第七話 孤高の雷槌
爆ぜる雷光、焦げた石床。闘技場全体が振動し、観客の声は悲鳴と驚嘆でひしめく。その中心で、俺は――まだ立っていた。
ランス殿下は杖を掲げ、冷たい瞳で俺を見下ろす。
孤独な努力至上主義者。その瞳には王族としての矜持と、誰も自分の領域に届かせたことのない自負が宿る。
幼い頃から誰よりも努力を重ねた。裏を返せば、努力を怠れば認められず、存在を否定されるという絶望の中で生きてきた者――それがランスだ。
「平民が……雷を模倣するだと……?」
嘲りはない。冷たい声。しかしその奥に、微かな興味の光。胸が熱くなる。俺は息を整え、地を蹴って距離を詰める。
ランスは瞬時に後方へ跳び、杖を叩き込む。
「雷鎖!」
青白い稲妻が鎖のように蛇行し、迫る。体が反応する。掌をかざし、魔力の流れを掴む――。
視界に浮かぶ雷の軌跡。一本一本が手に吸い込まれる。電流が体を駆け巡る。これが俺の力――模倣、吸収、再現。
「なっ……吸収しただと!?」
撃ち返す。
「返すぞ! 雷鎖!」
蛇のような電光がランスに迫る。肩をかすめるが、動きは完璧。絵画のように冷たく、美しい。その美しさの中に、孤独と努力の重みが透ける。
観客席が沸く。
「魔法を……返した!?」
「何者だあのGランク!」
ランスは微笑むが、それは冷たく、孤独な王者の笑み。
「面白い……初めて、私の領域に届く者か」
杖を掲げ、全身の魔力を一点に集中させる。
「雷槌――!」
天を裂く雷柱が、俺を貫かんと一直線に落下する。もう避けられない――そう直感した瞬間、掌に微かな光を宿す。
(届く……かもしれない)
全魔力を一点に集中――放たれた電光が、わずかにランスの腕に触れた。微かな衝撃。
初めて、Aランク魔術士に魔法が届いた瞬間だった。
だが、雷柱は圧倒的だ。体を叩きつけられ、石床に膝をつく。公式な勝敗は、ランスの圧倒的勝利。
観客席は歓声の嵐。
「勝った……ランス殿下の勝利だ!」
「平民が、一撃でも届いた!? あり得ない!」
ランスは血を拭いながら杖を下ろす。冷たい瞳の奥に、かすかな興味の光。
「異質だ……貴様の魔法は、私の領域に触れた」
膝が崩れそうになりながらも立ち上がる。世界に刻まれたのは、ランスの名。だが、俺にとっては――勝負の勝利でもあった。
ざわめく観客席の一角――視線が一斉に集まる。
赤い髪、鮮やかな瞳。小柄ながら、威厳と存在感を放つ少女。
「あれは……王族でも有数の魔術の才を持つお方!」
「次代を担うお方が、あの平民に目をつけるとは……」
少女はランスの横顔をちらりと見て、眉をわずかにひそめる――兄への冷たい視線。
そして俺を見据え、静かに声を発した。
「……異質な魔法だったわ。私の派閥に入りなさい」
観客席は再びざわめく。声には確固たる自信と狙い、次代を見据えた決意があった。
ランスは僅かに眉を寄せる。兄としてではなく、同じ力を持つ者としての警戒の目。
――そして、俺の胸に、次なる戦いへの予感が波のように押し寄せる。
(この人と戦えば……戦術も、戦略も、もっと強くなれる。俺だけじゃない――学ぶべき力が、ここにある……)
魔法は模倣できる。だが、戦術や工夫はまだない――それを超える存在が、目の前に現れたのだ。
それだけで、胸が熱くなる。世界が広がった瞬間だった。
――新たな戦いの幕が、静かに、しかし確実に開かれた。




