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幸せになるためのプロセス


「ねえブレイズ、答えて。私のこと、好き?」


まほらは半ば縋るようにブレイズに問うた。


改めてちゃんとわかるように言葉にして欲しい。


安心できるように、心から素直になれるように。


そう思ったまほらにブレイズは態度と言葉で答えを示した。

初めて異性として抱きしめられ、真剣な声色で告げられる。


「好きだ。どうして今まで気付かなかったんだと心底自分に呆れるくらい、まほらへの想いが止まらない。俺はこんなにもお前が側にいないとダメなのに、側にいてくれる事に慣れて胡座をかいてお前を傷付けた。ごめんまほら、本当にごめん、でも好きなんだ。頼むからずっと俺の側にいてくれ……」


「ブレイズっ……」


まほらの答えは、とうの昔に決まっている。


幼い頃から大切にしてきた恋心が、報われた瞬間だった。




◇◇◇◇




その夜、まほらは布団に入ったもののなかなか寝付けずアパートの中庭へと出た。


今夜は十六夜で、ほんの少し欠けた月がまほらを見下ろしている。


そんな月を眺めながら、まほらは今日の出来事を思い浮かべていた。


あれからハウンドとラリサは互いに向き合い、ちゃんと想いを伝え合う事が出来ただうか。

あの咄嗟の現場で無意識にラリサを守っていたハウンドなら、きっともう迷う事なくラリサの側に居続けるのだろう。


二人は自分とブレイズよりもよほど回り道をしたといえる。

でもきっと、あの二人は大丈夫。

これからはきっと、失われた今までの時間を取り戻せるとまほらは思った。


───私とブレイズはちょっとだけ回り道をしたのよね。


失恋したと思い、初恋を忘れるためにプロセスを立てそれに従って行動した。

そうやって離れたからこそ互いに近すぎて見えなかったものが見えたのだ。


それこそまほらとブレイズが幼馴染から一歩を踏み出すためには必要なプロセスだったのだろう。


「幸せになるためのプロセスか……」


月を見上げてそうつぶやいた時、後ろから静かで優しい声がした。


「あら……眠れないの?まほらちゃん」


まほらは振り返り、声の主の方を見る。

そこには着物姿の小柄で可愛い初老の女性が立っていた。


「こんばんは、菫さん」


大家の実母であり同じ東和出身である彼女には、入居当初から「菫さんと呼んでね」と言われている。


穏やかで優しくて、でも心が強くて怒ると怖くて。

懐が深くて情に篤いまるで菩薩のような女性なのだ。

菫はまほらの憧れの人だ。


そんな菫がまほらの側へと寄って来た。


「こんばんはまほらちゃん。珍しいわね、こんな夜にお散歩なんて」


「なんだか胸がいっぱいで……」


「まぁ、ふふふ。まほらちゃん、恋する乙女の顔をしているわ」


「えっ、そんな……出てます?」


もしかして腑抜けた顔をしていたのではとまほらは両頬を押さえて表情を引き締める。

それを見て菫は笑みを浮かべたまま言った。


「とても幸せそうでいいお顔。誰かを愛し、そして愛されている、それがわかるいいお顔」


「菫さんがいつも穏やかで満ち足りたお顔をされているのもそうだからですか?」


「ふふ、もちろんよ。愛する旦那さまの事を思い浮かべるだけで幸せな気持ちになれるもの」


「素敵です」


「まほらちゃんにも、そんな人が居るのね」


菫にそう言われ、まほらはブレイズの顔を思い浮かべた。


「はい。昔から変わらず。自分でも呆れるくらい、同じ人を」


「まぁ、私と一緒ね」


そう言って菫はまた微笑んだ。


その後少しだけ話をして、旦那さま(犯人を捕らえた元特務課の英傑)が迎えに来たので菫は部屋へと戻って行った。

空気のように自然に接する二人を見てまほらは思った。


いつか自分とブレイズもあんな夫婦になれたらいいなと。


まほらは再び月を見上げ、一人つぶやいた。


「愛し愛される夫婦に、私とブレイズもなれますように」



その夜、十六夜の月だけが聞いていたまほらのその願いは、どうやら叶えられたようだ。



その後すぐにブレイズにプロポーズをされ、まほらはブレイズと結婚した。


「新婚夫婦のピンクの空気なんて吸いたくない」とブレイズの両親に言われ、結局まほらとブレイズはアパートメントポワンフルの少し広めの間取りの部屋を借り直して新婚生活を始めた。


だけどまほらとブレイズの結婚を誰よりも喜んでくれたのがこのギブソンの義両親であるとまほらはちゃんとわかっている。


結婚の報告を二人でした時、ブレイズの両親はどちらも大泣きをした。


二人が結ばれてくれて本当に嬉しい。

まほらが娘になってくれてこれ以上の喜びはないと口々に言って、心の底から喜んでくれた。


そこからのピンクの空気なんて吸いたくない発言であるからこそ、若夫婦水入らずで暮らしたらいいと思ってくれているのが伝わってくる。


恥ずかしから絶対に言わないけれど、早く二人に孫を抱かせてやりたいとまほらは思っている。


結果、結婚後まほらはすぐに身籠もり、魔法省は退省した。

四課の仕事も科捜課の仕事も、妊婦には少し荷が重い。

それに生まれた子の事を一番に考えて、 ブレイズとも相談をしてまほらは専業主婦の道を選んだ。


退省する日が、事実上のハウンドとのバディ解消の日であった。

もうまほらと共に仕事が出来ない事を残念がる彼の左手薬指には指輪が光り輝いている。


つい先日、市場でまたラリサと同じカブを手に取ったが、その時の彼女の左手薬指にも同じ指輪が輝いていた。


もう、ハウンドを魔法省イチのヤリ○ンと噂するものは誰もいない。



過去に悲しい事件が起きたとしても、それを乗り越えて人は生きていかねばならない。


大切な人の分まで強く生きて幸せになる事が、残された者が出来る精一杯の弔いだ。


まほらの亡くなった両親然り、ブレイズとラリサの大切な存在だったミリサ然り。


きっと故人は、皆が幸せになる事を願ってくれているのだろうとまほらは思うのだ。


そうしてまた、新たな命へと繋がってゆく。


まほらは丸く膨らみつつあるお腹に手を添えた。

いつかこの子が大きくなったらブレイズとの事を話してやろうか。


別れのためのプロセスが、


実は幸せになるためのプロセスであった事を。





お終い







───────────────────────



これにて完結です。


このところ急に忙しくなり、短めに書いて長く連載を続けようかとも思ったのですが、ダラダラせずに一気に完結させる事にしました。


ましゅろう、まさかのモトサヤ封印か?とも最初思いながら書きはじめましたが、まほらの性格ではそんなコロコロと好きになる相手は変わらないだろうなと思い、やはりモトサヤという形を取りました。


話の展開的に仕方ないのですが、思いの外ハウンドに人気が集まり、ブレイズが不憫になってせめてまほらとくっ付けさせてやるかと親心を働かせた結果でもあります。


でも当て馬はハウンドでなく、実はヒロインのまほらが当て馬的なポジションになるというのは当初から決まっておりました。


最初開いていたアルファの感想欄でもそれとなく匂わせておきましたが……。

いかがでしたでしょうか?

(゜ロ゜;))((;゜ロ゜)ドキドキ


さて、今作もお読み頂きありがとうございました!

イイね、登録、本当にありがとうございました!

更新の励みとさせて頂きました。


さて、明日からこの時間に「あなたと別れて、この子を生みました」をお引越しさせたいと思います。


なので明日は朝と夜の更新となります。


よろしくお願いいたします!



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