『天空魔法』
「―――あぁ……ばあちゃんがあっちで手を振って……はぁっ!」
汗だくのまま飛び起きる。
危ねぇ! あの世初めて見た!!
目を覚ますと、先ほどと同じ本に囲まれた部屋だった。
いや、紫色の魔法陣が消えている。
それにバアルの姿も見えない。
『あ、目を覚ました。私の声は聞こえる?』
「うおっ!? なんだこれ!?」
突然頭の中にバアルの声が響いて聞こえた。
『契約の影響で、リク君の体の中にいるんだよ。声は念話の魔法で飛ばしてるよ』
「体の中ってどういうことだ?」
『文字通り、体の中にいるよ』
バアルがそう言った直後、俺の腹から女の子の右手が生えてきた。
「うわっ! 気持ち悪い!」
『あーっ! いたいけな女の子に向かって気持ち悪いって言った!?』
「あ、すんません」
美少女だとは思っていたが、悪魔にも性別とかってあるんだな。
そのままバアル右手が中指を立てたので無言でひっぱたくと、静かに体の中に戻っていった。
『いった……それと、リク君の体に悪影響とかはないから安心して』
よかったよ。
……今俺の体から人の右手が出てきたのか。
冷静になると、悪魔と契約ってすごいことなんだな。
そんなことを考えていると、バアルが俺の体から飛び出してきた。
「さてさて! さっそく色々準備をしましょう!」
「準備?」
「キミ、今のところ無一文の住所不定無職だからね? まずは何が出来るか確認しないと」
「うっ」
しれっとそんなことを言うバアル。
流石悪魔、口撃力が高いようだ。
「それだと、ユニークスキル? を試したりするのか?」
「その通り! キミがどんな魔法を持ってるか、一体何が出来るかをまず確認しよう!」
「なるほど……」
確か、俺は『天空魔法』とやらを貰ったんだっけか。
「どうやって使えばいいんだ?」
「ふふふ、じゃあこのバアル先生が教えてあげようじゃないか。まずはこの世界の魔法は誰でも覚えられる『スキル』と選ばれた人物にしか発現しない『ユニークスキル』の二つに分けられるんです。まず、リクは自分の魔法が何か分かる?」
この魔法を貰うときに、『天空魔法』って聞いたな。
確か神様がそんな感じの事を言っていた記憶がある。
「『天空魔法』って名前だったかな?確か天候が操れるとかは聞いたけど、ちゃんとした効果が分からないんだよな」
「しょうがないわねぇ……、だったら私の発明品の出番ね!!」
バアルは嬉しそうに懐から何かの眼鏡を取り出した。
片側だけの金縁眼鏡で、右目に着けるようのものだ。
モノクルって言うんだっけ?
「これはキミのステータスを見ることが出来る発明品、見る見るチェック君だよ!」
「なんて?」
「見る見るチェック君!」
名前がダサすぎる。
思わずバアルをジト目で見つめるが、イキイキと鼻息を拭いているだけで無自覚らしい。
……触れない方がいいやつかも。
「で、このモノクルは何が出来るんだ?」
「見る見るチェック君ね。これを使うと、鑑定魔法が使えなくても相手の使える魔法の効果が見えるっていう素晴らしい魔道具だよ」
「魔道具?」
「あっそっか。リク君の世界には魔法がないんだっけ? 分かりやすく言えば魔法を使った道具だね。この中には『鑑定魔法』っていう能力を見るための魔法が込められているんだ」
そう言うバアルから魔道具と言われたモノクルを受け取って、自分の右目に着ける。
『鑑定魔法』が込めてある魔道具。
パッと見ただのモノクルにしか見えないな。
その後自分の体を見てみると、半透明の文字がモノクルに浮き上がってきた。
『雨垂理久』Lv1
HP 100
MP 1000
力 3
防御 10
器用さ 15
速度 40
運 1
≪スキル≫ 『悪魔契約』Lv1
≪ユニークスキル≫ 『天空魔法』Lv1
ゲームみたいなステータスが浮き上がってきた。すげぇ。
力と運低くないか……?
