救いの天使は優しくない
私は天使だ。
頭の上には光る輪っか。
背中には一対の純白の翼。
髪は絹のような白金。
目はライトイエローで人とは違う縦長の瞳孔がある。
まさに人々が思い描く天使の姿。
だけど、それって理不尽だ。
ほんの少しでもその理想とやらから外れるだけで失望される。
翼なんて、おしゃれの邪魔。
光る輪っかなんて、目元がまぶしいだけ。
それに、私は元々、優しい人じゃなかった。
天使みたいな人じゃなかった。
だから、期待しないでよ。
救済なんて望まないで。
なんでもできるなんて、そんなわけないじゃん。
奇跡なんて、起こせないんだよ。
「天使。仕事の時間だ。」
神様。天使の私を作った神様。
1柱の神様は1人の天使しか有することができない。
天使の仕事は神様の“使命”を手伝うこと。
私の神様の“使命”は人類に平等を与えること。
幸運だったり、人権だったり。
今の人間世界には不平等が多すぎる。
私は好きでこの神様の下で働いているわけではない。
平等なんて、私にはなかったのに。ないのに。
天使なんて、全く以て素晴らしくない。
「1人目のターゲットはこの人類だ。」
紙を渡される。
ターゲットは日本人。女性。
いわゆる宗教2世っていうやつ。
親が宗教に貢ぐから貧乏。
価値観が人と違うからいじめられる。
「幸運が足りないだけ。接触する。」
幸運が足りない。
それに対抗する手立ては1つ。
私がその人に触れて、幸運が多い人から回収した幸運を分け与えること。
そう。文字通り“接触”することが条件。
そしてその接触、というのは魂と魂が繋がるような接触でなくてはならない。
つまり、感情の元に成り立つ接触。
友達では少し足りないから、せめて親友、できれば恋人が望ましい。
私の演技力では男性の演技なんて不可能。つまり、今回狙うべきは親友枠。
「行ってきます。」
天界から人間界までは翼を使えばひとっ飛びだ。
人気のない土地に降り立ったら、翼を消して、黒目黒髪に変える。ターゲットが通っている高校の制服を作って、着る。
ターゲットの高校に私が転校するとする。このくらいの現実改変なんて、もう慣れた。少し洗脳して書類を書き換えるだけだ。
今はどうやら朝らしい。
さあ、ターゲットの観察をしつつ高校に行こう。
ターゲットが家から出た。尾行する。
ターゲットは共に通学する仲間がいない。ぼっちだ。
歩いて、電車に乗って、バスに乗って、また歩く。
その間ターゲットに話しかける存在はいない。
周りの同じ学校の生徒たちはターゲットを視界に入れない。
これは、なかなか骨が折れそう。
転校生として入学した私は、ターゲットの隣の席に座る。天使として少し皆の認識を変えただけだ。悪いことはしていない。
「あのっ、次の移動教室ってっ、どこに行くんですかっ⁉︎」
大体、こういうぼっちなターゲットを攻略するには、同類の人類を演じるのが正しい。私はこういう演技が得意だ。
「こ、こっち。、、、」
コンタクト成功。返事が返ってきただけでマシと言える。
ここからは第2段階。
思考を切り替える。
私はターゲット、もといこの子が好き。
友達になりたいと思っている。
そう、思い込む。
——————
昼ごはんを共にする、というのは友達への第一歩だと思う。
というわけで、私はこの子とお昼ご飯を食べる。
少しずつ、なんでもないことを話す。
それはある種の信頼関係だと思う。
午後。
化学の授業でチームワークがあった。
私とこの子は2人で実験をすることになった。
これはもう、友達って言っていいよね?
