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第2話「襲撃」

 カンカンカンカンと警報が鳴る。

 私は飛び起きる。

 いったい何、何なの!?


 とりあえず、ベッドの横に立てかけておいたジャックといつもの黒いコートを身に着けて部屋を出る。

 私たちの隠れ家が火に包まれていた。


「か、火事!?」


<お嬢、違う。隠れ家の周囲……いや隠れ家内にも大量の古遺物(アーティファクト)の反応。これは王国騎士団(ロイヤル・ナイツ)だ>


王国騎士団(ロイヤル・ナイツ)がどうして……。どうしてこの場所がわかったの!!」


 私たち黒の盗賊団『黒狼』は数日単位で隠れ家を変えている。

 五大盗賊団の一角である私たちの盗賊団は常に騎士団の襲来を警戒していた。

 それなのに今回奇襲を許してしまった。しかも宴の次の日という一番油断したときに。


「まさか昨日の商人は罠!? じゃあもしかしてこの古遺物(アーティファクト)は探知機か何かなの!?」


 昨日商人から強奪した積み荷にあった謎の古遺物(アーティファクト)

 ジャックの鑑定でも詳細が分からなかった古遺物(アーティファクト)は今も私の懐に保管されている。


<さすがにそれはない。そんな単純な機構なら俺様の鑑定をごまかせるわけがない>


 それならひとまずは安心……とはいかない。

 とりあえずは騎士団を追い払って隠れ家から引き上げないといけない。

 損害を可能な限り少なく抑えないと。


「ママが留守にしているとき襲われるなんて最悪」


 国家直属の治安維持組織である『王国騎士団』。

 『騎士団』は貴族の血を引く人間が数多く所属しています。そのため『魔力持ち』がごろごろいて、貴族の血を引き、しっかりと教育された彼らの魔法は私とは比べ物にならないほどの練度です。

