悪魔との出会い
「我の名前はバアル、≪傲慢≫なる罪と生きる大悪魔」
「ど、どうも……」
目覚めるとバアルと名乗る自称悪魔が目の前にいた。
ただしテレビでもめったに見ないような美少女だ。
俺と同い年くらいだろうか。
透き通るような白い肌に整った顔。
肩で切りそろえられている髪は雪のように輝く純白。
ただし目の下の異常なまでの黒いくまが、美人の雰囲気をぶち壊しにしていた。
見るからに不健康そうな女の子である。
「よくぞ来たな、異世界人よ。この世界の名はファンタジア」
そんな可愛い子が仰々しい喋り方をしているので違和感を感じる。
自称悪魔の痛い子だろうか。
落ち着くために深呼吸をすると古い本の匂いがした。
図書館とかで良くするいい匂いだ。
俺が立っている部屋は大量の本棚に囲まれていて、薄暗い雰囲気が部屋を包んでいる。
その部屋の中心に紫色に光る魔法陣が浮かんでいた。
そこだ。
その魔法陣の中心に自称悪魔が浮いていた。
「浮いてる……」
「む? ああ、これは封印の魔法陣でな。我の力を封じる力がある」
封印されてるって、やばいんじゃないか?
RPGゲームなどは良くやるけど、封印されてるのは大抵危険な魔物だ。
ていうか。
確か安全な街中とかに飛ばすって言ってなかったか?
何がどうなったら悪魔の目の前に召喚される状況になるんだ。
混乱が顔に出ていたのか、美少女が俺の顔を見て頷く。
「うむ、突然異世界に放り出されて混乱ももっともであろう。そこでだ、我と契約をしないか?」
「え、嫌です」
「へっ?」
ガクッと美少女が体制を崩した。
いや。
いきなり契約とか言われても胡散臭いし……。
そもそも見た目は美少女に見えるが、悪いことをしてなかったら封印されないだろ。
「えっと、わ、我と契約するというのは本当に光栄な事なんだぞ? 少しは考えてもいいのではないか?」
「結構です、なんだか裏がありそうなので」
「そうだ! 願いを言ってみて! 私がなんでも叶えてあげるよ!!」
わたわたと体をせわしなく動かし、懇願する美少女。
口調が崩れてきてるし、最初の威厳が台無しだなぁ。
「それ悪い悪魔が人間をたぶらかすときのセリフじゃん」
「ち、違う! ほんとにお互いメリットがある契約なの! だからちょっと話だけでも!!」
「新聞と悪魔は断れってのがうちの家訓なので」
「しっ、新聞!? こともあろうに七大罪との契約が新聞と同じレベル!? キミちょっとこっちに来てもらえる!? ちゃんと説明してあげるから!!」
こほんと咳をした後身なりを整える自称悪魔。
七大罪とか物騒なことを言っている割に、気の抜ける奴だな。
「あぁもうせっかくかっこつけてたのに……はぁ、改めて私はバアル! キミは?」
「雨垂理久です」
「リク君ね、よろしく!」
気さくに右手を出してくるバアル。
こちらも手を出して握手をすると、顔が近づいてきてあまりの美少女さにドキドキしてくる。
透き通るような白い肌に、鈴を転がしたような声色。
パッチリとした二重に長いまつげ、その中のきらめく星のような目に引き込まれる。
あまりの綺麗さに目が離せない。
「よ、よろしくお願いします」
「敬語じゃなくていいから! まずは状況を軽く説明するね」
「助かるよ」
そういってバアルはつらつらと話を始めた。
いわく、このファンタジアはRPGゲームのような剣と魔法の世界で、魔王と勇者が戦争をしているらしい。
魔王は魔物と呼ばれる生き物たちを率いて人間の侵攻し、勇者は人間達の代表として魔王を討たんと戦う。
驚いたことに、今いる勇者は神様から聞いた俺以外に召喚されたもう一人の日本人らしい。
わざわざ戦争に首を突っ込むなんてよっぽどお人よしなのだろう。
大事なのはここから。
勇者というのは何か。
それは、『ユニークスキル』を持つものらしい。
そう、俺も『天空魔法』と呼ばれる魔法を神様からもらった。
バアルいわく、日本人は召喚されると国に確保され、勇者として魔王軍との戦いに駆り出されていたそうだ。
なんだかきな臭い話だ。
「勇者ってゲームみたいな話だなぁ……」
「他人事じゃないよ、リク君も勇者なんだから」
「ん? え?」
「リク君は異世界転生魔法、人間達で言うところの勇者召喚魔法でここに来たんだよ」
「俺が、勇者?」
言ってて口がムズムズする。
勇者ってあのゲームで出てくる、悪を打ち倒して世界を救う勇者?
