつだい?』なんて聞いてきた。

 人と話すなんて久しぶりだったが『じゅ、十歳……』と自分でも呆れるかすれ声が喉から出てきた。ばあちゃんは、

『そうかい、じゃ、アタシの孫と同い年だ。こっちに越してきたばかりで右も左も分からないみたいだから仲良くしてやっておくれ。名前は何てゆうのさ?』

『マサト、神栖 真人』

『真人かい。よし、真人。アタシん家に孫が留守番しとるからいって話しかけてやっておくれ。こんなバカな年寄り共のと一緒にいるよか大分居やすいと思うよ』

『……行っても、いいの?』

『当たり前さね。孫の名前は茉莉(マツリ)、よろしくしてやっとくれ』

 そんな会話の後、俺は逃げるように宴会会場を抜け出し静馬ばあちゃんの家に向かった。

 その後の事はよく分からないが、大人連中とガキ共の嫌がらせがピタリと止んだ。たぶん静馬ばあちゃんが何か言ったんだろうとは思うが。

 いや、それだけじゃなくてそれからというもの俺は中学を卒業するまで静馬ばあちゃんの孫、茉莉と一緒にいたから、とゆうのもあるんじゃないか、とも今になっては考えられる。

 回想が長くなっちまったが、要するに俺は静馬ばあちゃんに借りがある。俺を一人の人間として扱ってくれたこと、俺を真人間の道に戻してくれた、かけがえのない友達と巡り合わせてくれたこと。


「と、ようやく着いたか。隣ん家に山回り込んで行くなんてどうかしてんぞ、まったく」

 俺の家は、山の中腹にあるのだが、道は一本しかないため麓から迂回してご近所に会いに行かなければならないわけだが、裾広がり型の山であるためちょっとしたピクニック気分を味わう羽目になる。加えて言えば静馬ばあちゃんの家は、山の反対側に回り込み更に竹林を抜けた先なのでここまでいくと妖怪の一匹くらいは出そうなものだ。実際出たって噂が絶えないしな、ここらへん。

「相変わらずボロいな、静馬ばあちゃん家」

 竹林を抜けた先に現代においては稀少物件となった茅葺きの日本家屋が狐火もかくやという弱々しい光を漏らしながら鎮座していた。

 そう、この幽霊屋敷が静馬ばあちゃんと俺の幼なじみ、茉莉の暮らす家だ。


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