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完結 天気晴朗、明日もいい天気になーれ

 ぴちゃ子を乗せた車は重厚感のあるエントラスホール、ではなく、その脇にある高層ビルの地下へと向かった。

 監視カメラが車を認知すると外壁から点滅矢印が出現し、運転は自動モードに切り替わる。

 車内にはAI音声が流れ到着予想時刻を知らせた。

 予想時刻通りに駐車スペースに車が停まると防弾ガラスに包まれた一畳ほどのスペースが光に照らされて出現する。


 「ありがとう」


 車内に別れを告げぴちゃ子1人がガラス扉へと向かう。

 左目を虹彩認証機でチェクし、両手のひらを指紋認証に当てると扉が開いた。

 一瞬で壁はマジックミラーとなり、外からは何も見えなくなる。

 ぴちゃ子はさらに前に進むと次もやはり一畳ほどのスペースでエアシャワーを浴びせられ、ハンド型金属探知が全身をチェクをした。

 幾重ものセキュリティチェクを終え、エレベーターに乗ると、自動で目的階にAIが案内した。

 ここは何階なのか知るすべもないまま、表札も部屋番号もドアノブすら何も無い扉の前に案内される。

 赤い線の光がぴちゃ子を確認する。

 また確認か、と思う間に自動で扉が開く。

 昔ながらの家屋、そう思わせる土間があり、和室が続く奥の間に茶室が見えた。


 「ようこそ」


 袴を着こなした50代の男性がこちらを見ずに背中を向けている。


 「ご無沙汰しております、閣下」


 場に不釣り合いなコスプレ衣装を着たぴちゃ子が頭を深々下げた。


「閣下、だなんてらしくない、お義父さんと呼んでいいんだよ」


 閣下と呼ぶ男はようやくぴちゃ子に顔を向けて笑顔を作る。


「ふふ、御冗談は顔だけでお願いします」


 ぴちゃ子も笑顔を作る。


「…。まあ、入りなさい。マリオ君に来てもらったのも一つお願いがあってのことでな」


「本名は萎えるのでやめてくださいません」


「はっはは。名前なんて記号の一つだ。それよりも、なんだ。その破綻したお嬢様言葉は。ずいぶん合わない間にメス臭くなった」


「あの―、一つひとつ説明いたしますと、マリ↓ではなくマリ↑です。マリーゴールドの花から父と母が名付けてくれた大切な名前です。以前もお話しいたしました。それと、破綻したお嬢様言葉ではなく、崇拝する〝聖闘炎炎海月姫は海の中に〟登場するキャロリーナ嬢の言葉遣いを完コピいたしました。レイヤーネームはぴちゃ子ですので、コスをしているときはぴちゃ子とお呼びください閣下。あと、メス臭いとは最上の褒め言葉。男に産まれてきて、あーあ、よかった。本当に心から感謝いたしますわ」


「 ……。なんでもいいが。私は君の才能を高く評価しているんだ、それは、わかるはずだ。まぁ、お茶でも。…。それで、君にお願いというのはだね……」


「っぷはっ。閣下の入れたお茶はいつ飲んでも美味しい。あらやだ、失礼。てへ☆ 」


「…。ゴホン。我が愛娘のことなんだが。誰に似たのかカネのことしか頭になくてね。女っけもなければ頭だけは回転がはやくてな。結婚のけの字もない。自由奔放で才能の塊のような天才の君にはうちの娘のような子が君の隣にいたら安心じゃないか?君たちもいつまでも若いわけじゃない。その格好もいつまでできると思う?将来の資産形成も考えたうえでも悪い話しじゃないと思うが…」


「はぁ。脳内は閣下そっくりのお嬢様なのですね。お言葉ですが、ワタクシは人間にせっっっかく生まれてきたのですから、好きな人と恋に落ちることを夢見ております。可愛いお洋服にかっこいいお洋服。作ってみたいもの、着こなしてみたいもの、たあっくさんありますの!観たい作品、美味しいご飯。綺麗な景色を誰かと共有すること。ああ、人間として生きることは奇跡!希望!ああ、ああ、なんて素敵なことでしょう!ワタクシにはまだまだ出会わなければならない人たちがいるのです!これは使命であり!天命!そして運命があるのならきっと導かれるはずですわ!ですから閣下、冗談は顔だけになさって」


人差し指を閣下の口に当て、満面の笑顔を作り、ぴちゃ子は一礼をしてその場を後にした。


「はっはっは。」


 一人残された閣下は障子を開け、高層の景色を眺めた。

 諦めないぞと思う気持ちが高ぶるほど笑みが溢れた。

 思うようにいかないことがこんなに面白いのかと閣下は子どものような顔でワクワクしていた。


―――――――――――――


 ふふふ。ぴちゃ子の顔から自然の笑顔が溢れる。

高層階から地上に降り立ったぴちゃ子は意気揚々と歩んだ。


 「ぴちゃ子さまー」


 ゴスロリのメイド服を着た秘書たちがぴちゃ子に駆け寄る。


 「あら、帰ってもよかたのよ」


 「わたくしどもはぴちゃ子さまのお側に生涯お仕えいたしますと誓いました」


 「ふふ、お好きに」


 颯爽と高層ビルの人工林から風が駆け抜ける。


「さあ、今日も喜びをかみしめて感謝するぞー!」


 ぴちゃ子の決意の叫び声が空に吸い込まれるようだった。

 どんな予想だにしないことが起きても、生きる喜び、産まれてきたことへの感謝があれば、どんな世界にいてもぴちゃ子なら乗り越えることができる。

 これから出会うたくさんの人やできごと、そしてたくさんの謎を一つひとつ、ぴちゃ子なら解ける。

 そう思えるぴちゃ子に少しずつ成長している。





         ―完― 

 


