対魔銀
「それで、合金の名前だったかぇ。そいつらは、“対魔銀”と言っとったねぇ……あぁ、そういえば確か、“ミスリル”がどうとか……」
「ミスリル!? ……この世界だと、その呼び名が付いてる金属って、他には無いのっ?」
「ど、どうしたんだい急に……そうだよぉ、確かに連中はそう言っておったし、この世に在る鉱石や他の合金にだって、そんな名前は無いねぇ」
……そうか、そういう事かよ。
ルカールのクソ野郎は、藍華から聞き出したらしい地球の知識を元にミスリルを再現して、二つの頭イカれた計画以外にも何かしら企んでたのか。
だからその一環として、初代ラクスター侯爵が築いた最初の魔導生物技術研究所と、そこにある成果を全部奪った。
ところが、中で何したかは知らねぇけど研究所の自爆機能が作動して、奴の勢力は人数が一気に激減。
しかも、せっかく手に入れた魔導生物技術も、一つ残らず消し飛んだ。
そのせいでクーブリック王国の政治的にも、奴個人の野望的にも足踏みせざるを得なくなった。
ついでに言えば、結局ミスリルの再現も、キコさんの言い分じゃコスパ劣悪な失敗作だ。
これが、まだ謎だらけなままだけど、三十年前から今までにあった、ルカール側の動向だろうな。
でもその時からは、もう三十年が過ぎた……。
千五百年以上前から謎の手段で生き延びて、遥か昔から今でも頭おかしい計画を遂行し続けてるルカールからすれば、ほんの一時かもしれない。
けどそれだけ経てば、一部例外の種族を除いて人生的にも労働力的にもそれほど長寿じゃないこの世界の人間社会だと、比較的穏やかな所でも確実に一世代、出入りや消耗が激しいと二世代近くは、人の入れ替わりや増員が起きてるはずだ。
ってことは、足踏みしてたルカールのクソ野郎があちこち立て直して動き出すのも、そろそろって事になる。
そして、古代魔導文明時代にはエンペリオンとセンチネリオンの合計七体しか無かった、強力な大型魔導兵器。
それからはかなり劣るのかもしれないけど、この現代にゃ 紋纏衣 に 紋装殻 に 紋繰騎 っていう、個人単位をそこそこ強化可能な装備が普及してる。
だとしたら、三十年前に一度は失敗したらしい何かしらの計画も、また動き出すかもしれないな。
よし、そうと分かればこうしちゃいられねぇ!
オレ達の研究も計画も、さっさと推し進めよう!
「ねぇ、キコさん。その、例の合金……」
「あぁ、ユージどん。私の事は気にせんで、対魔銀でもミスリルでも、好きな方で呼べばえぇよ」
うん、やっぱキコさんは優しい人だ。
当時のすっげぇ嫌な思い出もあるのに、オレがちょっと呼び名をどうするか躊躇っただけで、それを気にするなってあっさり言ってくれるんだからさ。
「そっか、ありがと。んじゃその対魔銀だけどさ、かなり薄くしても効果は変わらないのかな?」
「薄くというのがどれほどかは知らないけども、厚みを減らした分だけ、魔法を防ぐ効果は弱まるよぉ?」
「いや、防ぐのは魔法じゃないから、それでも構わないんだ」
ふーむ……。
つまり、合金に内包してる魔力量が合金の物理的な厚みにほぼ比例してて、それがそのまま障壁魔法効果としての性能とイコールの関係、って事か。
だったら元からの予定通り、無属性魔力を貯める容器の材料にゃピッタリだ!
魔法は、無属性魔力に何らかの属性や効果を付与して変質させた、魔力の作用だからな。
そうする前の段階、単なる無属性魔力なら対魔銀で囲って造った入れ物に、問題なく封じ込められるはずだ。
外は鉄とかの硬い金属にして、対魔銀で内張り。
出入口は出来るだけ狭く造って、魔力路で導線を確保すれば……。
あ、もう一つ良い事思い付いた!
ある程度魔力を貯めた容器の中に、外から魔晶粉末を供給したら、後は内部で勝手に魔晶の魔力還元が連鎖反応で進むよな。
それなら、送り込む魔晶粉末の量を意図的に調節してやれば、継続的に魔力の貯蔵と供給が出来るかもしれない!
よしっ、よしよしよーしっ!
「早速だけどさ、対魔銀を使った魔力貯蔵容器、その作成に必要な分の合金を精製してほしいんだ」
「ほっほほ! 対魔銀に拘る理由はそれかぇ! 魔法を防ぐんではなく、魔力が外に漏れるのを防いで貯めるのに使うだなんて、ほんに面白い発想だねぇ!」
「実はさぁ、キコさんと出会う前にレギオンマンティスの群れと戦ったんだけど、その時 魔法戦杖 の魔力残量が問題になったんだ。ほら、今だと全部魔石で賄ってるでしょ?」
「あぁ、確かにそうだねぇ。戦ってる途中だと、おいそれと魔石を交換は出来ないし、何より残り魔力の量がはっきりしないわぇ?」
「そうそう! だからあの武器は手元に有ったら助かるんだけど、いまいち信頼性には欠けるんだよ。でもそういう問題点を解決するのに、対魔銀は丁度いいんだ!」
魔晶粉末での魔力供給式にしなかったとしても、容器のサイズっつーか規格を整えれば、魔力残量は今までよりずっと分かりやすくなる。
そして、その用途を 魔法戦杖 だけじゃなく 紋繰騎 にも適用してやれば、騎体のエネルギー管理がもっと楽になる。
何より、魔獣を倒さなきゃ手に入らないし、魔獣の種類とか他にも色んな要素のせいで、どうしても魔力残量にバラつきが出る魔石を動力源にするより、ずっと魔力供給が安定するし、需要側と供給側の間にかかる無駄なコストも確実に減る。
更に言えば将来的には、貯蔵した魔力を一気に騎体へ供給してパワーアップする、なんていう一時的なブースト機能だって、工夫次第で付けられるかもしれないんだ。
うーん、たった一つの魔法効果合金から始まった発想で、どんどん楽しくなってきたっ!
けどこうなると、エンペリオンとセンチネリオンに使われてた動力源の研究が成果出るまでの繋ぎ扱いなのが、もったいなく感じるなぁ。
でもまぁ、今は仕方ないか。
藍華が仲間入りしてから決めた事だけど、騎体改良の最終型はそこが目標だからな。
ただし、エンペリオン系の機体が十五メートルクラスなのは、主に動力源のサイズが原因らしいし、その問題がどうなるか次第じゃ、 紋繰騎 の大型化も視野に入れとく必要はある。
そうなると、従来型の騎体にも十分需要はあるし、その場合はこの魔力貯蔵容器に関する研究と開発が、かなり役立つはずだ。
ついでに言えば、大型化した騎体だって動力源を一つに絞る必要はないんだし、予備とか補助で積んでおけば、いざという時にゃ助かる事間違いなしだ。
キコさんと魔法効果合金のおかけで、どんどん研究開発が面白くなってきてるし、魔力貯蔵の手段を整えたら、さっさと次の開発も進めよう!




