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まほらのはじめてのバディ

ようやく流感も完治し、まほらは一週間ぶりに登省した。


今日から新しい部署での仕事だ。

の、前に在籍していた科捜課の職員たちに異動の挨拶をしなくてはならない。


ブレイズと顔を合わせるのがかなり気まずいなぁ……と、予め用意していた菓子折を手にしながらそう考えていたまほらは、エントランスでルミアに声を掛けられた。


「まほらさん!」


げ。と内心思ってしまうのは許してほしい。

出来れば今は会いたくない人間の一人であるルミアが足早にこちらに向かって来る姿を見ながら、まほらは思わず身構える。


何を言われるのだろう。

まぁおそらくブレイズと無事に交際がはじまった事の報告とそのお礼だろう。


───そんなの要らないのに。ブレイズとの惚気を聞かされたら嫌だなぁ……。


そんな事を考えているうちにルミアはまほらの前に来た。


「まほらさん、おはようございます。風邪で長くお休みされていたとか、もうお体は大丈夫なんですか?」


ルミアは開口一番にまほらの体調を案じた。

いい子なのだ。

いい子だからこそ、ブレイズがルミアを好きになるのがわかってしまう。それが辛いのだ。


まほらはそんな胸の内をひた隠し、ルミアに笑顔を向けた。


「ありがとうルミアちゃん。もう大丈夫よ」


「良かったです。タチの悪い風邪が流行っていると新聞にも載ってましたよ」


「そうなのね」


「ええはい」


「………」


「………」



この()は一体なんだろう。

用件があるなら早く言ってほしい……とまほらが思っていると、ルミアが少しだけ言い辛そうに話し出した。


「あの……せっかくまほらさんに(あいだ)に入って貰ったのにごめんなさい、ギブソンさんとお食事に行くの無くなっちゃいました。ていうか交際の申し込みもお断りされちゃったんですよ~」


「え」


「ギブソンさんが受付けに来てくれて、きっと食事のお誘いだ!って思ったんですが、やっぱりわたしとは交際を視野に入れた食事にはいけないと平身低頭で謝られました」


「な、なんでっ?ブレイズの奴、行く気満々だったのにっ?」


信じられない事を聞き、瞠目するまほらがそう言うとルミアは肩を竦めた。


「さあ?わたしにはわかりません。でもギブソンさんてば左頬を腫らして、“自分が鈍感だった所為でキミには本当に申し訳ないことをした”と平謝りされたら、訳が分からなくても許すしかないじゃないですか。別にまだ何にも始まってなかったんだし?まぁ他にもイイなと思っていた人がいるんで、今はそちらにアプローチ中です!」


「え、えぇぇ?」


「うふふ♡そちらの人とはいい感じになれそうなんですよ。まほささんにはお世話になったし、一応お伝えしておこうと思いまして!」


「そ、そう……」


「はい!それじゃあお引き留めしてごめんなさいでした!今日も一日頑張りましょう!」


「お、応~……?」


怒涛の展開に頭がついて行かず呆気に取られながらもまほらそう言うと、ルミアはペコリと頭を下げて受付け嬢が座るカウンターへと戻って行った。


「ルミアちゃんて……可愛い顔して肉食系……?」


まほらはそうつぶやいて科捜課の部屋へと向かった。


どういう事なのだろう。なぜ急に?

ルミアに好意を寄せられていると聞きあんなに喜んでいたのに。

しかも左頬を腫らしていたなんて、一体何があったのか……。


それもブレイズに聞けば全てわかるだろうか。


まほらはブレイズと顔を合わせる事にかなり緊張しながら科捜課の部屋に入った………が、



「え?ブレイズも流感にっ?」



なんとブレイズもまほらと同じく流感に罹ったというのだ。

それをまほらに教えてくれた同僚が言う。


「そうなんだよ~。彼、一昨日から休んでいてね。今年の流感はかなりキツいみたいだね。クラインさんは回復して本当に良かった」


「はぁ……ありがとうございます……」


なんとも肩透かしを食らって唖然としながらまほらはそう返した。


そして科捜課の同僚、先輩後輩、上官たちに異動の挨拶を済ませて、今度は新しい職場となる捜査四課の部屋へと向かう。


───ブレイズも流感って……熱は高いのかしら……どうしよう、様子を見に行った方がいい?


歩きながらそう考えたまほらだが、すぐにそれを否定する。


どうしてブレイズがルミアとの交際をやめたのかはわからないが、まほらに関係がない事には変わりないのだ。


いつまでも幼馴染のまま報われない思いをするのが辛くて決別したのだからもう戻るべきではない。



───気持ちを切り替えよう。今日から畑違いの部署なんだから覚える事は山ほどあるはず。



まほらはそう自分に言い聞かせ、頭の中からブレイズを追い出して捜査四課の部屋に入室した。


四課の課長(四十代、男性、既婚)に挨拶をし、彼から課の職員たちを紹介される。


捜査四課は課長を含めて総員十二名。

四組のバディと課長補佐と事務員二名が在籍する。


課長補佐であるサミィ=ガーランド女史(推定年齢三十代…後半?)がルミアに言った。


「ようこそ変人揃いの四課へ。変人の質で競うなら四課(ウチ)は決して特務課には負けてないわよ~」


なんだろうその紹介の仕方は。

そうか、変人ばかりなのか。だから職員の入れ替わりが激しいのかとまほらは納得した。


「でも理由は知らないけど転属を希望してくれて良かったわ~。ちょうど先月新しく入った子が辞めちゃってね、困ってたの。しかもクラインさん元は科捜課でしょ?魔法薬に詳しいだろうからホント助かる!救世主だわ~!あ、私の事はサミィって呼んでね」


どうやらガーランド女史はお喋りな類の人種らしい。

まほらは連射される言葉に一つ一つ相槌を打ちながら話を聞いていた。


「じゃあ早速だけど、クラインさんのバディを紹介するわね。科捜課は班で組まれるのだろうけど、捜査課はツーマンセルで捜査に当たるの、それは知ってるわよね。でもバディを組むのは初めてよね?バディがどんな奴かドキドキでしょう……まぁ多少、ちょっとした噂で有名な男だからクラインさんも知っているかもしれないけど……」


「え?」


ちょっとした噂で有名?

その噂によりまほらも知っているかもしれない人物?

はて一体誰だろう。


人生初のバディである人物と仲良く出来ればいいんだけど……とまほらが思っていると、ふいにガーランド女史がとある人物に声をかけた。


「ハウンド!こっちに来て!」


「YESマーム」


「誰がマムじゃい!」


そうガーランド女史と軽口を言い合いながらまほらの前に現れた一人の人物。



───あ、この人知ってる。



まほらはその人物を見てそう思った。


ガーランド女史がまほらに紹介する。


「あなたのバディとなる、ハウンド=マクスウェルよ」


「ハウンド=マクスウェルさん……」


「よろしく、まほらさん♪」



ハウンド=マクスウェル。

魔法省きっての“ヤリチン”と噂される人物であった。



「………よろしくお願いします」




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