魔法国家マギステア
バアルが体内に入ったまま、バアルの封印されていた図書館から外に出る。
封印されていたのは街中のようで、外に出た瞬間光が差し込んでくる。
うっ! ま、眩しい。
『太陽でそんなにダメージを喰らうってリク君は何の種族なの?』
「普通のひきこもり陰キャな人間だよ」
そういえば俺は、昼に外出するのは久しぶりだった。
『いんきゃ? 吸血鬼みたいな?』
「日本にも多数生息している、仕事もせずに夜間に活動して滅多に自分の家から出てこない種族だ、日光と人の視線に弱い」
『吸血鬼じゃん』
……返す言葉がない。
ひきこもり陰キャって吸血鬼だったのか。
そんなことを考えていると目が光に慣れてきて、街が見えてくる。
温かい太陽が体をぽかぽかと照らしてくれて、気持ちのいい冷たい風が俺の頬を撫でる。
視界一杯に広がる街には笑顔を浮かべた人々が歩き回っていた。
ただし、日本とは違い戦士や魔法使いのコスプレのような恰好をしている人が多い。
目の前の広場には露店がいくつも並んでいた。
ある露店では気のよさそうなお兄さんが手のひらから炎を出し、串焼きを焼いて売っている。
店の前では、小柄な人形が生きているかのようにタップダンスを踊り客寄せをしていた。
ま、魔法だ。
「う、おおお……」
『ここは全世界から優秀な魔法使いが集まる魔法国家マギステア。魔法と魔道具の研究で成り上がった国よ』
魔法国家マギステア。
確かにところどころで魔法や魔道具を使っている人たちが目に入る。
そんなことを考えていると、頭上を何かが通り過ぎた。
ふっと視線を向けると、魔女のような恰好をした女性が箒に乗って飛んでいる。
と、飛んでる! 俺も乗りたい!!
『リク君目がきらっきらしてるよ』
「だって空飛んでるんだぞ! 俺あれやりたい!」
『今度私が『飛行魔法』は教えてあげるから、今日は生活基盤を整えよ? ね?』
「教えてくれるのか!? 約束だからな!!」
俺をなだめるように優しい声色でそう言ってくるバアル。
やばいめっちゃ楽しみ。
まずはバアルの言う通り、生活基盤を整えないといけないんだが……どうしたもんか。
「今のところって俺、ただのホームレスだよな」
『今のリク君はホームレスどころか赤ちゃんだよ。この世界の人間は成長と共にレベルを上げて技術スキルを身に着けるのが当り前だから。自分のレベルが1で技術スキルすら覚えてないなんて、この世界を探しても君だけしかいないと思うよ?』
「……マジ?」
『大マジ、この世界はステータスが物を言うから、今のリク君はそこら辺の子供相手にも力負けすると思うよ』
あまりに俺が弱すぎる。
あの自称神が日本人に『ユニークスキル』を渡している理由が分かった。
ご飯代もないのだ、とにかく金を稼がないと死んでしまう……。
「じゃあ適当に働くか?」
『良い案だけど、今のステータスだと肉体労働すらまともに出来ないかもしれないね』
「じゃあこのままだと死ぬじゃん!」
人生最大のピンチに冷や汗が出てくる。
異世界に来て餓死って全然笑えない!
俺が得意な事……全くない、プライドが皆無なくらいか。
「よしバアル、乞食でもするか」
『い、嫌だよ!! キミ本気で七大罪の大悪魔に乞食させる気なの!?』
「じゃあどうするんだよ、今のところ乞食が最善策だと思ってるぞ」
『分かったから! ちょっと案を考えるから待って! ……全く……とんでもない子と契約しちゃったのかな?』
ぶつぶつと言いながらバアルは慌てて作戦を考え出す。
『よし! 魔法ギルドの〈大魔導師の学び宿〉に登録しよう!』
「魔法ギルド? なんだそれ?」
『そっか、リク君の世界にはないんだね……軽く説明してあげよう』
その後のバアルがつらつらと説明を始めた。
まずは冒険者について。
冒険者ギルドに所属し、魔物討伐や護衛任務などの様々な依頼を受け、生計を立てる者たちの総称である。
もちろん依頼だけでなくダンジョンなどの未知の場所を探検したり、魔道具の開発などで生計を立てる者もいるそうだ。
魔法ギルドとは冒険者ギルドの一種の呼び方であり、他にも戦士ギルドや狩人ギルドなどもあるが本質はすべて同じである。
そこに所属する冒険者たちの得意分野でなんと呼ばれるか決まるのだ。
魔法が得意な冒険者が多いギルドなら魔法ギルド、近接戦闘が得意なら戦士ギルドなどといった風。
〈大魔導師の学び舎〉はそんな魔法ギルドの一種で、500年前から続いているかなり歴史のある有名なギルドだそうだ。
「でも冒険者になったところで俺が魔物討伐なんて出来るの? めっちゃ怖そうなんだけど」
『普通の魔物ならユニークスキルがあれば何とかなるとは思うよ、ユニークスキルは特別強力な魔法だからね』
そんなこと言われても……。
俺は運動音痴すぎて、跳び箱で複雑骨折したことすらある。
魔物と戦う自信なんて一ミリも湧いてこない。
『それにリク君は気づいてないかもしれないけど、キミには魔法の才能があるよ』
「えっ?」
『勇者召喚の影響なのか、キミは魔力量の器が異常なほど大きい。今のところは少ないけど、これから増え続けていくだろう。リク君は大魔導使いになれる器だよ』
バアルはおだてるわけでもなく、真剣な声色で褒めてくれる。
前世でもあまり褒められることは少なかったので普通に嬉しい。
ちょっと頑張ってみるか。




