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まほらは事件の全貌を知る

今回犯行内容に触れるにあたり、性交や殺人や薬物摂取などの表現があります。

苦手な方はご自衛ください。




まほらを襲おうとしてアパートに忍び込もうとしたところを、アパートの大家の父親に捕らえられたスイカの香りをさせた紳士。


そして彼は国の上層部数名の許可が下りないと使用が許されていない自白魔法により、自らの罪を全て自白した。


ハウンドの恋人であったミリサをはじめとする一連の娼婦殺害の犯人はやはりこの男であった。


男が初めて犯行に及んだ理由、それは生家の商会に勤めていたミリサに恋情を抱いた事がきっかけであったという。

その当時はまだ他国に移住していなかった男は生家を訪れる度に見かけるミリサに、いつしか欲情が膨らんだ恋情を向けるようになっていた。


しかし男は既婚者でミリサとはかなりの年の差もある。


己の欲望を持て余していたその時、(くだん)の取り引き不成立が起きた。

損害金の弁償を課せられたミリサが実の父親の手引きによりコールガールとして路上に立ち始めた事を知った時、男は悦びに打ち震えたという。

これで堂々とミリサを好きに出来る、と。


そして男は色町の路上に立つミリサに客として声をかけ、逢い引き宿に連れて行った。


恋人が居るとはいえまだ男慣れしていないミリサの怯えた表情は男の長年拗らせていた欲望を過剰なほどに刺激した。

しかし怯えたまま固くなった人形のような女を抱いても面白くはない。

そこで男はこんな事もあろうかと事前に入手していた違法の催淫魔法薬を酒に混入してミリサに摂取させた。


その結果、ミリサは粗悪な魔法薬の副作用により情交の最中に死んでしまった。


男は死なせてしまった事への恐怖により慌てて逃げ帰り、そして魔法省の捜査の手から逃げるために単身赴任の形を取って他国に逃げた。


だが日が経つにつれ、男の中であの夜の惨状が性的に興奮させるものとして変化する。

男は嗜虐趣味に目覚めてしまったのだ。


あの夜に味わった興奮が忘れられない。

(むくろ)と化した女の虚ろな顔を思い出すと性的な衝動が抑えられなくなったのだ。


しかし無闇矢鱈とまた同じ事を行えばすぐに捕らえられてしまうだろう。

そこで男は一年に一度、帰国した時に一人だけ娼婦を買ってあの夜の再現を行うという方法を選択した。


そうして年に一度のペースで犯行に及び早くも三年の月日が過ぎた。

今年も一人、男は同じように魔法薬で甚振(いたぶ)ってコールガールを殺した。


満足してそろそろまた移住先の国に戻ろうとしたその時に、どういうわけか年若いまほらに後を付けられた。


待ち伏せして声をかけてみればなかなかの美人である事と、しどろもどもろになりながらも平静を装おうとするその姿に普段は抑えている嗜虐心が(くすぐ)られる。

先日コールガールを一人()ったばかりだが、男はどうにも衝動が抑えられなくなった。

このまま近くの宿に連れ込んで……と思っていたところに娘の連れがやって来て余計な邪魔が入る。


しかし男は諦めきれなかった。

魔道具により認識阻害の術を施して今度は逆に娘の後を追い、居住しているアパートを突き止めた。

そして真夜中になるのを待ち、娘を襲おうとアパートに忍び込もうとしたところを大家の父親に捕まったという訳である。


男の最大のミスは欲情に眩んでカタギの女性を狙った事と、そして最大の不運は忍び込もうとしたアパートに元魔法省特務課の英傑が住んでいた事だろう。


かくして男はお縄となり、自白魔法により全ての罪を白状させられる事となった。


裁判はこれからだが、男の罪の深さは筆舌に尽くし難い。

間違いなく極刑は免れないだろう。





「………私、無意識に犯人逮捕のお役にたてた訳ですね」


事件の全容をハウンドから聞かされたまほらがそうつぶやくように言うと、ハウンドが額に手を当て困ったように返した。


「僕はかなり複雑な心境だよ。確かに長年追っていた犯人を逮捕出来た事は本当に嬉しい。ある意味まほらさんのおかげであると認めざるを得ない。だけど一歩間違っていたらまほらさんもミリサと同じ目に遭っていたかと思うと素直に喜べないんだ……キミがたまたま元特務課長が住むアパートの住人だったから良かったものの……そうでなかったと思うと……」