帰り道も同じ。
他愛もない話をしながら、ただ歩く。
淡々とした話し方でも、楽しんでいるのがわかる。
—————
そんなこんなで、平和に日常はすぎていった。
今日でピッタリ1週間。
そろそろ、計画の第3段階に入ろう。
真実を明かす。
「わ、私っ、あなたに言いたいことがあるんですけど……」
2人でカフェに入る。2人で向き合って座る。
「今まで、ありがとうございました。この1週間、とってもたのしかったです。でも、私、転校することになりました。」
友達は目を丸くした。
驚いたんだろう。そりゃそうだ。
「これで、お別れです。大切って思える友達ができて、私、本当に嬉しかった……。」
そう言って、手を握る。涙目も忘れず。
ミッションコンプリート。
ああ、まったくもって嬉しくない。
言いたく、ないな。
「楽しかったのは、私もだよ。」
やめて。
私は、任務のためにこうしただけ。
私の今までは全部うそなの。
「初めてお友達ができたの。」
言わないで。
貴女はターゲット。
お友達だなんて、全然、思って、は、いけないの。
かき乱さないでよ、私を。
本音も建前もぐちゃぐちゃだ。
「離れても、忘れないで。」
やめてよ。
言葉が、優しいからこそ、私を傷つける。
私は、貴女を騙した。
だから、そんなこと言わないでよ。
「私は、貴女を騙したの。」
本当のこと、話すから。
「私は、天使なの。貴女と友達になったのは、仕事のためなの。貴女を、心の底から好きだったわけじゃないの。」
胸が痛い。
こんな感覚、何年ぶりだろう?
「許さないで。お願い。私のことは、忘れて。」
「忘れないよ。」
友達は、そう言って、微笑んだ。
この子は、本当に、いい子だ。
優しい子だ。
天使たる、私以上に。
真っ白で、人を救えて。
「理由なんて大切じゃないよ。私の初めてのお友達は、貴女だから。」
ああ。
なんでだろう。
嬉しいな。
この子は、今まで相手したどのターゲットとも違う。
私を、忘れないと。
友達だと、言ってくれる。
今までにターゲットは、幸運を手にして、幸せな人生を送り始めると、私のことなんて忘れてしまった。
でも、この子は違う気がする。
でも、なんで、私、嬉しいだなんて、思ったんだろう?
まるで、私はこの子が好き——、
そうか。
私は、この子のことを、本当の本当に、心の底から好きだったんだ。
だから嘘をつきたくなかった。
だから別れがつらかった。
「ねぇ。私、本当にーーー、」
そこで、私の意識は途切れた。
最後に思ったことは一つ。
天使だって、言っちゃいけないんだった。
——————
「よく来たな、人間。そして、我が天使。」
目が覚めるとそこは、真っ白な空間だった。
目の前にいる男は、なぜか色素が薄い。
人間離れしている。
なんで私はここに?
はじめてのお友達と、、、
一瞬悩んだ。
でも、すぐに思い出した。
私の友達は天使だった。
それを聞いて、意識が消えた。
隣に寝ているのはお友達。
お友達は、私が知っているあの子じゃなくなってた。
真っ白い髪の毛に真っ黄色な目。
本当に、天使なんだ。
——————
目が覚めると、天界にいた。
「天使。お前は規則を破ったな。」
そうだ。
私は、お友達に話してしまったんだ。
「はい。」
怒られるなぁ。
「お前はもう、用済みだ。」
え?
「この娘はお前よりも優しい心を持っている。お前の感情は、既に天使としてのものになっていて、使い勝手が悪くなってきたからな。」
私が優しくないのは知ってる。
でも、私はこの子に天使なんてさせたくない。
あんな、世界のパーツみたいな存在。
心はすり減り、摩耗し、きっとこの子の優しさも消えてしまう。
やだ。
「嫌だ。天使は、辛すぎる。私は、あの今に天使になんてなってほしくない。」
「やかましい。ああ、そうだな。お前の力は強かったな。力だけ取り除いて、後は廃棄だ。安心しろ。力のかけらはあの娘の心に残る。」
心臓を貫かれる音。
魂から何かをとられる感触。
それが、私が聴いた最後の音。
——————
「ねえ!嫌だ、死なないで!」
お友達は胸を貫かれた。
即死だっていうのは想像がつく。
私の、せい、なのかな?
変なこと、言っちゃって。
正体、聞いちゃって。
「さて。お前を天使にするには、この場での記憶を消さないといけないか。精神を病んでもらっては困る。」
〇〇ちゃん。
初めのお友達。
私のせいで、死んだ、、、。
あれ、名前が思い出せない。
「安心しろ。この処置はアレにも行った。最低限の記憶は残るさ。」
わからない。
忘れたくない。
ねぇ、貴女のこと、好きだよ。
すきなのに、わたしのせいで。
私は、悪い子だ。
優しい心なんて、ないよ。
——————
私は天使だ。
みんなの理想と同じ姿かたちをしている。
私は元々、優しい人じゃなかった。
今もきっと、そう。
だから、期待しないでよ。
私なんかに、求めないで。