まほらはやはり噂は真実だったと知る
「まほらさんはどの分類の魔法薬に詳しいの?」
まほらの初めてのバディとなったハウンド=マクスウェルがそう訊ねてきた。
まほらはそれに対し丁寧に答える。
「そうですね……科捜課でよく担当していたのは精神に作用する系の魔法薬でしたね。ダウナー系とかアッパー系とかです」
「……媚薬や催淫系の魔法薬は?」
「以前、強制催淫の魔法薬の鑑定をした事はあります」
「お、イイね~」
イイ、とは?とまほらは思ったがそれは口にしないようにした。
まほらはちらりとハウンド=マクスウェルを覗き見た。
百八十センチはゆうに超えているであろう長身に均整の取れた体格。
ベージュの髪が縁取る優しげな印象の麗しい顔立ちは、なるほどこれは相当おモテになるだろうと納得させられる。
“捜査四課のハウンド=マクスウェルは魔法省イチのヤリチンだ。しかも性技に精通した玄人の女性しか相手にしない”
という話はここ本省では時々耳にする噂である。
なぜ玄人の女性……娼婦やコールガールしか相手にしないと言われるのか。
それは彼が魔法省の女性職員や食堂のウェイトレスなどの一般女性は歯牙にも掛けないからだ。
……というのも何度もハウンドが女性職員やウェイトレスに告白を受けている姿が目撃されるも、ハウンドは全て断っているからなのだとか。
そして夜の街でコールガールと連れ立って歩いている姿をこれまた多く目撃され、
斯して彼は魔法省のヤリチンと陰で称される事になったらしいのだが……。
──まぁ玄人女性オンリーのヤリ…コホンなら別に身構える必要はないわよね。私なんかに触手が動くとも思わないし。
まほらがそんな事を考えていると、課長補佐のガーランド女史がハウンドの肩を叩きながらこう言った。
「まぁハウンドは魔法省のヤリチンって言われてるけど、そんな事はないから!貞操の危機とか心配しなくても大丈夫よまほらちゃん!」
いやべつにそんな事は心配していないし、
すでにファーストネーム呼びになっているし。
どうやらガーランド女史は心のパーソナルスペースが狭いらしい。
そんなガーランド女史がハウンドに告げる。
「じゃあハウンド、新しいバディに仕事の内容や四課の事を色々と教えてあげてね」
「YESマーム」
「誰がマムじゃい」
このやり取りはセットなのだろうか。
まほらは二人の軽口を見ながらそう思った。
その後はハウンドから様々な説明を受ける。
ハウンドとまほらの担当は偽ダイエット魔法薬や実際は効能が無いにも関わらず病気が治ると宣伝して販売している無認可の魔法薬の調査と取り締まりだそうだ。
媚薬や催淫剤の事を聞かれたのでてっきりそれが管轄かと思っていたまほらは肩透かしを食らったようになる。
───まぁどんな仕事でも全力で挑む所存!
まほらは心のフンドシを締めてかかった。
四課での初日は任務内容の説明や、荒事に巻き込まれた際の対処の仕方などのレクチャーで終わった。
バディが不在だったために今は抱えている案件はないとハウンドが言ったので、今日は定時で帰れた。
四課の仕事はやはり基本、勤務時間が不規則らしい。
省舎を出て、せっかく定時で上がれたのだからと新しい暮らしに必要な物を買いに百貨店に立ち寄った。
そこでクッションカバーやスリッパなどを購入し、今日くらいはと百貨店のレストランで夕食も食べてから帰路に就いた。
百貨店を出て繁華街を歩いて行く。
考えてみれば買い物にはいつもブレイズが付き合って荷物持ちをしてくれたし、夜の街を一人で歩いた事もない。
幼馴染である事に不満を抱いていたけれど、幼馴染として大切にして貰っていたのだなと離れてみて初めてわかった。
自分たちはあまりに近くに居すぎたのだ。
家族ではないと頭にありながら家族同然の距離感。
色々と世界が狭くて盲目的だったのだなとまほらは思った。
ふとその時、夜の繁華街を軽い足取りで歩いて行くハウンドの姿を見かけた。
先程魔法省で別れたままの服装で、慣れた感じで夜の街を歩いている。
そしてこれまた慣れた様子で娼館や逢い引き宿などが立ち並ぶ色町の方へと吸い込まれるように歩いて行った。
「…………」
どうやら玄人女性専門のヤリチンという噂は真実であったらしい。
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明日の朝、読み切りを一本投稿します。
タイトルは
『そうだ 修道院、行こう』です。
……膨大な文字数となっておりますが、よろしくお願いします☆