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まほらは恋のキューピットになってしまった

「まほらさぁ~ん!まほらさんって、科捜課のブレイズ=ギブソンさんと幼馴染なんでしたっけ?」


その日、まほらはいつものように勤め先の魔法省に登省してすぐに声をかけられた。


相手はエントランスロビーで受付案内を担当する今年入省のルミア=ヘンリーだ。


「ルミアちゃんおはよう。そうだけど、それがどうかしたの?」


「朝からこんなお願いをするのはおかしいと思うんですけど、まほらさん科捜課の研究室に入ったらなかなか出て来ないから」


「あはは、言えてる。それで、なに?」


「え、えっと、ですね……大変恐縮なのですが……」


「ん?」



ルミア=ヘンリーからは、


“前々からブレイズ=ギブソンに好意を寄せていた。

出来ればお付き合いをしたいと思っている。でもまず手始めに二人でお話をしたいのでお食事でもどうですか?”


と伝えて欲しいと言われた。


まほらは当たり前だが自分がブレイズの事が好きだとは公言していない。

だからまほらの気持ちを知らないルミアはそう頼んできたのだろうが……。


どうしたものだろう。


恋敵になってしまうルミアの言葉をそのままブレイズに伝えるべきなのか。


でも話を聞いた時に驚きすぎて思考停止になり、その場で断れなかったのはまほらの落ち度だ。


それに寄せられた好意に答えを出すのはブレイズ本人。


ブレイズは整った顔立ちをしていて背も高い。

モテないわけでもないのに研究職のせいかあまり人間に興味なく今まで生きてきた。


そのブレイズに初めてこういう事が起きたのだ。

(知らないだけで初めてではないかもしれないが)


「……しょうがない。引き受けた(わけではないが)からにはちゃんと伝えるか」



そう考えて、まほらはブレイズにルミアの事を伝えたのだが……。


結果はまほらの失恋に終わった。

図らずしも、まほらは恋のキューピッドとなってしまったのだ。



まさかブレイズが恋愛結婚をしたいと思っていたなんて。

しかも“ルミアちゃん”と、他の男性職員が呼ぶのと同じように鼻の下を伸ばすなんて。


長い付き合いだがそんなブレイズをまほらは知らない。


これはもう、ホントに、


「どうしようもない」



まほらは隠しきれないショックをなんとか隠しながら自分の部屋へと戻った。


まほらは元は東和連邦の人間だ。

西方大陸の者には東方人と呼ばれているが。


幼い頃、父の仕事の関係でこのアデリオール王国へと移住して以来十数年。

生まれ故郷の東和で過ごした年数よりもアデリオールで暮らした時間の方が長い。


二年前に両親を事故で失ってからは、アデリオールの国籍を取得した。


突然天涯孤独となったまほらを、隣に住むブレイズと彼の両親が寄り添い支えてくれたのだ。


ブレイズの母親は、

「まほらちゃん、ウチに嫁にきなさいよ。そしたら本当の家族として暮らせるわ」

と言ってくれて、まほらもいつかそうなるといいなぁと思っていたのだが。



「ごめん、おばさん……そんな日は来ないみたい」


だがその代わり、エントランスロビーの花と謳われる可愛いルミアが嫁に来るのだから、それはそれできっと幸せだろう。


そう思い、まほらはきゅっと目を閉じた。



そんな日を、側で目の当たりにしたくはない。


ブレイズは恋愛結婚がしたいと言ったのだ。

ルミアと交際するなら、当然結婚を視野に入れるのだろう。


隣家でブレイズがルミアと夫婦となり家族で幸せに暮らす。


喜ばしい事なのにとてもじゃないけど祝福なんて出来ないし、何気ない顔で隣で暮らし続ける事なんて出来ない。


今さらただのご近所付き合いに戻ることなど不可能だとまほらは思った。



「離れなきゃ……」


自分の心を守るために。


孤独な自分を受け入れて、それならそうと新しい人生を歩むために。



まほらは机の引き出しから手帳を取り出し、


ブレイズと決別するためのプロセスを書き出していった。



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