第八話 楽に死ねると思うなよ?
「いやー、本当に二人だけで倒しちゃったんですね、キングリザード……」
私たちは、キングリザードを倒した後に、報告のためにギルドへ戻っていた。
乾いた笑いを浮かべる受付嬢に淡々と報告を済ますアデリナさんとカグヤさん。
「……っていうか、記録を見たら一撃で倒してるじゃないですか!?しかも……与えたダメージ値が一万を越えてますけど!?……レベル一桁でこんな数値を出せる人なんて見たことないですよ!?」
どうやら、クエスト中の戦闘の記録をギルドの方で確認できるらしく、今回のクエスト中ももちろん記録は取られていたらしい。
「いやー、こんな新人さんたちが二人も加入するなんて、相変わらず【えとらんぜ】の皆さんは規格外というか……」
「お褒めの言葉をありがとう。それでは報酬を頂いていくわね」
「はい、こちらは今回のクエストの報酬の三万ゴールドになります。お納めください」
「確かに……それではこれで失礼するわ、いつもありがとうね」
アデリナさんが、今回のクエストの報酬受け取り、私たちはギルドを後にしようとすると……
「おい!待てよ、聞いていればこんな小娘たちがたった二人でBランククエストをクリアしただあ!?どんなインチキしたんだこらあ!」
いかにもガラの悪そうな五人組がギルドの入り口に立ちふさがった。
五人ともいかにも野蛮そうな大柄の男性といった感じだ。
「あんだ、てめえら、どこのもんだ?」
カグヤさんが眉間にしわを寄せながら五人組に詰め寄る。
気のせいか、もの凄く手慣れているような気がする。
「ああ!?俺たちはクラン【ブラックアックス】のものだ! 獣臭え【えとらんぜ】が何を生意気言ってやがるんだ、ああ!?」
「あ?」
「ああ?」
【ブラックアックス】のメンバーと名乗る五人組の一人が発した言葉で、場の空気が瞬時に凍り付いた。
カグヤさんのみならず、アデリナさんのこめかみがピクリと動いたのを見てしまった……
「てめえ……今なんつった?……もう引き返せねえからな?」
「ええ、あなたたち?お話があるなら場所を変えましょうか、ギルドの皆さんにも迷惑をかけるといけないし」
「ああん?上等だこら、こっちもてめら如きがSランククランを名乗っているのがもう我慢ならねえんだ」
「まあまあ、とりあえず私たちに付いてきなさい。お話はそこで聞くわ」
アデリナさんがニコニコ笑顔を振りまきながら五人組を誘う。
「上等だ!どこへなりとも案内しやがれ!そこばお前らの墓場だぜぇ!」
アデリナさんとカグヤさんを煽り散らかすこの方たちは、気付いてないのだろうか?
……とっくに二人がブチ切れていることに。
私には見える。その五人組を手招きする地獄の死神の姿が……なんてな。
アデリナさんとカグヤさんは無言で路地裏のような道を歩いていく。
その後ろを五人組が悪態をつきながら付いていく。
私と歩美は、一体何が起こっているのか理解できないまま、五人組の更に後ろを付いていった。
「さて、この辺りにしましょうか。ここなら多少汚れても問題ないでしょう」
「あん?わけわかんねえこと言ってんじゃねえぞ!何が汚れるってんだ!?」
「ああそれは……あなたたちの汚い血が飛び散って汚れるのがね?」
そう言い終わらない内にアデリナさんがとてつもない速さで五人組の先頭にいた男の顔を鷲掴みにした。
「うがが!な、何だこらあ!っていだだだだ!何て馬鹿力してやがんだこいつ!」
アデリナさんは笑顔のまま、男の顔を掴んでいる手に力を込めているようだ。
華奢で聡明そうな女性が野蛮な大柄の男性の顔を握りつぶそうとしている光景は、とても奇妙だった。
「うがががが!離れねぇ!誰か助けろ!顔が潰れるぅ!!!」
「ちくしょう!離しやがれこらあ!」
何が起こっているのかわからないようにその様子を眺めていた他の男たちの内の二人が、慌ててアデリナさんへ向かう。
「てめえらの相手は私だよ、楽に死ねると思うなよ?」
そこへカグヤさんが割って入る。
「なんだと?この小娘がぁぁ!」
カグヤさんは明らかに自分よりも大柄な男たちに全く気後れしていない。
襲い掛かる男たちを一瞬でぶっ飛ばしてしまった。
一人は、掴みかかったきた腕を掴んで近くのごみ捨て場に投げ込んで、もう一人は見事な回し蹴りを決めて華麗にノックアウトしてしまった。
「な、なんだとお!?誰か早くこいつの腕をぉ!顔がぁぁああ!!!」
「いい加減あきらめなさいね、あなたはこのまま顔をつぶされるか、カグヤにぶっ飛ばされるか、どちらかしか選べないんだから」
うわお、どっちも死ぬしかないじゃん。
笑顔で地獄の二択をせまるアデリナさんに戦慄を覚える残り二人の男たち。
「く、くそお!こうなったらあっちの新人たちを狙うぞ!」
……え?今なんとおっしゃいました?
アデリナさんとカグヤさんにかなわないからってこっち狙うんですか?
いや、やだ卑怯。
「……ちっ、だせえな、【二兎を追う者は一兎を得ず】」
その瞬間、カグヤさんが二人に分身した。
直後、風のような速さで私と歩美の目の前に移動し、男たちの前に立ち塞がる。
「な、なにい!?」
一瞬のうちに現れた二人のカグヤさんに男たちが驚嘆している。
私と歩美も口をぽかーんと開けて固まっている。
「「こんな、か弱い女の子たちを狙うなんて冒険者の風上にも置けねえなぁ、ちょっと反省してろてめーら!」」
二人のカグヤさんが全く同じセリフを同じタイミングで言いながら男たちをそれぞれぶっ飛ばす。
一撃で男たちは失神してしまい、決着は着いた。
「あらあら、無事に決着が着いたみたいでよかったわ」
アデリナさんは微笑んでこっちを見ている。
傍らには、泡を吹いて失神している男が倒れ伏している。
……怖い、怖すぎる!
「あーあ、こんな三下たちにスキルまで使っちまったぜ……」
「まあ、都ちゃんたちを守るためだし仕方ないわよ、二人とも大丈夫だった?」
アデリナさんの問いかけに口を開けたまま、コクコクと無言で頷く私と歩美。
「さて、腹も減ったしクランハウスに帰ろうぜ」
「ええ、そうね、そろそろ団長たちも帰ってきてるかもしれないしね」
私たちの激動の一日はまだ終わらない……
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