と、とりあえず気にしないでおこう。
だがスキル? というのは良く分からないな。
そのままスキルを注視していると、さらに画面が変わり二つの魔法が現れた。
『悪魔契約魔法』Lv1
悪魔と契約するためのスキル。
レベルが上がれば上がるほど、悪魔との繋がりは強くなる。
Lv1 『コントラスト』
『天空魔法』Lv1
空を支配下におき、森羅万象を操る魔法。
Lv1 『雲操作』『気象再現』
「これは覚えておいてほしい話ね。
魔法は使えば使うほど習熟度が溜まり、魔法のレベルが上がって使える魔法が増えていくの、リクはまだ『天空魔法』を使いこんでないから、レベルは1だと思うわ」
ふむ。
魔法は何回も使ってコツコツ練習するのが大事なのか。
そうして、魔法のレベルを上げていくと、使える魔法の種類を増えると。
「『悪魔契約』ってのは?」
「ああ、リク君が私と契約したから覚えたんだろうね。
スキルにも種類があって、魔法と技術スキルの二種類があるの。
代表的な技術スキルを上げると剣術とか、鍛冶とか。逆に、リク君のユニークスキル『天空魔法』は名前の通りに魔法スキル」
その後のバアルの話を要約すると、
名前に魔法がついていたら魔法スキル、ついていなかったら技術スキルと覚えたらいいらしい。
「『気象再現』と、『雲操作』ってのがあるな」
「聞いたことない魔法だけど……大体の予想は出来るね」
まずは、『雲操作』とやらを使ってみるか。
「魔法を発動するには、頭の中で発動を念じて、具体的なイメージをするのが大事よ」
「よしきた! まかせろ!」
初の魔法にワクワクしながら念じる。
『雲操作』!!
が、何も発動しない。
「あれ? 何も起きないぞ?」
「えっ? 魔法が使えない体質の人もこの世界にはいるけど……私と契約出来てる時点で魔法の適正は有ると思うし……あぁ! 発動条件があるタイプかな?」
ぶつぶつと考察を続けるバアル。
「発動条件?」
「そうそう! 多分操作対象を視界にいれないとダメなタイプの魔法なんだと思う! そもそも発動条件があるタイプの魔法は200年前の研究までさかのぼるんだけど!」
興奮しながら俺に顔を近づけるバアル。
ふわっと甘い匂いがして、ドキドキする。
ち、近い!
慌ててバアルを見るが、魔法の説明に夢中で気づいていないようだ。
頼むから自分の顔が良いことを自覚してほしい。
「要するに『天空魔法』には発動対象である雲が必要なんだよね」
「雲かぁ」
「この大悪魔に任せなさい! 疑似的な雲くらいなら簡単な魔法の組み合わせで……」
バアルが両手を出し、集中し始める。
バアルの左手が小さな炎、右手からは水の球が発生する。
魔力らしき何かがバアルの両手の間に集まり、雲らしきもふもふとした白い塊が発生した。
「これ、雲か? なんか俺の世界のやつと違うような……?」
「多少はリク君の世界と違うところもあるんじゃない? ま、細かいことは気にせず練習に移ろう! 手、出して?」
「手?」
言われた通りに右手を出すとペタペタとバアルが触りだした。
へっ!?
「きょ、距離が近い!」
「あっ嫌だった? ごめんね?」
少し心配そうな顔でこちらを見てくるバアル。
別に嫌とかではないけど緊張するから勘弁してほしい。
バアルが触っていた俺の右手の中指に、青色の宝石の埋め込まれた指輪がつけられていた。
なんだこれ?