そう言ってハウンドは食堂のテーブルに肘をついて頭を抱えてしまう。

そんなハウンドを宥めるようにまほらは言った。


「まぁ……ラッキーだったという事で……」


「まほらさん、キミねぇ……」


ハウンドが呆れたような視線をまほらに向けたその時、まほらの幼馴染であるブレイズが声をかけてきた。


「まほ!……あ、」


ブレイズは手に弁当箱を携えており、省内の食堂でまほらの姿を見かけて嬉しそうに寄ってきたのであった。

しかしまほらがハウンドと一緒に居る姿を見て、その場で立ち止まった。


何か言いたげにこちらを見据えるブレイズにまほらが声をかける。


(なぁに)ブレイズ、どうしたの?」


「あ、あぁ…丁度まほらを見かけて、今日の玉子焼きはなかなかの出来栄えだから一度食ってみて貰おうと思ってな」


ブレイズは少し歯切れが悪くそう答えた。


「まだ玉子焼き作りを頑張ってたんだ」


「当たり前だろ、まほより上手く作れるようになるのが目標なんだから」


そんな二人の会話を聞き、ハウンドは席を立ちながらブレイズに言う。


「僕はこれから一課に行くから、良かったらここどうぞ?」


ブレイズに席を譲ろうとしているハウンドにまほらが言う。


「仕事なら私も一緒に行きます」


「仕事じゃなくてプライベートだからいいんだよ。それに今はランチタイムだよ?ちゃんと休憩しなくちゃ。じゃあね、ごゆっくり」


「あ……はい、ありがとうございます」


立ち去って行くハウンドにそう答えたまほらを、ブレイズはじっと見つめている。

その視線に気付き、まほらは訊ねた。


「なに?じっと見て」


「……いや、バディと上手く信頼関係が築けているんだなと思って……」


「そうね、でもハウンドさんが優しく歩み寄ってくれるから上手くいけてるんだと思う」


「あの人、かなり浮き名を流していたから本当はまほらを心配していたんだ」


「えぇ?またそんな無駄な心配を。それに彼には事情があって……」


「科捜課もこの事件には携わったんだ、全容の報告を受けたときに凡そのことは察したよ」


「ブレイズのくせに察するなんて……」


「どーいう意味だよ」


「そーいう意味だよ」


まほらがそう言い返すと、ブレイズは少し逡巡して訊いてきた。


「なぁまほ。お前、バディの事を異性として気になっているとか……ないのか?」


「え?私がハウンドさんを……?どうしてそう思うの?」


「だって、バディを組んでまだそんなに月日が経ってもいないのに、かなり心を許しているようだから」


「そう見える?」


まほらがそう訊ねるとブレイズはただ黙って頷いた。


まほらにとっては無意識であったが、幼い頃からまほらを知るブレイズが言うのであればそうなのかもしれない。

もし短期間で信頼を寄せ合える仲になったのだとしたら、それはやはりあの事件が関係しているのだろう。

事件を通して互いの距離が縮まったのだと思う。


ブレイズはそこに恋情があるのではないかと心配でもしているのだろうか。


───でも、ハウンドさんの心にはまだ、ラリサさんがいるのではないかしら……。


街で偶然会った時、ハウンドが彼女に向ける眼差しはまほらが見た事もないようなものであった。

そしてラリサもまた、同じ眼差しをハウンドに向けていた。


「うーん……」


まほらの心にまた悶々としたものが広がる。

そんなまほらにブレイズは言った。


「まほ、俺はもうブレないぞ。お前への気持ちがハッキリと分かったからにはもう絶対にブレない。たとえまほに嫌われても、俺はお前をずっと好きでいる」


「ぷっ、ブレイズだからブレブレなんじゃないの?」


「な、なんだとぅ?」


「とにかく早くその自信作の玉子焼きを食べさせてよ」


「お、おう。見て驚け食べて感激しろ、今日のは本当に完璧なんだ」


ブレイズはそう言って弁当箱を広げ、まほらに玉子焼きを披露した。


玉子焼きを食べたまほらの採点は………ご想像にお任せしよう。



ごめんなさい。

作者の都合により、明日の投稿はお休みさせて頂きます。


ホントに申し訳ないです( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )ピエーン


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