第六話 模倣の雷撃
試合開始の合図と同時に、雷が落ちた。
眩い閃光が闘技場の石床を走り、衝撃で石板が割れる。
舞い上がる粉塵と飛び散る破片。
衝撃で肺が焼け、耳が遠くなる。
シオンには何も見えなかった。ただ、光が落ちただけだ。
土煙の向こう、ランスは微動だにしない。
その姿は、まるで絵画のように美しく、完璧だった。
「……これが……王族の魔法……」
「一撃も通らぬうちに、立てなくなるとは……。本当に、同じ魔術士なのか?」
ランスが杖を掲げ、短く詠唱した。
「雷霆!」
光と魔力が舞い上がる。
雷が落ちるより早く、石床が砕け、衝撃で全身に痛みが走る。
防御魔法を使えないシオンは、ただ横っ飛びで避けるしかない。
跳び、体を捻り、着地するたびに膝が沈み、石板の衝撃が骨に響く。
何も届かない。何も――届かない。
(くそっ……まだ……)
胸が焼け、腕が重い。
空気ごと支配される雷の圧で目まいがする。
それでも、目を逸らさない。
雷が落ちる瞬間――見えた。
軌跡、杖の角度、魔力の流れ。
飛びながら、体で感じるそのリズム。
同じものが体内で鳴った。
「……あれ、できるかも……」
恐怖の中、閃きが浮かぶ。
見た魔法を再現する――これが俺の力だ。
掌に微かな電光が宿る。
土煙の向こうで、ランスの目がわずかに動いた。
嘲りでも怒りでもない――興味の色。
その瞬間、闘技場の空気が変わった。
光が弾ける。
二つの雷が交差し、爆風と閃光が視界を奪う。
一拍の静寂。
煙が晴れると、立っていたのはシオンだった。
肩口に浅い焦げ跡。致命ではない。
初めて王族の雷に触れた感触。
心臓の奥で、熱い衝撃と希望が同時に駆け巡る。
「……一撃、通ったな」
ランスの声は低く、しかし品格を崩さない。
嘲りでも怒りでもなく、初めての敬意を含んだ笑み。
シオンは拳を握る。
初めて誰かの背中に追いついた感覚。
勝利にはまだ届かない。
だが――次は必ず、自分が決める。
雷鳴が再び空を裂く。
ランスの短詠唱が闘技場を震わせる。
「雷霆!」
連撃が襲いかかる。
シオンは横っ飛びで避け、体で軌跡を読み取り、掌に電光を宿す。
絶望の波と閃きの光が交錯し、希望と緊張が生まれる。
――模擬戦はまだ、終わらない。




