プロローグ
俺の名前は雨垂 理久、17歳。
普通のひきこもり高校生だ。
俺はひきこもりであることに誇りを持っている、一流のひきこもりだ。
考えてみてほしい、週に5回学校に通わないといけない高校生と比べて、好きな時に寝て好きな時に食べる。
素晴らしい生き方だ、まさにワークライフバランス。
寂しくないのかと言われたこともあるが、とっくの昔に乗り越えた。
今日も暇つぶしのために新作のRPGゲームを起動したとき。
ふと窓の外の景色が目に入った。
窓の外には美しい満天の星空が広がり、少し涼しい夜風が肌にあたる。
鈴虫の静かな鳴き声が聞こえてきて、凄く心地が良い。
肩の力を抜きながら星空を眺めていると、一筋の光が落ちていくのが見える。
おお、流れ星だ。
そういえば、今日テレビで流れ星が見えるとか言っていたなぁ……。
ぼーっと何も考えずに眺める。
ひきこもりは感性に余裕があるため星だって楽しめるのだ。
また一つの光が落ちて来て、流れ星に変わる。
すると、その流れ星はくるりと綺麗な〇を描いた。
は?
「流れ星ってあんな動きしなくね?」
思わず口に出すのもつかの間、流れ星は方向を変える。
変えたというか……こっち来てね?
ぐんぐんと距離を詰めてくる流れ星。恐怖である。
瞬きをすると、流れ星は目の前まで迫ってきていた。
そのとんでもないスピードを維持したまま部屋の窓目掛けて飛び込んでくる!!
「うおぉぉぉぉぉぉお!!! あっぶねぇぇぇぇ!!」
思わずローリング回避を繰り出し、なんとか流れ星の軌道から体をずらす。
た、助かった! あと少しで死ぬところだった!!
そう思った瞬間、流れ星の軌道がくくっと曲がり、俺の頭に直撃した。
「――――あなたはシンカーで飛んできた流れ星が頭に当たって死にました」
目の前の人が突然そんなことを言い出した。
この人は頭でもうったのだろうか?
「頭をうったのはあなたですよ……」
少し呆れたような顔を浮かべる相手。
顔の部分は靄がかかっていることだけがわかり、はっきりと認識出来ない。
そのくせなぜかスーツを着ていて、清潔感のある恰好をしている。
この人は、明らかに人知の及ぶ生き物ではないと思う。
というか人なのか? さっきから俺の心をナチュラルに読んでるし。
「あらあら、なかなかあなたは頭が回るようですね。ご察しの通り、私は人知を超える何かです。まぁ便宜上神としておきましょうか」
そんなことを神様はあっけらかんと言い放った。
どうも、というか俺はどうなってるんですか?
「亡くなってしまいました、この度はお悔やみ申し上げます」
少し申し訳なさそうな雰囲気を出しながら、頭を下げる神様。
このセリフを当事者で聞けたのって俺が人類初なのではないだろうか。
「よ、余裕がありますね! あなた!」
そりゃもちろんびっくりする気持ちはあるが、なぜか落ち着いているのだからしょうがないでしょ。
「頭が吹っ飛んでしまった影響でしょうか……? やけに感情が落ち着き過ぎているような……」
物騒なことを言う相手を放っておいて、周りを見渡すと一面真っ白な空間が広がっていた。
そんなことよりここはどこです?
「ここは魂の通り道、あの世とこの世を繋ぐ道であり、魂の不具合をチェックする場所です」
こいつが何言ってるか全くわかんねぇが、とにかく俺は死んだってことだろう。
「心の中だからって何言っても良いと思ってませんか!? 一応目上の人ですからね、私!」
いえ、全く。
「ほんとかなぁ……? まあそれより、今回なんですが、あなたにはあの世には行ってもらいません」
へ? 死んだのに?
「死んだのにです! 特例としてあなたに新たな体を与えて、私の世界、つまり異世界に行ってもらいます!」
もしかして……また生き返れるってことか?
「はい、あなた方の世界風に言うと剣と魔法の世界というのが近いでしょうか。そこに転生してもらいます」
え、良いの!?
というかなんでわざわざそんなことをしてくれるんだ!?
「そういうシステムというか……魂の通り道の詰まりを取るために、たまに異世界同士で魂を循環させないといけないのです。言ってしまえば、あなたにはあちらの世界に行ってもらうこと自体が目的です」
もう一度生き返れるってことか……そりゃ本当にありがたいが、良いのか?
「もちろんです! これはお互いにとってWin-Winな取引なのですから! それに加えて今なら特別特典もお付けしますよ!」
あ、ありがてぇ。
シンカーの流れ星とかいう大喜利みたいな死に方じゃ流石に人生終われない。
「それは私も本当に同情します……体は綺麗に再生させておきますよ。……さらにあなたが送られる場所は比較的平和な街に設定しました」
やけに慣れてるなぁ。
「この儀式は何度もやっているので慣れているんですよ、1時間前にも、もう1人の日本人を送ったとこですし」
なるほど。
だったら日本人はそんなにレアじゃない感じなのか。
「いいえ、かなり希少ですよ。100年に1人送るとかなんで」
え? さっき一人送ったって言ってたじゃん。
「企業秘密なのであまり詳しくは言えないのですが、同じ時代に2人も日本人がいるのはかなり特殊な例ですね」
神様って会社勤めなんだ。
神様はてきぱきと慣れた様子で説明を続けると、最後にピタリと止まった。
「では最後にあなたの人生を支えるユニークスキルを贈りましょう」
ユニークスキル?
「そう、またの名を固有魔法。唯一にして特異な力のことです。心に絡みつき、共に成長し、そして未来を切り開く物。これはとても珍しいもので1万人に1人しか持っていないんですよ」
そんな良いものを貰えるのか。
「はい、日本人に何も渡さないと皆さんすぐ亡くなってしまうので、向こうに転生する人にはプレゼントとして渡してるんですよ」
な、なるほど。
確かにいきなりRPGみたいな世界に送られても、戦争の経験もない日本人なら死んでしまうか。
そんなことを考えていると、神様が突如俺の頭に手をかざした。
その後、パチン頭の中で何かが弾ける音がした。
「あなたのユニークスキルは『天空魔法』、天候を意のままに操る魔法です。」
天空魔法。
雨を降らせたり出来るみたいな?
「それは『天空魔法』の表面的な部分です。これはこの世の深淵にすら触れてしまう魔術ですよ」
そんな物騒なもの渡されても……。
「ふふふ、刃物だって使い方次第ですよ。愉快な理久さん」
神様が初めて俺の名前を呼ぶと同時に、俺の意識が遠のき始める。
ああ、異世界とやらに行くのか。
「人のために生きた謙虚なあなたに、どうか自由な生活を」
そんな意味深な言葉を聞きながら、意識がだんだんと遠のいて……