 そんな騎士団に奇襲されたら魔力持ちの私や戦闘のプロである幹部たち以外はなすすべもなくやられてしまうだろう。

 ママが隠れ家を留守にしていたのもあり魔力持ちは私一人だけです。ママがいればみんなの逃げる時間くらいなら稼げたかもしれないのに……。


<まさに泣きっ面に蜂ってな>


「……? よくわからないこと言ってないで早く古遺物(アーティファクト)の位置情報を共有して。みんなを助けないと」


 ジャックから位置情報が共有される。

 『王国騎士団』はその装備も一流。

 そろいもそろって高級な古遺物の武器を装備している。

 しかし、私……ジャック相手にはそれが自分の居場所を漏らしてしまうのだ。

 私はフードを深くかぶり直した。


 窓から飛び降り、直下にいる騎士の首筋を狙い一撃で絶命させる。

 まず一人。

 ……近くで盗賊団の一人の死体が見えた。もちろん知っている顔だ。

 くそくそくそ。


「魔法【気配遮断】」


 私が最も得意とする魔法。盗みにも暗殺にもなんにでも使える魔法で、自身から発生する気配を消すことができる。探知系魔法からも練度次第ではすり抜けることができる。

 騎士団と正面からやりあって勝てるわけがない。奇襲と暗殺を繰り返してまずは数を減らす……。

 減らしてどうする。全員を相手にすることはまず不可能。どこかで逃げ出すタイミングを探らないといけない。

 あー頭がパンクしそう。私は頭よくないのに考えちゃだめだ。とりあえず目の前のことを一つ一つ。


 二人目と三人目は集団からはぐれた所を暗殺した。

 四人目は、一撃で仕留められず剣戟戦になった。

 膂力では小柄な私では同程度の魔力量の相手に勝てるわけがない、だが相手は騎士団……正義の味方だ。


 私は深くかぶっていたフードを外す。

 私の……幼い少女の顔があらわになる。


「!?」


 そう、戸惑う。子供でしかも女の子。しかも美人なママの血筋のおかげで顔はかなり整っている。

 熟練者ならこの程度で心は揺れないだろう。だがこの騎士は若い。

 それでもすぐに心を切り替えるだろう。だが、殺し合いではその一瞬が命取りとなる。


「魔法【瞬間強化】」


 こうして四人目の命も刈り取った。

 この手はあまり使いたくない。使ったからには必ず殺さなければ顔がバレるからだ。

 私はまたフードをかぶり直し、移動を開始する。


 昨日宴をしていた一番の広場を物陰から覗き見る。

 盗賊団の仲間が騎士団の剣に切り捨てられ死体となって積み重なっていた。また生き残っているメンバーもその身を拘束され動けなくされ一か所に集められていた。


「ふぅー、ふぅー」


 感情を抑えろ。落ち着け私。

 感情のままに動いても事態は好転しない。観察し、機を待つ。

 捕らえられているメンバーにパパや幹部たちの姿はない。ほかのところで戦っているのだろうか。それともまさかすでに……。

 いやな予感を頭から振り払う。

 まずはパパたちと合流するのが先……。戦力が分散している状況は非常にまずい。


<お嬢、後ろ!!>


「!?」


 ジャックに言われ急ぎ振り向く。油断はかけらもしていなかったのに後ろ取られた。

 ……が、そこにいるのは見知った顔の白髪の老人。幹部の一人『長老』だった。


「お嬢、無事でしたか……。本当に良かった」

「長老……その腕は……」


 長老の右手は肘から先がなかった。

 血がぽたぽたと垂れる様が痛々しい。


「ちょいとやらかしました。今回の騎士団はかなり戦力を導入しているようです。明らかにレベルが違う人間が混ざっておる。私ら幹部と同等か、それ以上……」

「パパやほかの幹部たちはどこにいるかしらない?」

「『黒狸』と『黒鹿』は、裏で戦っているのが見えましたが長くは持たないでしょう。団長と『黒狐』に関しては所在が分かりません。素直に逃げていると良いのですが」

「逃げていいわけないじゃん。みんな捕まっているんだよ!?」


 私の言葉に長老は優しく微笑んだ。

 左手で私の頭をフードの上からなでる。


「お嬢はお優しい。しかし常にリーダーは冷静でなくてはならないと教えましたよね」


 私はこくりとうなづく。

 長老はこの盗賊団の最年長。

 パパやママの相談役や、新人の指導役などこの盗賊団を陰から支える人だ。

 私も多くのことを教わった。


「お嬢は逃げて下さい。ここはワシたちでどうにかしますんで」


 私は嫌だと言いたかった。

 でもそれは長老も、そして捕まっている仲間も望んでいないだろう。

 パパやママの所在が分からない状況で私まで捕まってしまったら、この盗賊団は終わりだ。

 少なくともママは別行動中だ。私の役目はママと合流して機会を伺うことだ。


「お嬢はワシらの希望なのです。あなたが生き残れるのならばワシらはここで胸を張って命を落とせる。頼んます、ワシらのために逃げて下さい、お嬢」

「命を落とすなんて気軽に言わないでよ……。生きて再開しよ?」

「……ええ、お嬢」


 長老は懐から布袋をだして私に握らせる。

 ずっしりとしたその感触は中身を見るまでもない。


「お小遣いです。無駄遣いはだめですよ」

「するわけないじゃん」

「どうですかねー。アニラちゃんはすぐ買い食いしますからねー」

「それは子供の時の話」


 昔みたいにアニラちゃんと私のことを『長老』は呼んだ。

 なつかしさを感じると同時に、離れたくなくなってしまう。

 でも、ダメなんだ。感情を切り捨てろ。自分のエゴのために期待を裏切るな。


「『長老』、私行くね」

「えぇ、ワシも仲間達(やつら)のところに行ってくる。お嬢と同じで彼らもワシにとっては大切な家族じゃからな」


 走る。振り返らない。振り返れば戻りたくなるから。

 走れ。全魔力を身体強化に回して駆け抜ける。


<お嬢が泣くなんて珍しいな>


「泣いてない」


<……そうか。まぁ、天気悪そうだもんな>


 そう、泣いている暇なんてない。

 まずは逃げきる。そのあとはママと合流するんだ。


「ジャック、周囲に古遺物(アーティファクト)の反応はある?」


 『切り裂き魔刃(ジャック・ザ・ナイフ)』には3つのスキルがある。

 『鑑定』は昨日の宴で使ったスキルで古遺物(アーティファクト)限定でその詳細を調べることができるスキル。

 『探知』は、近くにある古遺物の反応を感知することができるスキル。

 そして最後のスキルが『収納』、古遺物もしくは所有者自身をジャックに収納することができるスキル。大きさに制限はないけど、5秒以上連続でジャックが触れていなければ使えないスキルとなっている。


 この中の『探知』を使ってもらい、王国騎士団(ロイヤル・ナイツ)が所持している強力な古遺物(アーティファクト)を感知する事で、敵を避けて逃げる事ができるはずだ。

 足の速さには自信がある。

 私が全速力で逃げれば今まで誰も追いつくことが出来なかった。


(――っ!? すまねぇ、お嬢。探知するのが遅かった! 後ろから強力な古遺物(アーティファクト)の反応だ!)


 そんな私を追いかけてくる影があった。

 その影は一瞬で私の前へ回り込み、その姿を見た私は顔を歪ませた。


 白い騎士服を身にまとい腰に二本の古遺物(アーティファクト)の剣を携える二十代前半の金髪碧眼の男。

 『雷醒』の異名を持つ第二騎士団の騎士団長様だ。

 (イカズチ)を身に纏い、夜の帳を雷光で切り裂くその佇まい。敵意を向けられて無ければ、自然と息が漏れ出るほどの格好良さ。私にとっては死神以外の何者でもありませんけどね!