「これは≪プライドリング≫超人気アイテムである≪初心者魔法使い用リング≫を勝手に改造した魔道具だよ」
「これバアルが作ったのか?」
「そうそう、名前は私が決めたわけではないんだけど……」
≪プライドリング≫と呼ばれた指輪はうっすらと怪しい光を放っている。
なんか、若干邪悪な雰囲気を感じる。
「使用者の魔法的な能力をサポートしてくれる魔道具で。魔力操作補助、魔法の習熟率上昇、魔法的耐性上昇、と様々な能力を持った魔道具だよ! はい大天才バアル様に拍手!」
「そりゃすごい」
自信作なのだろう、胸を突き出しドヤ顔をするバアル。
魔法の習熟度上昇って、魔法のレベルが上がりやすくなるってことだよな。
ってことは他の魔法使いよりも早く成長出来るってことだろう。
さっきのモノクルも便利だが、これは先ほどよりも凄い魔道具な気がする。
「さっそく『天空魔法』のお披露目と行こうよ!!」
待ちきれないといった様子でバアルが目を輝かせながらこちらを見ている。
バアルは魔法が好きなようだ。
早速やってみようと、ゆったりと浮かぶ目の前の雲に目を向ける。
まず『雲操作』とやらを試すか。
目下に浮かび上がっている雲を見つめながら集中する。
イメージだ。
雲が動き、俺の手元まで移動するイメージ。
雲を睨みながらひたすらに念じていると、何かが発動した感覚がする。
ぐぐぐ、と雲の一部が切り取られ、空中を漂いながら俺の傍によってくる。
大きさにしてバスケットボール大だろうか。
そのままイメージを動かす。
矢、剣、銃と、思いのままに雲の形は変わった。
バアルが興奮した様子で俺の肩に手を置く。
「すごいすごい! やっぱりユニークスキルは魔法としての格が違うね!」
胸がドキドキする。
魔法を始めて目にしてテンションが上がっているのか、バアルからめっちゃいい匂いがするせいかは分からない。
ほぼ後者な気がするが、分からないことにしておく。
次! もう一つの『気象再現』!
気持ちを切り替えてイメージを膨らます。
名前からして、俺の知っている天気を再現するとかだろうか??
例えば、雨とかか?
そんなことを思うと、手のひらの上で浮かせていた雲からしとしとと雨が降り出す。
シャワーくらいの強さだろうか。
冷たい。
同様に雪も試してみるが、同じように成功する。
すげぇ! 本当に俺の手のひらの上に魔法が……!!
「ふーむ。見たところ雲に含まれている魔力を使ってるみたいだね、雲の大きさによって持続時間と威力が変わるってところかな。多分威力を上げることも出来るけど、持続時間が減るみたいな事になっちゃうだろうね」
バアルが雪を降らせている雲を観察しながら早口で喋る。
確かに言う通り、雨が降るにつれて段々と雲が小さくなっているように見える。
「見ただけでわかるものなのか?」
「私は魔法の威力は弱いほうだけど、魔法の繊細な操作に関しては誰にも負けない自信があるからね! 『鑑定魔法』や魔力詳細調査のためにも10個ほど観察系の魔法を重ねているからね」
バアルが笑いながら自分の右目を指さすと、バアルの右目には何かの魔法陣が何重にも浮かび上がっていた。
か、カッコいい! 俺もそういうのやりたい……!
しばらく雲を見た後、バアルが目を閉じると魔法陣がふっと消えた。
「どうやら『気象再現』の拡張性は信じられないくらい広いみたいだ。しかもリク君のイメージに依存しているみたいだから、多分リク君の知っている気象なら大体は発動できるんじゃないかな」
顎に指を当て、深く考えているバアル。
知っている天候、雷とかも行けるってことか?
昔、家の近くに落ちてきたことがあったが、とんでもない威力だった。
もし再現出来るとしたら雲から飛んで行くのだろうか。
――――バチバチバチィ!!
そう思った瞬間、弾けるような爆音と共に、雲から光と衝撃が走った。
部屋中に突風が吹き荒れ、衝撃が伝わり、その後、バアルの顔を紫電が掠めた。
バアルは真っ青な顔色を浮かべピタリとも動かない。
「ひぅっ……」
「えっ? はっ?」
慌てて手元を見ると雲が完全に消滅していた。
『気象再現』で雷が発生したのか? 俺が雷をイメージしたから??
「あ、あぶあぶ、危ない……」
「待ってごめん! 大丈夫かバアル!?」
「し、しぬ……」
慌ててバアルに近寄るが、傷は出来ていないようでよかった。
髪の毛がちょっと焦げているが……ご、誤差みたいなものだ!
バアルの後ろにある本棚を見ると、直撃した部分は焼け焦げていた。
威力がやばすぎるだろ、なんだこの危険魔法!?




