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まほらは見てしまった

更新遅くなりました。

ごめんなさい。汗

まほらの捜査四課での仕事は順調だった。


下半身事情が玄人女性専門のバディとも上手くやれている。


上半身だけのハウンド=マクスウェルは人当たりが良くものごしも穏やかで仕事にも真面目に取り組む好青年だ。

四課の新人であるまほらが早く仕事に慣れるように気を配りサポートもしっかりしてくれる。


初めてのバディがヤリ…ゲフンチャラ男で少し心配もしたが、なんとか上手くやっていけそうだ。


この日は午前中に違法毛生え魔法薬の被害者の調書を取るために被害宅へと赴いた。


『この魔法薬を塗ればたちまち貴方もフッサフサ』という謳い文句に釣られて購入した違法魔法薬を頭に塗ったところ、次の日には僅かに残っていた毛髪が全て毛根から旅立って行ったのだという。


気の毒に被害者の男性は精神的ショックを受けてしばらく寝込んでしまっていたらしい。


購入場所や販売員の特徴などをつぶさに聞き取り、証拠品となる魔法薬を回収して被害者宅を辞した。


魔法省への帰路の途中でハウンドが言う。


「違法魔法薬ってやつは、身体的被害だけでなく精神的被害も大きい。これ以上被害者を出さないためにも早く犯人を逮捕しなくちゃいけないね」


「本当にそうですね。犯人逮捕に至るまで、何か出来る事はないのでしょうか?」


まほらが訊ねるとハウンドは大きく頷きながら答えた。


「そう。魔法省としての仕事はただ犯人を検挙すればいいというものではないよね。これ以上被害者を増やさないようにする事も我々の大切な仕事だ。新聞や街の掲示板、自警団や薬店などに広く情報を提示して注意喚起を行うよ」


「それなら被害者の増加を防げそうですね。でも犯人が警戒してなりを潜めて逮捕に至れないのではという懸念もあります」


「犯人は出てくるよ、必ずね。このまま販売をやめたら大損だからね、せめて製造した分だけでも売り捌こうとするだろう。でも広く周知される事により犯人は人の目を盗んで販売しなくてはならなくなる。必然的に販売場所が限られて、特定しやすくなるよ」


「なるほど」


ハウンドの話を聞きながら、まほらはメモを取ってゆく。

何気ない会話の中でも覚えるべき仕事の内容が含まれている事が多く、聞いてすぐに記入するのは科捜課に在籍していた頃からの習慣であった。


その時、ふいにハウンドに二の腕を掴まれた。


え?と思った時には彼の香りがほのかにわかるくらいには近くに引き寄せられる。


びっくりしてハウンドを見上げると同時にすぐ後ろを人が通り過ぎるのを背中越しに感じた。


それを見遣りながらハウンドが言う。


「危なかった……向こうもキミも前見て歩いていなかったから衝突するところだったよ。歩きながらメモを取るのはやめた方がいいね」


「あ、ありがとうございます……そ、そうします」


メモを取るのに夢中になって危うく他の歩行者とぶつかりそうになったのをハウンドが助けてくれたらしい。


だけど思わぬ至近距離にまほらはたじろいでしまう。


───こんな接近、ブレイズとだってないわ。


幼馴染として関係性や心の距離は近かったが、身体的接触はそうはなかった。

互いの方を揉み合うとかムカついた時に体当たりとか、その程度であったなとまほらは歩きながらぼんやりと考えた。




そうしてハウンドと二人、帰省(きしょう)した。


ハウンドが腕時計を見ながらまほらに言う。


「丁度ライチタイムだね、まほらさんはランチはどうするの?食堂?それなら一緒にどう?良かったらご馳走するよ?」


バディの気安さか軽い調子で誘われる。

こんなスマートな誘い方、女性と交際経験のないブレイズには絶対無理だろうなと一瞬頭に浮かぶ。


「ありがとうございます。でもお弁当を持参してるんです」


「そっか。え、まほらさん自炊するの?偉いなぁ」


「自分でしなきゃ誰もしてくれませんからねぇ」


そんな事を話ながら、聞き取りのための録音魔道具を返すべく備品室へと二人でやって来た。

すると備品室の扉が少しだけ開いており、中から人の話し声が聞こえてくる。


「あの……じつはわたし、ずっと密かにお慕いしていてっ……」



───ん?



「でも、恋人がいらっしゃるのだと思っていたし、私なんてと思って諦めていたんですっ……」


これは……もしか告白の現場?と思い、まほらはハウンドの顔を見る。

ハウンドも少し眉を上げて驚いている様子だった。


「……ごめん、俺、大切にしたい人がいるから、その人以外とは付き合えない」


くぐもった声だが中で話す男女の声が聞こえてくる。

聞き耳をたてるつもりはないが勝手に耳に入ってくるのだから仕方ない。


困った……。

魔道具を返すために備品室に入らねばならないのに、こんな状況では入るに入れない。


はてどうしたものかと考えていたら、中にいる女性の口から自分の名が飛び出した。


「でもっ……!クラインさんとは別れたんでしょう……?近頃一緒にいる姿を見かけなくなったから……だったら……!」


───え?



「まほらとは付き合っていたわけじゃないよ」



───えぇ?ブ、ブレイズ!?


見ず知らずの女性の口から自分の名前が出た事も驚いたが、中で告白されていた人物がブレイズであった事の方がまほらには衝撃だった。


聞いてはいけないと思いつつ、どうしても耳が会話を聞き取ろうと集中してしまう。


側にいるハウンドもまほらに気を使ってか何も言わない。


中にいるブレイズがはっきりとした迷いのない口調で女性に告げた。


「まほらとは付き合ってはいなかったけど彼女は俺の大切な人だ。悪いけど、キミの気持ちには応えられない。本当にすまない」


「っ………っ……」


キッパリと断られた女性が息を呑む声が聞こえた。

そしてその後すぐにすごい勢いで備品室から飛び出して来た。


女性は備品室の入口にいたまほらとハウンドを見て、驚いた顔をした後に真っ赤な顔をして走り去って行った。


その背中にまほらは心の中で謝る。



───ごめんなさい!ここに居合わせたのは本当に偶然なの!聞いてしまってごめんなさい!



そんなまほらを呼ぶブレイズの声が聞こえた。


「まほらっ!?」


まほらは恐る恐る振り返る。


すると女性により開け放たれた扉の向こうで驚いた顔をこちらに向けているブレイズと目が合った。


引越してから、じつに二週間ぶりの再会である。


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