「一人たりとも逃がすわけにはいかない。特にキミはね」


 私が今着ているローブは古遺物(アーティファクト)の1つ、『不可知の黒衣(アンノウン・ローブ)』。フードを被る事で他人に顔を認知できなくする古遺物(アーティファクト)。まぁ、あくまで顔が絶対にバレないというだけなので、覆面や仮面でも代替可能な地味な古遺物(アーティファクト)ですけど。

 しかし彼は私の正体に気づいています。

 盗賊団の魔力持ちの幼い少女。

 私の顔は古遺物(アーティファクト)のおかげで世間に知れ渡ってはいないですが、私の存在自体は有名なのだ。

 それだけ平民の『魔力持ち』が希少であるということの証左でもある。


 はるか後方から私に気づき、そして追いつくことのできる速度。

 これが『雷醒』。6人しかいない騎士団長の一人。

 『雷醒』相手に戦闘するなど自殺行為。


 ジャックが『鑑定』した情報を私と共有してきた。


--------------------

 雷神の怒りを双す双剣(トール・フローレム)


 レアリティ:エピック


能力:雷を宿す二対の剣。所有者に雷のごとき速度を付与する。

   また、それぞれの剣で雷を自在に発生、操作、打消しを行うことができる。


--------------------


 これは『雷醒』が腰に差している二本の剣のこと。

 レアリティはコモン、アンコモン、レア、エピック、レジェンドの順で高くなる。

 エピック以上は同一の古遺物が存在しない一点ものの超希少古遺物だ。


 他にも装備をレア以上の装備の古遺物で固めている。

 歩く博物館かよ、って言いたくなる。


「素直に捕まってはくれないか? たとえ盗賊でもキミのような少女を気づつけるのは気が引ける」

「…………」

「返答なし。しょうがない。では、できるだけ優しく捕縛するとしよう」


 その瞬間、閃光がほとばしった。

 一瞬だが意識が飛ばされた。地面に体を打ち付けてしまう。


<お嬢、大丈夫か!?>


「うるさい、ジャック。無駄に喋る暇があったら少しでもいいから力を貸して」


 何とか体を起こす。下の奥にしびれが残っている。

 これは雷魔法か。属性魔法は貴族院でしか教えてない高等魔法。

 私のような庶民が使えるような魔法とは規模が違う。


「ほぉ、『魔法【閃雷】』が直撃してもまだ立てるか。貴族レベルに魔力が多いとは聞いていたがこれほどとはな。教育を受ければ立派な魔法使いや騎士になれそうだが……盗賊なのがもったいない」

「ほめていただきどーも」


 手を考えるが、何も思いつかない。

 逃げることは不可能、戦うことも不可能、投降はありえない。


<万事休すとはこのことだな>


 ジャックの意味わからない言葉にもいまさらイラつきもしない。

 ジャックを握りしめて腰を落とす。戦って何とかスキを作り出して逃げるしかない。


「ジャック、大技いくから準備してて」


<了解。お嬢、死ぬなよ>


 その言葉にうなづき、私はジャックを構えて突撃する。そして素直にまっすぐジャックを突き出した。

 

「ジャックナイフ!!」

「そんな直線的な攻撃が当たるわけがない」


 簡単に避けれらて、カウンターで右の拳を叩き込まれそうになる。

 しかし拳が直撃する瞬間、私の姿が消える。

 ジャックだけが空中に取り残されて、くるくると落下した。


<解放!>


 私の姿が現れる。

 私のジャックが編み出した初見殺し技『アニラ・スペシャル』。

 相手の攻撃に対してジャックの『収納』で私の体をジャックが作り出す空間に収納し、相手の攻撃をよける。そしてすぐに開放してもらいカウンターを決める大技だ。

 5秒以上ジャックに触れてなければ『収納』が使えない制限のため連続での使用ができない技になるが、どうせ初見殺しの技なので関係ない。


 私はナイフ……ジャックを『雷醒』の心臓に向けて突き出した、が。


「危ない危ない。どういう理屈かわからないけどオレの眼から一瞬でも見失わせたことはほめてあげるよ」


 『雷醒』は左手で剣を抜き、私の攻撃を防いだ。

 完全な死角からの一撃なのに、こちらを見ずにそれを防いで見せたのだ。


「あんまりやりたくなかったけど、腕一本くらいそぎ落としておこうか」


 そして剣をひる返して、私の右手に向けて振り落としてきた。

 やばい、ジャックの収納は間に合わない。


 キー―――ン、と金属がぶつかり合う音が響き渡った。


「これは騎士団長様。俺の相手をお願いできないかな」


 私と雷醒の間に一人の男が――私のパパが割って入った。

 私の身の丈よりも大きな大剣で『雷醒』の一撃を防いだのだ


「お前は黒の盗賊団の団長アレスタだな」

「あぁ、『黒狼』の団長のアレスタで間違いないさ。そちらは『雷醒』……名前は忘れた。とりあえず第二騎士団の団長様だろ。よく知ってるよ」


 そしてパパは私だけに聞こえるように


「アニラ。逃げなさい。東の方角は騎士団が手薄になっている」


 私は「パパ、ありがとう」とだけ言い残して即座にその場を去った。

 ここで躊躇していては逃げる時間を作ってくれた長老の意思もパパの想いも踏みにじることになると思って……。



 そこからは順調だった。

 パパが『雷醒』を足止めしてくれていたおかげか、追ってはこなかった。

 疲れ果てた私は、古びて誰もいなくなった民家を見つけて、その屋根裏で睡眠をとることにしたのだった。


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