Story02 明晰夢 : 澄んだ色をどうか濁らせて
白い白い白い
真っ白な場所、空間とも言える場所に旅人は立っていました。
白い白い白い
あまりの白さが眩しくて、瞳を閉じても白く染まっているような気がします。
寂しい空間。何か色があれば良いのにと旅人は願いました。
すると突然に黒い風が吹き、風圧に負けて尻餅をつくと赤い水に落ちました。
驚いて周りを見渡すと黄色い球が浮かび、藍色のリボンが視界を覆いつくします。
そして白が全て飲み込まれ旅人が恐怖を感じる前に、それは逆に白に飲み込まれました。
何事も無かったかのように、空間は白に戻ります。
それはとても駆け足で、あっという間の出来事でした。
「また・・・だ。」
この空間に来るのは初めてだけれど、この不思議な感覚。
どうしてここに居るのか思い出そうとしても、前後が曖昧になる記憶。
あぁ、コレは〝夢〟?
―― そうだ、旅人。貴様の考えている事は正しい。 ――
いきなり背後から聞こえた声に飛び上がりながらも旅人は振り返りました。
―― コレは〝夢〟。貴様の見る夢。全てが貴様次第の・・・な。 ――
一体いつから、いつの間に・・・旅人は開いた口が塞がりません。
声を出すことも忘れ、立ち上がることも忘れ、茫然と見上げるばかりです。
―― ・・旅人。思い描け、そして思考を止めるな ――
旅人の驚きを他所にどこか懐かしむ様な目をして白を纏う青年が言います。
―― でないと、でないと・・・ ――
ごくり。
静かな空間に旅人の唾を飲む音がやけに大きく響きます。
―― 俺が存在できない。消えてしまう・・・よ ――
無表情な顔とは裏腹に響くテノールは儚く、消えて溶けていく様でした。
そして青年も空間と同化していき・・・
澄んだ色をどうか濁らせて
白だと思っていた空間は本当は何も無い透明だった。
〝彼〟について考えた時にはもう全てが消えてしまっていた。
02明晰夢
―― 考えて想像して思い描いて。どうか俺に色をください。 ――
旅人にその声はもう届かない。