シャルルくんちの家庭の事情
既にして色々なものが手遅れではあるが一応色ボケの心積りを聞いておこう。
一発逆転目から鱗の冴えたやり方を思い付いている可能性が無きにしもあらずかもしれないという僅かな希望を捨ててはいけない。
「ルフランの世継ぎ…ということであれば、僕でなくとも良いはずだ」
それかあ…。
「シャルル、どういうこと?
この国の王太子は貴方じゃない」
「僕は王太子の座を…、兄上に譲るよ」
「そんな!」
はい終了!
シャルル先生の次回作にご期待ください!
兄上。
そう、シャルルは王太子だが、実は第一王子ではない。
ルフランでは家督継承は正室の子供、かつ男子が優先される。
基本的には正室腹男子>側室腹男子>正室腹女子>側室腹女子の順だ。
よって面倒事を避けるため夫はまず正室に男子が生まれてから側室と子作りするのが一般常識である。
それまでは避妊。
だがしかし、シャルル父、つまり現王は嫡男が生まれるより前にさっさとエメリア妃に子供を生ませちゃったのだ。
というか王妃様の輿入れ直後に側妃の懐妊が判明したので、輿入れ前には仕込んでたまである。
王妃様は王と側妃より二才年下なのでご成婚もその分遅かったのだ。
「リリーと同じ様にオリヴェル兄上を母上の養子とすれば、兄上が正嫡の長男になる。
ローゼリアは新王太子の妃となれば和平に支障はないはずだ」
「そんな!
シャルルはずっと頑張ってきたじゃない!
お父さんは愛人に夢中で、厳しいお母さんや我が儘な婚約者に辛く当たられて!
それでも良い王様になろうって、必死に頑張ってきたんでしょ!?
そんなシャルルが王様になれないなんて、そんなのおかしいよ!」
「アリア、僕は確かに王になるため努力してきた…。
非才なりに必死にあがいてきたよ。
でも国民を戦争には巻き込めないし、君との愛を捨てることなんてできない。
もうこれしか無いんだ…!」
最高潮に盛り上がってるがまた突っ込みどころが多すぎる。
エメリア妃は愛人じゃなくて側室だし、王妃様は厳しいが子供への愛情はきちんと示すタイプだ。
頑張ってて偉いわね的な事は会うたび言ってたわ。
私は転生してこのかた完璧な淑女としての外面を保ってきたしシャルルにも仲良しアピールしてきたとも。
だって政略結婚だからこそ、ラブラブは求めなくても不仲は困る。
嫁いできた皇女が偉そうにしてればルフランからオルトナッハへのヘイトが、蔑ろにされていれば逆のヘイトが貯まるんだよ。
アリアの間違い情報は置いとくとしてもお前はちゃんと否定しろやこら。
「アリア嬢、根も葉もない暴言は王族に対する不敬罪にあたります。
学生の身分でも見逃されるものではありませんよ。
それに殿下…、オリヴェル殿下にはとうに正妃がいらっしゃるのを忘れたとでも?
まさかこの私を側妃にするおつもりですか?」
「ええっ、そんなまさか!!」
アリア嬢何に驚いてるん?
不敬罪とかご存じ無いの?
第一王子オリヴェル殿下はシャルル殿下の四つ年上で二十二才。
正妃も居るし側妃も五人居る艶福家だ。
この国では側室や愛人が複数名居れば多情、一人なら純情一途という認識になる。
愛人ゼロの王妃様は喪女扱いだし、正室が恋愛対象なんて言った日には特殊性癖認定だ。
つまり今まさにシャルル殿下は盛大にカミングアウト中であり、周囲の驚きもたぶん半分くらいはそっちに向いてる気がする。
「それともマルグリット妃を側妃に格下げするとでも?
公爵家から王家に嫁ぎ、すでに男児も産みまいらせた何の瑕疵もないマルグリット様を!
殿下がそこの男爵令嬢と結婚したいというただそれだけの理由で!」
「あんたが!
あんたが居なくなれば良いんじゃない!
シャルルにふられたからって次はオリヴェル様にだなんてあり得ない!
どんだけ王太子妃になりたいの!?
悪役は悪役らしくさっさと国に帰りなさいよ!!」
すっ……ごいな!
え、何だこれは。
本当に何だこれは。
完全に目がイっちゃってるぞ。
流石のシャルルも固まってるし聴衆もドン引きだ。
というか悪役って表現はこれ…もしかして、もしかしなくてもアリア嬢転生者?
「私ルフラン語の勉強が不十分だったかしら…、何をおっしゃっているのか一切理解できませんわ。
ただ一点、国に帰るというところだけは肯定いたしましょう」
まあ転生特典か語学は完璧なんですが。
弾かれたようにこちらに視線が集まる。
シャルルと生徒達は純粋な驚き、血走ったアリア嬢のそれは勝ち誇ったような喜びの目だ。
「もともと卒業後は婚儀の準備のため一時帰国する予定でございました。
旅支度も済んでおります。
それに何より―――、この婚約を破棄するにせよ新しく結び直すにせよ、殿下にも私にも何の権限もございません。
本国に持ち帰り御前会議にて稟議の後、皇帝陛下のご裁下を仰がせていただきます、としか申し上げられませんわね」
こんな学生の卒パでそんなん決められるわけないやろ。
シャルルは王太子でギリギリ成人とはいえ実権もない学生身分、私に至ってはそれに加えてただの一皇族だ。
その辺本気でわかってないのか、わかってて既成事実を作ろうとやったのか。
どっちなんでしょうねー。
「卒業生の皆様、この様な晴れの日にお騒がせいたしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
私先に失礼させていただきますわね。
それではまた会う日まで――、ご機嫌よう」