エピローグ 五風十雨、雨降って地固まる
♪〜ドゥンチャチャ ドゥンチャチャ
トゥラパッラ ラッパララ パッパラ〜♪
「こんばんは、トゥナツナのサトウと、」
「金曜のナイトことスズキーです」
「今晩もよろしくお願いします」
「ヨロヨロ、ヨロシコですっ」
「えー、今日はですね、深夜便ぽーぽー列車トゥナツナのラジオ放送3000回記念ということでね、さっそくなんですがお待たせしちゃうとアレなんで、スペシャルゲストを呼んでみましょう」
「え、だれ、だれ?」
「こんばんはー」
「本日のスペシャルゲストは、高級ファッションブランドのポルトンの創業者ぴちゃ子さんです。よろしくお願いしまーす」
「わー、ナマだー、すげぇ、顔ちっさ、こんな人がこんなラジオに出てくれるなんて、新作の宣伝とかあったんすか」
「あら、コンコンチキなお人、バカにしてもらっちゃこまります、ワタクシ、人間にせっかく生まれてきたのですから世界中に感謝を伝えに参りましたの!」
「っぷは」
「お、おー」
「前世は金魚、今世は人間、来世はまだわからないけれど、もしまた生まれ変わるなら動植物全て、万物にありがとう!と伝えられるものになりたいですわ!」
「し、CMいったん入りましょう」
「マジか、マジ?」
♪〜トゥルル ルルル ルールル
トゥルルル ルッルル〜♪
「えー!やだやだ、アタクシまだ話したいこといっぱいありますの!はじまったはかりなのにー!!」
♪〜トゥルル ルルル ルールル
トゥルルル ルッルル〜♪
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(地元の水泳指導員の回想)
「ダサい水着をなんとかしてほしい」
初めて彼の泳ぎを見たとき、水を得た魚とはこのことだと思いました。
フォームが美しいの一言です。
ただ、陸にあがった彼は口が悪いというか、正直というか、歯に衣着せぬもの言いは確かに問題はありました。
競泳水着のデザインが野暮ったいのは仕方ないんです、水の抵抗を考えれば生地は自ずと決まってきますし、昔からそういうものですし、何よりタイムが大事ですから。
でも、パラリンピックの候補選手に選ばれることはすごいことなんですよ!
努力だけじゃない世界ですから。
マリオくん、いや、マリくんはワタシにとって初めて身近にみる天才でした。
水着のデザインに対する不満も、見方を変えれば感性の鋭さでもあります。
天才て、感性が人と違うから天才ていうか、世間がマリくんを評価するぼど型に押し込められていくマリくんを見ているのが正直、ワタシは辛かったです。
「マリは、タイムなんてどうでもいい」
初めてマリくんに会ったのは市民プールでした。
平日の昼間に小学生くらいの明るい髪に染めたお子さんがいたので、目がいくというか。
親御さんがいつも隣にいて、何回かご挨拶をしているうちに話すようになりました。
マリくんは最初、人のいないキャンプ場の川で遊んでいたそうです。
だんだん泳ぐことがたのしくなって、本格的に練習がしたいけれど不登校中だし、うしろ指さされない離れた町ならいいか、てことで車でココまで来て泳いでいると聞きました。
右目が見えていないこともあって、左右のバランスを鍛えるには水泳は効果的だったと思います。
なにより、水に浸かっているマリくんは生き生きとしていました。
傍にいるこっちが明るい気持ちになるから不思議で、元気をいつももらいました。
マリくんが水泳選手を辞めたことですか?
そうですね、マリくんの性格を考えれば水泳連盟とは方針が合っていなかったと思います。
性別のこともそうですが、 少数派の意見を本当の意味で理解するにはまだ時間が必要だと思います。
社会が、いや、隣にいる身近な人たちこそが、多様な人を受け入れてくれるようになることをワタシは願っています。
マリくんに、もし、伝えられたらでいいので、泳ぐこと嫌いにならないでとお伝えください。
どんなカタチでも続けてくれたらうれしいです。
あ、なんかすみません。
ありがとうございます。
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(某コンテスト主催団体責任者)
「あらゆる賞を辞退いたします」
品性のかけらもない、思い出しただけで腹ワタが煮えくり返る思いだ。
受賞ていうのはね、名誉あるものなんだよ。
わかるだろ?
一般的に、常識的に考えて、彼なのか彼女なのかわからないアレは、オカシイだろ? アタマが、ね? わかるだろ?
調子にのってる、そう、いい気になっているんだよ。
ちょっと、いいデザイン描くからってさ。
ちょっと、魅力があるからってさ。
ちょっとだよ、ちょっと。
ちょっとのクセして。
はあ、思い出したらイライラしてきた。
「賞は受賞するものではなく、創り、与えるものですわ」
賞は受賞するものだろ?じゃ、誰が受賞するんだよ。
優れた人が受賞するんだろ?支離滅裂なんだ、だからおこちゃまは困る。
認めてあげるんだから、感謝しろって話だ。
若者は承認欲求が強いだろ?
認めて欲しいだろ?
評価して欲しいだろ?
だから、ボクが評価してあげたんだよ。
認めてあげたんだよ。
無下にしやがって。
世間が甘やかしすぎなんだよ。
つけあがっちゃって、ますます調子にのる。
ケツ拭きのボクの身になって欲しいな。
優れた作品を称えるのがボクの仕事なんだよ。
世界的なファッションデザインの賞に推薦状を出す代わりに、ウチの賞を受賞すればいいだけだったんだ。
簡単な話だろ?なのにアレときたら、おかげでかわりの受賞者見つけるのにどれだけ苦労したかわかる?
わからないだろな、わからないはずたよ。
まったく、役にたたない部下ばかりでボクの仕事が増える一方だ、困ったよ、本当に困った。
ふん。
だから最近の若者はイヤなんだよ。