まほらは行動に移す事にした
「え?今、なんて言った?」
「だから、もうブレイズのお弁当を作るのやめたの」
「な、なんで?」
「なんでって、これからルミアちゃんと結婚を前提にお付き合いするかもしれないんでしょ?それなのにたとえ幼馴染とはいえ他の女の作った弁当を毎日食べてるなんて、相手の心象が悪いじゃない」
「まだ付き合うと決まったわけでもないのに」
「そんな話が出ている時点からきちんとするべきよ。相手に対し、いい加減なことをするつもりはないんでしょ?」
「そ、そりゃ当前」
「でしょ?だからよ」
「でもだからといって……」
「うだうだ言ったって自分の分しか作ってないから。今日から食堂や近くの定食屋さんで食べなさい。もちろん、もう一緒には食べないから。あ、ルミアちゃんを誘ったら?」
「まほ……」
「じゃあね。朝、一緒に登省するのも終わりね」
まほらはそう言って足早にブレイズの前から立ち去った。
「なんでだよ、まほっ、まほらっ」
後ろからブレイズの声が追いかけてくるがまほらは構わず足早に歩く。
未練を振り切るために。
早めに家に押しかけて今の事を伝えた。
だからブレイズはまだ支度が出来ていないため家を出られない、追いかけられない。
これでいい。
これでいいのだ。
その後まほらは仕事の合間に人事課へ行き、転属願いを出した。
入省して三年が経てば希望する課への転属も条件が合えば認められるのだ。
まほらは直ぐにでも転属するために常時職員の補充をかけている捜査四課を選んだ。
科捜課に在籍し、魔法薬に精通したまほらが近頃は魔法薬の取り締まりに力を入れている四課への転属を希望したならすぐに叶うに違いない。
人事課の職員に結果は後日書面と口頭でと言われ、まほらは人事課の部屋を後にした。
───次は新しく住むところね。
今日の帰りにでも貸し家業者の店を訪ねてみよう。
まほらはそう思いながら仕事をこなした。
途中、何度か同じ部屋にいるブレイズの視線が気になったが、お弁当の事で何か言いたい事があるのだろうと無視をする。
今は重要な案件も抱えておらず残業をする必要もないので、まほらは終業後すぐに省舎を飛び出した。
魔法省の独身寮もあるけれど、今まで気ままに実家暮らしをしていたまほらにとって、寮生活はルールなどの煩わしさが勝ってしまう。
それにやはり部屋には畳を敷きたい。
自分で借りた部屋なら大家の許可さえ取ればそれが可能だが、寮ではそれが厳しいと聞いた事がある。
なのでまほらは寮生活ではなく自ら借りたアパートでの新生活を選んだ。
そして魔法省近くにあるアパートメント・ポワンフルというアパートを業者に紹介された。
幸いな事に2kの間取りのその部屋の一室は畳敷きだというのだ。
魔法省の職員が多く住んでいるというそのアパート。
オーナーの父親が孫娘が連れてきた彼氏と度々決闘をするという風変わりなイベントがあるらしいが、家賃が安く手入れも行き届き住みやすいと評価が高かったのでそこに即決した。
なによりアパートのオーナーの母親が東和出身だというのも決め手となった。
契約手続き終了後すぐにでも入居可能との事だったのでまほらはすぐに引越しの段取りに入った。