Story01 始まりの夢 : 誘いはドルチェ
不思議な香りに誘われ、旅人はどうやら森に迷い込んでしまったようです。
見渡す限りの沢山の木々に旅人は首を捻ります。
一体いつの間に森に入ったのでしょうか。
前後の記憶が霧がかかったようにはっきりしません。
思い出せるのはこの甘い甘い香りだけ。
木々の匂いは不思議とせず、森に漂うのは甘い甘い香り。
この甘い香りに誘われた気がします。
ふと、旅人の視界に綺麗な青色が入りました。
鬱蒼と茂るどこか暗い印象を受けるこの森には不釣り合いな一人の可憐な少女。
だけれど不思議と違和感は覚えませんでした。
一人佇む少女に旅人は言いました。
「どうやらこの森に迷い込んでしまったらしいんだ。
ここが何処だか君には分かるかい?」
―― ここはそう〝有り得ない〟場所 ――
少女の口からは聞こえたはずの声は静まり返った森に響き、別の場所から聞こえてくるようで
「〝有り得ない〟・・・場所?」
―― そうだよ。迷い込んだ旅人さん。有るはずがないんだよ。 ――
謎かけのような言葉を旅人は理解できません。
クスクスと少女の声が響きます。
「ならば〝有り得る〟場所に案内してもらえないかい?」
旅人が言うと少女はそのガラス細工のような大きな目を細め、面白そうに旅人を見ました。
そして森の雰囲気に似合わないほど、いっそう無邪気に柔らかく笑いました。
少女が笑うたびに強くなっていく気がする甘い香りに眩暈がします。
―― 旅人さん。今回は特別だよ。出口まで連れて行ってあげます。 ――
小指を出して少女は言いました。
―― だけど、この先森を抜けても絶対に私の事を、私の森を忘れないでください。
ね?約束ですよ。そして、もう一度会いましょう。――
旅人は少女の強い瞳に気圧されたのでしょうか、どこか怖いと感じる思いに反して首は頷いていました。
そして・・・
触れた指先の冷たさがやけにリアルで旅人は夢から覚めたのでした。
誘いはドルチェ
残った〝モノ〟はむせ返るような薔薇の匂い
果たして旅人はもう一度少女に会うのでしょうか・・・?
01始まりの夢
―― 旅人さん・・・ ――
少女の小さな呟きは誰にも聞こえる事もなく風に乗って消えていきました。