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日常に潜む悪魔  作者: ガクル
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第1話 ダンプに轢かれて

 近年日本は危機を迎えていた。

 年々緩やかであるが、自殺が増加しているのだ。

 それもなぜか揃いも揃ってダンプに飛び込む。

 税収の減少に危機を感じた日本の上級国民達は緊急対策本部を秘密裏に設置、その原因究明に乗りだしたのであった。


 ここは霞ヶ関のどこかにある会議室。最新鋭のパソコンが一室には男女が一人づついた。

「それで原因は分かったのかね、利理子捜査員」

 対策本部局長に抜擢された40代の恰幅が良く如何にも自分以外の人間を見下してそうな男が黒髪ストレートのおかっぱスタイルという狙いすぎた女性利理子に尋ねる。

 ちなみに利理子に名字は無い、これが名前なのかコードネームなのかも知らない。

「はい。承久局長。原因はズバリこれです」

 利理子は承久の前に何十冊という本を置いた。

 それは、どの表紙にも可愛い女の子または美形の男子が描かれ、どの本のタイトルには異世界転生、ハーレム、チートというこの三語が必ず入っていた。

「なんだこれはラノベのようだが?」

 承久は眉を顰めて尋ねる。

 ここは日本で増加する自殺対策をするという極めて真面目で深刻な部署、そこに可愛い絵柄の本が山のように置かれればそうもなる。

「固定観念は捨てて下さい。

 これは悪魔の書です。

 今若者壮年問わず人生に落後した者、言い方は悪いですが負け組の間で流行っている小説です。読んで頂ければ分かりますが、人生の落伍者がダンプに轢かれることで異世界に転移または転生してチート能力を得て、悪を倒しハーレムを築くという内容です」

「まさかこれらに憧れて自殺が増加しているとでもいうのかね」

「そうです。こういった作品の影響力を舐めてはいけません。かつて神級の歌唱力を持つ歌手が自殺の歌を歌ったらファンが一斉に自殺した例もあります。

 これは辛い現実もダンプカーに轢かれれば幸せに成れるという、新しい宗教の聖典なのかも知れませんね」

「大げさな。仮にそうだとして誰が得をするというんだ?」

「例えば日本滅亡を願う某国のエージェントが書いた可能性もあります。某国が海洋に進出するには日本は邪魔ですからね。

 その日本が自然消滅してくれれば願ったり叶ったりです」

 利理子から某国の名が出た途端に承久の顔が引き締まった。

「この本をまずは読んで下さい。あらすじにしますと下らないですが、読めば巧みに弱者の心理を突いてダンプに轢かれれば幸せになれると思考誘導しています」

「分かった。君がそこまで言うのなら今日にでも早速一読しよう」

「お願いします」


 翌日

「本日早朝、承久さんがダンプカーに轢かれる事件がありました。

 警察は事故自殺両方の面で捜査をするとのことです」

 食堂のテレビからは女性アナウンサーの声が流れてくる。

 それをサバの味噌煮定食を食べながら利理子が見ていた。

「あらあら、上級国民と偉そうにしていたのに意外とお辛かったのね。

 次の上司は面白い人だといいわ」

 利理子は楽しそうに微笑むのであった。



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