「この部屋から出て行って国の兵士にでも言ったら、すぐに手厚く保護してもらえると思うけど、そうする?」
「その場合って保護された後、どうなるんだ?」
「まぁ、2人目の勇者として祭り上げて世界を救う旅を始めることになるんじゃない? よくわからないけど」
適当だなぁ……。
俺の気持ちが表情に出ていたのか、バアルが手を振って怒り出す。
「しょうがないじゃん! 世の中の事なんて知らないよ! 私悪魔だし!!」
「わ、悪いな」
「でもそっちはおすすめしないよ、自分を犠牲にして魔王を討伐したいって言うなら止めはしないけど……」
「1ミリも思わない、働きたくもない」
そもそも転生するときにも、あの神様?にも特に何かしろって言われてないしなぁ。
魔物と命がけの戦いをして、この見ず知らずの世界を救う?
全くピンとこない。
「キミってば変なやつだね……まぁその話は一回置いときましょう! それより契約についての話をしないと!」
「それで契約? って何なんだ?」
「悪魔と人間は契約をすることで協力関係を結ぶ習慣があるの。よくあるイメージなんだけど、魂を取ったりとか、寿命を貰ったりってのは基本ないわよ」
ふむ。
「私は今封印されているから、人間と契約をしないとここから出ることが出来ないのよ。もし契約をしてくれたら私が力を貸してあげる」
ふむふむ。
確かに俺はこの世界について右も左も分からないし、正直助かる。
バアルも悪い奴ではなさそうだし。
「契約はいいけど、なんでバアルは封印されてるんだ?」
「昔、遊び半分でえらーい王様に呪いをかけたらここにぶち込まれちゃったの」
「……馬鹿じゃねぇの? ちなみに何の魔法なんだ?」
「ラップ調でしか喋られなくなる魔法」
「馬鹿じゃねぇの!?」
そんな悪ふざけで封印されてんのかよ!!
「中々パッションのこもったいいリリックだった」
やかましいわ。
なんだこのふざけた悪魔は。
「そんなこんなで500年経っちゃって、いい加減飽きたんだよね、ここ」
はーやれやれとため息をつきながら首を振るバアル。
500年封印された割にノリが軽いな、というかこいつ何歳だよ。
「厳重な封印を見て、王様の子孫が私の事を危険な悪魔だと勘違いしちゃったみたい。それで封印はそのままにされちゃって。実際はラップの呪いをかけただけの悪魔なのにウケるよね」
「いや500年は笑い話じゃねぇよ、というか俺以外と契約して封印から脱出しようとしなかったの?」
「危険な悪魔がいる部屋に入ってくる人間なんて、転移魔法で直接部屋に入れられたキミみたいな人しかいないよ」
そう言われればそうか。
何でもないようにそんなことを言うバアル。
……契約か……まぁ、良いか。
まだ会って数分だが、バアルは良い奴っぽいし。適当だけど。
せっかくの異世界だし、色んな事に挑戦してみるか!
「よしわかった! 契約しよう!」
「……へ? ほ、ほんとに!?」
「ああ、なんだか分からないけど助けてくれたみたいだしな」
「ありがとう! 助かったよぉ!!」
笑顔を浮かべて飛び跳ねるバアル。
ちょっと可愛い。
「じゃあ、契約しちゃうから! 頑張って耐えて」
「え? 耐えるって何を?」
「契約するときに激痛が走るから」
ん?
ちょっと話が違うな。
バアルと距離を置こうとした瞬間、右手を掴まれる。
不意に手を握られてドキッとするが今はそれどころではない。
『七大罪の原典≪傲慢≫の悪魔バアル・ペオルとの契約を履行します』
頭の中で何かの声が聞こえる。
腕を掴まれた部分から、相手が理解出来ないような存在であることが伝わってくる。
これは人の身に余る存在だ。
そんな闇が俺を見ている。
不気味で、おぞましくて、見たこともないくらい莫大な闇だ。
その闇が、俺に流れ込もうと準備をしているのだ
「やっぱりやめとこうかな」
「もう遅いよ、さっき同意したからね」
「離してもらえるかな、バアル」
「遅いよ、歯を食いしばりなさい」
バアルの手を離させるために右手に力を入れるが、その努力むなしく全身に電撃が走ったような衝撃がががががが!!




