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いよいよ、ここから


「……ってなわけで、コイツがキコさんの造った対魔銀だ。次はこれを使って、魔力貯蔵容器を試作していく。ルーナ、爺さん、よろしく頼むぜ」


「魔法効果合金はキコが開発して以来、それだけで鍛治師や魔導具職人の界隈に一大分野を築くほどに普及しとるが、まさかそんな使い方をするとは思わなんだわい」


「そうだね。普通の使い方は、人が魔法を使う時の補助や増幅の為の杖とか装備品だったり、魔導具の性能を補正したり向上させる為の媒体だったり、そういう目的の為の材料なんだよ。なのにユージ君は 騎導紋(ガイスト) の時からそうだったけど、そこんとこ本当に常識外れだよね」


「そう言われてもなぁ。魔法とか魔導具を使うには魔力が必ず必要なのに、その供給元が自分の魔力か魔石しかないなんて、信頼性に欠けるし不安定過ぎるだろ。なら、無尽蔵にとまではいかなくても、安心して使える安定した供給元を手に入れたいって思うのは、普通の考えだと思うぞ」


「はぁ……その自分の魔力や魔石は、ユージ君がこの世界に来る前までは安心して使える安定した供給元、だったはずなんだけどねぇ」



 対魔銀をキコさんがあっという間に用意してくれたから、早速ルーナと爺さんに魔力貯蔵容器を試作してもらおうと思って、 オレは二人に話を持ちかけた。


 ただまぁ二人とも、ってかこの世界で生まれた人達は全員だろうけど、“魔法や魔導具を使う時の魔力の源は、自分の身体か魔石だけ”、って常識の中でずっと生活してたから、その二つ以外の供給元を求める事自体を、常識外れだと思っちまうらしいな。


 でもそれは当然の考えだし、よその世界から来た藍華とかオレの方が優れてるんだ、みたいにアホな思い違いをするつもりもねぇ。



 例えば、こっちじゃ魔力が在るのは当たり前だけど、地球じゃ電気が在る生活は当たり前だった。


 けど、地球だって人類が誕生した時からすぐに、そういう便利な暮らしが出来たわけじゃない。


 ふとある日気付いた誰かが。


 気になって調べた誰かが。


 研究と工夫を積み重ねた誰かが。


 そういう、何時の時代にも当たり前にいる誰かが、高く硬く強く大きく築き上げた土台の上に、便利な生活が成り立ってたんだ。


 じゃあ振り返って見て、この世界はどうだ?


 便利な動力源になる魔力はあるし、それを活かした魔法や魔導具だって少しずつ開発されて普及していって、ちょっとずつ進歩し続けてる。


 っつっても、千五百年以上前に藍華達が築き上げていた土台は、ルカールっていうたった一人のバカ野郎のせいで一度は崩壊して、そこからまたゆっくり積み重ねている最中だから、大昔より遥かに頼りない物だ。


 なら、この世界だとまだまだ何もかもが足りなくて、頼りない土台しかないんだったら。


 オレがオレ自身の趣味を満喫する為に、どんどん積み重ねを加速させてやる!



「まぁでも、なんだかんだ言ってもユージ君のする事は世の為人の為になってるもんね。それに、人の趣味にケチつけるなんてつまんないし、常識外れでも上手くいくならどうでもいいや」


「オレは自分の趣味を満喫する為にやるだけで、別に……」


「はいはい、世の中の為じゃないんだよね。それよりさ、ボクと爺ちゃんは 紋繰騎造師クレストレースビルダー であって鍛治師じゃないんだけど、合金の塊だけ持ってきてどうするつもりなの?」



 あぁ、うん。


 確かに二人とも、造師(ビルダー)っていう 紋繰騎(クレストレース) の組み立てや修理に改良とか改造がメインの仕事で、鍛治師みたいに単なる金属の塊から、必要な部品を造るのは本業じゃない。


 けど大丈夫だ、問題なんか何もねぇよ。



「そこは心配しなくていいぜ。待たせたな藍華、お前の出番だ」


「ちょっとー、ゆうくーん。私は、というか今の私の身体になってるエンペリオンコアは、“神帝戦鎧(しんていせんがい)エンペリオン”っていう巨大ロボのコア、中枢なの。間違っても、工場で使われる生産管理コンピュータとかじゃないのよ。それをちゃんと理解してるのー?」


「うん? アイカの嬢ちゃんに出番が回るなら、多分魔導生物を使うんだろうが、今度は一体何をやらかすつもりなんだ、ユージ?」


「たった今、藍華は工場って言ってただろ? それが答えさ。実はな……」



 確かに、オレ達の味方には造師(爺さん)錬金師(キコさん)魔導具職人(ルーナ)は居るけど、鍛治師はいない。


 でも、鍛治師を引っ張り込むまで研究や開発の手を止める、ってのは今の状況だと悪手だと思う。


 だから、 紋繰騎(クレストレース) とか魔導具に使う部品を合金から形造る為の、魔導生物でほぼ自動化された工場、魔導生物プレハブミニ工場を用意したんだ。


 設計から完成プレビューまではエンペリオンコアが、各種の成形やら加工は魔導生物が、それぞれ担当して一つの自動工場みたいに動く。



「……で、藍華自身には、エンペリオンコアと魔導生物の統括管理を担当してもらうから、“ほぼ”自動化工場って扱いなわけだ」


「ユージ君……いつの間にそんな、貴族とか国とかお抱えの鍛治師や造師の大工房、みたいな代物を用意したのさ?」


「キコさんの工房を建てた後、 紋繰騎(クレストレース) を全騎格納する駐騎棟も一緒に造っただろ? その時パッと思い付いたもんだから、ついでにちょちょいとな」


「まるで朝飯前みたいに言ってくれるけど、これだけの魔導生物を管理するの、全部私の仕事なのよ。あの時はつい悪ノリで賛成しちゃったけど、ちょっと失敗しちゃったかなぁ……」


「……なるほどねぇ。つまりは、ユージ君の常識外れとアイカさんの自業自得、二つの勢いの産物なんだ。やれやれだよ」



 おいおいルーナ、そんなに呆れるなよ。


 それに藍華、お前だって“秘密基地によくある有能技術者ポジ&ラボっていいよね!”なんて、すっげぇはしゃいでたろ?


 せっかくみんなの役に立って、賛成した藍華も嬉しい物を用意出来たんだから、もっと喜んでくれよな。


 でもまぁ、このまま藍華を工作コンピュータ扱いする気はねぇし、このミニ工場の魔導生物を制御するデータが揃ったら、エンペリオンコアの代わりは必ず用意する。


 そいつはきっと、魔導生物とか 紋繰騎(クレストレース) の無人制御にも役立つはずだからさ。



「……まぁいいさ。とにかくこれで、材料と部品の生産に、魔導具の製作と騎体の改良や改造、そして試験運用と評価まで、オレ達の研究と開発に必要な全てが揃ったんだ。なら、後はやるべき事をそれぞれがこなすだけ、そうだろ?」


「ぶわっはっはっは! 造師になってこのかた、ここまで一挙に至れり尽くせりな待遇を用意された事なんぞ、初めてだ! 全くもって、ユージはとんでもない奴だわぃ!」


「うはぁ……改めて言われてみて、どれだけ凄い事なのかようやく解った気がするよ……ボク、頑張らなきゃ!」


「んもぅ、仕方ないわね! こうなったらせめて、もらった仕事は完璧を目指す! それで良いわよね、ゆう君!」


「おぅ! 三人とも、ホントよろしく頼むぜっ!」


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