第二話 魔術士の街アスラ
馬車に乗ってやって来た。
安い馬車で寝て起きたら、アスラに着いた。
アスラが魔術士の街と呼ばれるのは、ダンジョンがあるからだ。
素材が取れ、武器屋や商人の店の質が高い。発展した。
一歩足を踏み入れると、外観よりもはるかに広く感じた。
酒の匂いと革の油の香りが混じった空間に、ざわめきと笑い声が響いている。
正面には巨大な依頼掲示板。横には簡易な食堂と、武器を並べた売店まである。
魔術士たちは椅子に座り、談笑したり、掲示板を睨んでいたり。全員が何かを求めている目をしていた。
受付に向かおうと歩き出した途端、背後から熱っぽい視線を感じた。
横目にちらりと見ると、大柄な魔術士を中心にした5人組の魔術士が、俺を品定めするように見ている。
トラブルの匂いがしたので、視線を逸らしてカウンターへ。
そこには、柔らかな笑顔を浮かべた茶髪の女性がいた。どこか癒し系だ。
「魔術士登録ですね。私は受付のリアです。こちらにお名前と出身などをご記入ください」
名前と年齢、出身を記入。
それで登録はあっさりと終わった。
「あちらの掲示板にクエストの依頼書が貼ってあります。クエストにランクがあり、魔術士のランクに応じて受けることができます。シオンさんは初めての登録なのでGランクからのスタートになります。受けれるクエストはGランクからになります。クエストを達成し、クエスト達成数や結果に応じてランクが上がります。報酬も払います。薬草採取からダンジョン探索などがあります。魔物の討伐クエストもあり、この方がランクが上がりやすいです」
話が終わると、掲示板の前に立つ。
俺は無職みたいなものだ。
依頼の報酬から生活費を払わないといけない。
「……薬草採取で銀貨五枚? ゴブリン討伐は十枚……」
思ったより悪くない。
だが、報酬が高い分、当然リスクもあるはずだ。
魔物の森にしか生えていない、ハイポーションの材料となる、聖薬草5本採取。
メイジゴブリンが近くの村を襲っているから、村長からの依頼か。
メイジ。メイジっていうくらいだから、魔法を使うのか。
やばい。俺、魔法使えないからな。
武器がいる。
「……盾はやめとこう。重いだけだし、俺はスピード勝負だ」
自分に言い聞かせるように呟き、剣だけを選んだ。
ギルド内に武器屋を見た。
安い鋼の剣が銅貨十枚で買った。
じゃあ、最初は村の村長に会いに行くか。
街を出て、馬車で隣の村に着いた。
白い髭を蓄え、杖をついた老人が村長のムラハさんだ。
「良くぞ来てくれた。早速だが、ゴブリンは村の東にある魔物の森に現れた。村の家を壊し、村人を傷つけ、子供も攫われた。助け出してくれ。報酬は依頼書の倍の金額を払う」
「やらせてください」
金に目が眩んだ。
木々のざわめきが不気味に耳を打つ。
目的の魔物の森に、ついに足を踏み入れた――そこにいたのは、ただのゴブリンではない。
ローブをまとい、杖を構えた知性ある眼差しの“ゴブリンメイジ”だった。
見つかった。戦闘のゴブリン戦士が棍棒で殴りかかって所を剣で受け止めた。
剣戟と棍棒が何度もぶつかり合い、根負けしたゴブリンの胸を貫いた。
瞬間、炎の塊が視界の端に映り、皮一枚で避けた。
腕を見ると、微かに赤くなった。
避けたつもりだったが。
飛んできた方にゴブリンメイジがいた。
俺は魔法が使えない。
この距離じゃあ、剣は届かない。
くそッ。俺はヤケクソになり剣を投げた。
ゴブリンメイジに当たらないッ。
「グゲゲゲッ」
ゴブリンメイジが笑いながら、また火球を放ってきた。
もう、避けられない。
ああ、ここまでか――
死にたくない。
まだ、何もしていないんだ。
誰にも認められてない。何も、できていない。
こんなところで……終わってたまるか!!
「出でよ炎! 敵を飲み込めッ!!」
喉が裂けるほど叫んだ。祈りのような、叫び。
その瞬間、俺の中で“何か”が弾けた。
手のひらが熱い。熱すぎる。
全身の奥底から、何かが吹き出してくる。
火球が、俺の手のひらから生まれた。
それは一直線に飛び、ゴブリンの火球とぶつかり――爆ぜた。
「グゲゲゲ!?」
ゴブリンメイジが後ずさる。
俺も、呆然としていた。
いま……俺の手から、魔法が……?
体の中に、今も燃えるような熱が残っている。
これは――本物だ。
「……うそだろ。使えた……魔法が」
信じられない。でも、確かに使えた。
初めて、俺の中に“力”が生まれた気がした。




