第九話 とらの大河くん
路地裏での騒動を終えてから私たちはクランハウスまで帰ってきた。
「そろそろ、団長たちは戻ってきているかしら?」
アデリナさんたちと一緒にクランハウスへ入ると――
「おかえりなさい!新人さんはどうでしたか?」
リビングに一人の男性がいた。
男性というよりは男の子っていうのかな?一見して中学生くらいに見える。
「ああ、大河くん、帰ってきてたのね」
「はい、さっき帰ってきたところです!」
元気のいいこの男の子の名前は、大河くんというらしい。
とても人懐っこい感じの笑顔が素敵なナイスガイだ。
「おう、大河!団長はどこにいるんだい?」
「はい、団長は用事があるからって出掛けてしまいました。明日まで戻らないそうです」
「あら、残念ね、せっかく新人さんたちを紹介しようと思ったのに……まあいいわ、先に大河くんに紹介しちゃいましょうか」
アデリナさんとカグヤさんの言動を見るに【えとらんぜ】のメンバーだろうか?
「こちらは、子々津 都ちゃんと、牛乃 歩美ちゃん、【えとらんぜ】に新しく入った仲間よ、仲良くしてあげてね」
「はい!あの……初めまして!僕は、虎走 大河って言います!よろしくお願いします!」
「歩美っていいます。よろしくお願いします!」
「都です、よろしくお願いします!……ってあれ?」
虎走 大河くんって何か名前が私たちの世界っぽい……
「ああ、さすが都ちゃん、気付いたかしら?そう、大河くんは都ちゃんたちと同じ異世界召喚されてきたの、同じく追放されちゃったところをカグヤが助けて【えとらんぜ】に加入してもらったってわけ」
「そうなんですか!?私たち以外にも召喚された人がいたなんて、びっくりしました!」
……まさか私たちの前にも召喚者が【えとらんぜ】に加入していたなんてさすがに驚いた。
でも、私たちと同じ世界の人が先輩にいるだなんて心強い限りだ、色々とこの世界のことも教えてもらえるかもしれない。
「よろしくお願いします!僕のことは大河って呼んでください。多分僕の方が年下なので、気にせず普通に接してもらえたら嬉しいです」
爽やかな笑顔を惜しみなく晒しながらグイグイとくる好青年の大河くん。
元の世界でもさぞや周りから人気者だったことだろう。
「……ええと、大河くんは何歳なのかな?」
「はい!僕は15歳です、元の世界では中学三年生でした!」
がーん、二つも年下だった。
「そ、そうなの、私と歩美は17歳の高校二年生だから二つ下だね」
「私たち年上だけど、大河くんの方がこの世界では先輩だから色々と教えてくれると嬉しいな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!同じ世界にいた仲間が増えるなんてすごく心強いです」
いやー、この子は物凄くいい子だ。
お姉さん感動しちゃったよ。
「ああ、ちなみに大河くんのスキルは【特性・とら】だからね、都ちゃんは【特性・ねずみ】で歩美ちゃんは【特性・うし】、皆仲良くね」
大河くんは【特性・とら】なのか……
なんかかっこいいじゃないか、それに強そうだ。
少なくとも、ねずみよりは絶対にいい。
でも、大河くんのスキルが【特性・とら】だったことで一つ確信したことがある。
「アデリナさん、一つ聞きたいことがあるんですけど……」
「どうしたの?」
「私たちのような獣の特性スキルって、ひょっとして全部で十二種類あるんじゃないですか?」
私が【特性・ねずみ】で歩美が【特性・うし】、カグヤさんが【特性・うさぎ】でアデリナさんが【特性・ひつじ】、そして大河くんが【特性・とら】ときた。
ということは、私たちの世界でいう十二支になぞらえてあるんじゃないだろうか。
その疑問をアデリナさんにぶつけてみたのだ。
「……やっぱり気付いたわね。そうその通りよ、獣の特性スキルはこの世界に十二種類存在しているの、そのスキルの持ち主を十二人集めることが、私たち【えとらんぜ】の最終目標よ」
「それってやっぱり十二支に関係しているんですか?」
「ええ、大河くんにも聞いたけど、あなたたちの世界にも十二匹の動物がモチーフになっている話があるらしいわね、確か【十二支】って言ったかしら?」
やっぱりそうか……