―――――――――――――――――――――

(育ての男親の回想)



 「花言葉は悲しみ、変わらぬ愛なんです」


 あの時、庭にマリーゴールドが咲いてました。

 妻から電話があって、警察署で赤ちゃんと一緒にいるて言われたらときは頭が真っ白で。

 急いで車に向かい、妻が本当に赤ちゃんを抱いてたのを見て本当だったんだと驚きました。

 不妊治療をして16年目。

 子どもができなことで妻は追い詰められて、ついには人様の子をとったんじゃ、て脳裏をよぎりましたが警察から話を聞くと捨児の可能性が高いと伝えられました。

 妻に目をやると赤ちゃんを抱きしめたまま。

 見たこともないオレンジ色の髪で、右目が無いのもすぐに気づきました。

 悩みは一生だけど、覚悟て一瞬だと僕は思います。

 妻はきっとこの子を育てるて言うだろうな、と直観ですかね。

 どんな経緯でも僕たちのところにきてくれた子ですから、絶対に大事にしたい、て思いました。

 こういう時、言葉はいらないです。

 妻と目がバチっと合って、全てをわかり合う、そんなかんじ。

 もしかしたら、親が名乗り出てくる可能性もあるとかないとか言われて乳児院を少しの間、利用しました。

 子育てで大変だったことですか?

 今でも覚えてることは学校に行く前に僕がマリの髪を結っていたときです。


「マリの髪は綺麗だね」


「…。学校で変な色て言われた」


「綺麗だからヤキモチやいたんじゃない?」


「気持ち悪いて。ま、マリは男のくせに、お、女みたいだて。ま、マリはお父さんお母さんの子じゃない、す、捨て子だって。変だって。うっ。うっ。学校なんかもうやだ。行きたくない。ううっ。」


「マリ、マリ、大丈夫だよ。マリ、こんな日はいつかくるんじゃないかてお父さんは想像していたんだ。マリ、どんなことがあっても覚えてて。マリはマリだよ。マリのお父さんは僕で、お母さんは僕の妻だよ。血の繋がりでも、見た目でもなく僕たちは家族だ。これは絶対だ。マリ、どんなマリも僕たちには大切なマリなんだ。これも絶対だ。マリ、大丈夫。僕はどんなマリも大好きだよ、大丈夫。絶対、絶対、大丈夫」


 その日からマリは学校に行かなくなりました。

だったら好きなところに行こう、て妻が提案して。

 たのしかったな。

 変な言い方ですが、マリが不登校になってくれたおかげで僕たち家族はたくさん話し合うことができて、一緒の時間を過ごせたんです。

 マリが世界的なデザナーになるなんて、あの頃の私たちには想像もできなかったけど、今なら納得できます。

 あの時の苦しみや辛い時期が未来の今の僕たちを支えているんですね。

 子育ては最高です。




――――――――――――――――――

(閣下の回想)


「閣下、ご無沙汰しております」


 あれはなんのパーティーだったかな。

初めて会ったはずなのに、ご無沙汰していますと言われて、はて、どこでお会いしただろうかと思いました。

 見た目が印象的ですからね、忘れるわけがないと思っていました。

 もう一度話しかけようと思うと、まるでシンデレラのみたいに姿を消したので、こうなると、気になるでしょ。

 ありとあらゆる手を使って調べましたよ。

 いやー、不思議な経歴の子でしたね。

 世界的なデザイン賞の数々総なめにし、コスプレ業界では知らぬ者はいないそうで。

 出自も少々調べさせていただきました。

 なーに、なんてことはありませんよ。

 女装好きの男なんて、この世界じゃ多いですよ。

 圧倒的な才能を持つ天才ならそれくらいじゃなくちゃ面白くないでしょ。

 ココだけの話、カネを生み出すニオイがプンプンするんですよ。

 わたしが最初に見つけたんですよ、金の卵。

 はっはは。

 カネは動かして育てるに限りますからね、我が娘とくっつけて自分のものにしちゃおうかな〜なんて。

 はっはは。

 

 「閣下には前世でお会いしているので初めてではありません。前世では金魚を育てられないと子どもたちに声をかけた母親です」


 ふん。

 なにを言っているのか、サッパリわからぬわ。

 頭のネジが二、三飛び出しとるのだろう。

 まあ、みてなさい。

 大人の力を。

 はっはは。


 

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