第八話 王女直属魔術師VSシオン
「……俺なんかで、本当に良いんですか?」
思わず漏れた問いに、姫はふわりと微笑んだ。
その笑顔は暖かくも見えるし、底が読めないようにも見えた。
「もちろんよ、シオン。あなたの力は価値があるわ。ただし――ひとつだけ、実力を示す儀式を受けてもらう必要があるの」
実力を……示す?
「安心して。形式的なものよ。私の派閥に入る者には、みんな受けてもらっているわ」
その声に嘘は混じっていないように聞こえた。
だが、胸の奥で小さな警鐘が鳴る。
──何かがおかしい。
⸻
案内されたのは、王城内の魔術訓練場。
円形の広間には、すでに三人の宮廷魔術師が待っていた。
彼らの視線が、シオンを刺すように射抜く。
歓迎ムード……じゃないよな、これ。
姫が場の中央まで歩くと、儀式の説明を始めた。
「これより、シオンが我が派閥にふさわしいかどうか……加入前の簡単な確認試験を行います」
簡単……?
魔術師たちの目は、試験というより獲物を値踏みするようだった。
「では私は、儀式の準備をしてまいります。レイル、あとは任せるわ」
姫が退場した。
広間の空気が、冷たく沈む。
⸻
レイル──細い眼光の男が、ゆっくりとこちらへ歩み出た。
「勘違いするなよ。ランス殿下と互角に近い戦いをしただけで、殿下に届くと思うな。だが――死なずに帰ってきたのは事実だ。その確認を、ここでさせてもらう」
男の合図と同時に、背後の魔術師たちが構えた。
炎、雷、風。
それぞれが魔法を繰り出す構え……完全に殺しに来ている。
「試験って……こういう意味かよ」
「落ちこぼれが姫様の側近になれると思うなよ?派閥に入る資格がなければ――そこで終わりだ」
完全に敵意丸出し。
「行け!」
レイルの号令と同時に、三方向から魔法が襲いかかる。
「《フレイム・ランス》!」
「《サンダーショット》!」
「《エア・ブレード》!」
殺意そのものの三連魔法。
力を示せっていうなら……見せてやるよ!
シオンは息を整え、一瞬で魔力を巡らせる。
雷光の残像を残し、横へ瞬間的に跳ぶ。
三つの魔法が床を砕き、白煙が上がる。
驚愕する宮廷魔術師たち。
「なっ、あの速さ……!?」
「落ちこぼれの動きじゃない!」
シオンは煙の中へ飛び込み、炎、雷、風の魔法を次々と再現する。
反撃のたびに、敵の顔色が変わる。
「バ、バカな……同じ魔法を……!?今さっき見ただけだぞ!」
「見ただけで覚えるなんて……そんな魔術師、聞いたことが……!」
シオンの拳に雷が纏い、レイルを打ち砕く。
「がっ……!?」
魔術師たちは次々と戦闘不能。
広間に沈黙が落ちる。
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カツン、カツン、と高い靴音が響く。
姫が戻ってきた。
倒れた魔術師たちを見ても驚かない。
「……やっぱり。あなたは期待以上ね、シオン」
「これは試験なんかじゃない。刺客だろ。俺を潰そうとしたんじゃないのか?」
「……そうね。あなたの力を見て妬む者は多いもの」
言い訳はしない。
むしろ、それすら利用しているような口調だった。
そして、微笑んで言う。
「でも、あなたが勝ってくれてよかった。これで堂々と……あなたを私の派閥に迎えられるわ」
その笑顔は優しげなのに、どこか所有物を手に入れたような色があった。
胸の奥で、また警鐘が鳴る。
⸻
訓練場の外壁に、ひとつの影が揺れていた。
黒い外套の男が、シオンを見下ろして笑う。
「王家に狙われたか……。上出来だ、シオン。闇の成功例としては申し分ない」
闇ギルドの魔術師が、静かに去っていく。
──この日を境に、光と闇の両方からシオンの価値が狙われ始めた。