何故かはわからないが、この異世界には十二人の獣の特性スキルを持っている人がいて、それぞれが干支にちなんだ能力を持っている。
多分だけど、十二の能力全てがチート能力なのだろう。
この【えとらんぜ】はそんなチート能力者を十二人集めて世界を救うことが目的ということになる。
「あの、アデリナさん、以前に言っていた世界を救うって、具体的にはどういうことなんですか?」
「ええ、もうクランに入ってくれたからには、正直にお話しとかないとね。私たちのクランはとある方の予言のもとに動いているの」
「予言ですか!?それはどなたですか?」
「ええ、私たちは、【ダルシアン王国】の王女、セフィーネ様の予言にもとづいて行動しているの」
なんとこの国の王女様の名前が出てくるとは……
話がどんどん大きくなってきていることに少し不安を覚えてしまう。
「王女様の予言ですか!?そ、それはどんな予言なんですか?」
「まあ簡単に言うと、この世界がこのままいくと破滅してしまうって予言よ、そしてその破滅を防ぐためには十二人の獣の特性スキル持ちが必要で、私たちはその十二人を集めることを目的としたクランってわけ」
……なん……だと?正に衝撃の展開だ。
ただただ普通に生きてきた私たちが……
学校帰りにチョコモ〇カジャンボを買い食いするのが楽しみだった私たちが……
世界を救うための十二人のなかの二人だなんて、本当に夢でも見てるんじゃないだろうか?
「あの、世界が破滅するっていうのはどんなことが起こるんでしょうか?」
歩美が口を開き、アデリナさんへ質問する。
そうだよね、それは気になるよね。
「それは……私たちにもまだわからないの。今は十二人の獣の特性スキル持ちをこの【えとらんぜ】に集め、万全の体制を整えるために動いている段階ということね」
なるほど……
今はまだ十二人の仲間を集めている段階で、世界の破滅に備えて戦力を蓄えているっていう段階なのね。
「今は十二人のうち、何人が集まっているんですか?」
「今この【えとらんぜ】にはあなたたちを入れて六人揃っているの、だから残りは六人ね」
「その六人をクランに加えるっていうのが今のところの最優先の目的ってわけだな」
私と歩美、アデリナさんとカグヤさん、そして大河くんに今は出掛けているっていう団長を入れて六人ってわけか。
「残りの六人はどこにいるかわかってるんですか?」
「いいえ、今のところはまだ誰も現れていないわ」
「そうなんですか!?って何でそれがわかっちゃうんですか?」
「それは、私のスキルの効果でわかるわ」
「スキルですか!?」
「ええ、私の【特性・ひつじ】で使用可能なスキルの一つ【黙示録の羊】、このスキルの効果は、求めているスキルがこの世界に出現した際に、瞬時にわかるようになるというものなの、私は常時このスキルを使用しているから、もしこの世界に獣の特性スキルの持ち主が現れたらすぐにわかるってわけ」
「そして、その持ち主が現れた後は、あたしのスキル【鳶目兎耳】の出番ってわけだ。このスキルは、望んだ相手がどこにいるのか特定することができる。そして場所が分かったら【兎跳び】ですぐに保護に向かうって段取りだな。まあ都たちは少し間に合わなかったけどな」
カグヤさんが私たちを助けた時のことを思い出しながら、苦笑いを浮かべている。
それにしても、新たな獣の特性スキル持ちが現れた場合は、アデリナさんとカグヤさんのスキルですぐにその人のところまでいけてしまうなんて、なんてすごい連携技なんだろう。
「さて、今日は一日ご苦労様、少し休んだら晩御飯にしましょう。明日は都ちゃんと歩美ちゃんのジョブを見つけるのと、装備を整えにいくわよ」
「ジョ、ジョブですか?それって戦士とか魔法使いとかのあれですか?それに装備もですか?」
「ええ、だってあなたたちってまだ無職でしょ?装備もそんなひらひらの服一枚だけだとこの先心配じゃない?」
「ああ、あたしたちが完璧にコーディネートしてやるから安心しろよ」
なるほど、確かに今の私たちは職業、女子高生に装備はセーラー服だ。
こんなんで、地獄サソリだのキングリザードだのと戦っている方がおかしいのだ。
見てろよ、私たちは明日、普通の女子高生から一皮むけてやるんだからね!
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