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テンプレートと呼ぶにはどこかおかしい世界の話

場所はルフラン王立学園、きらびやかな大ホール。

時は三年間の締めくくり、卒業パーティーが始まってすぐ。

状況は端的に言って―――、ほぼほぼテンプレ乙女ゲーのクライマックスだ。


「ローゼリア、君との婚約を破棄する。

僕は――――、真実の愛に出会ってしまったんだ…!」


この色ボケが私の婚約者、ルフラン国王太子シャルル殿下である。

政略結婚だがお互い憎からず思ってはいたし、仲を深めるためにこの国に留学までした。

生真面目で穏やかな殿下とならきっと良い夫婦になれると思っていた。

いた。

過去形。


「君もわかっているとは思うが、僕はアリアを愛してしまったんだ。

最初はただ可愛らしい令嬢だな、としか思っていなかった。

だが彼女の素直さやひたむきさ、芯の強さに触れる内にどんどん目が離せなくなっていった。

アリアしか目に映らなくなってしまった」


眼科に行け。

生徒達の驚愕と困惑も目に入ってないんですね。

というかなんでこういうのって卒業パーティーなん?


「君は優しく美しく、聡明で勤勉な素晴らしい淑女だ。

きっと誰からも敬愛される完璧な王妃になっただろう。

私生活でも誠実で貞淑な妻として、僕を支えてくれただろう。

そんな君が、地位惜しさに人を傷つけるなんて…信じたくなかった…!」

「やっておりませんので」


むしろなぜ信じた。


「嘘です!

罪を認めて下さいローゼリアさま!

私を酷い言葉でなじったり、水を掛けたり、母さんの形見を壊したりしたじゃないですか!」

「私貴女とお話しするのは今日が初めて。

今まで誰かに水をかけたことなどありませんし、貴女の形見とやらが何かも存じ上げません。

とっても想像力が豊かでいらっしゃるのね?」


いや本当に。

時々走り寄ってきて一方的にアレコレ捲し立てて走り去っていかれた事しかないな…。


「よくもそんな…!

シャルルに近づくなとか、泥棒猫とか、下級貴族風情が身の程を知れとか!

いつもいつも酷いことばかり言って、昨日はとうとう階段から突き落とされたんです!

こんな犯罪者、シャルルに相応しくなんてない!」

「まあ昨日。

昨日の何時、どこの階段でのことかしら。

一切身に覚えがございませんわ」


そんなことを、まさか、とざわめく観衆。

階段落ちして怪我の一つも無いとはこれいかに。


「昨日の昼休み、特別棟の階段です!

どうしてそんなに堂々と嘘がつけるんですかぁ…!」


お前がな!?


「お願いだローゼリア、もう罪を認めて謝罪してくれ!

そうしたら刑罰は求めないとアリアも言っている!」

「刑罰?

司法官のようなことをおっしゃるのね。

次は有りもしない証拠でも持ち出してくるのかしら?」

「そんなものは無い!

アリアが君にやられたと言っているんだ!

それ以外の何が要る!」


マジかよ。

マジかよ…。

仮にも法治国家の王子としてはあんまりな衝撃発言。

色ボケの国から色ボケの布教にやって来た色ボケの王子様なの?

大体あってるから困るな!

流石の令嬢スマイルも剥がれて真顔です。

周囲も無言だよ。

せめて何か捏造とかしてないの…?


「…私昨日は王妃様のお見舞いに行っておりましたの。

登校してもいないのに無理のある話ですわね」

「えっ!」

「そんな、いや、だが…。

母上は君を気に入っている、頼まれれば偽証くらいはするかもしれない」


うーんこの。

ブレてるというかブレないと言うか。

王妃様が聞いたら余計寝込むぞ。


「王妃様以外の、医師や使用人など誰に訊いても同じ様に答えるでしょう。

それにその、下級貴族がシャルル様に近づくな、でしたか?

そんなことを私が申すはずもございませんわね」


そう。

妃の座を脅かされ焦った令嬢が凶行に及んだ、と言う設定には無理があるのだ。


「なぜなら、自分の婚約者に男爵令嬢が言い寄ったとして…」


それが「ほぼほぼテンプレ乙女ゲー」に混入した非テンプレ成分。


「それに腹を立てる高位貴族の令嬢なんて、どこにも存在しないでしょう?」


ルフラン王国は、恋愛観と貞操観念のおかしな国だったのです。


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