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魔法効果合金


 そりゃそうだ。


 個人情報の保護っつーか、どっちかってーと商売上の守秘義務が邪魔するよな。


 この世界にゃ多分だけど、特許とかそういう系の法律や制度がなさそうだし、何より地球とは違って魔法や魔力があるから、個人単位で造れる物の規模とか自由度が大きいみたいだからな。


 ……なら仕方ねぇ、今は頭を切り替えてオレ達の研究に集中しよう。



「ところでさ、キコさん。魔力路用の合金は魔力を通しやすいんだろうけど、逆に魔力を通さないような合金って造れるかな?」


「魔力を通さない合金かぇ。そりゃあ、有るには有るけどねぇ」


「有るけど?」



 ん、なんだろ?


 まるで苦虫でも噛み潰したみたいな顔してるけど、なんか嫌な思い出でもあるのか?



「……ちょいと昔にごくわずかな数、 紋繰騎(クレストレース)紋装殻(クレッシェル) と一緒に使われとったんだけど、あまりに高くつくもんだからすぐに廃れたんだよ」


「高くつくって、高価な素材を使うから?」


「それもそうだけど、依頼要求に対する効果があんまりにも悪かったからねぇ」



 依頼要求と、それに対する効果が悪い?


 この言葉からすると、その合金を造ったのはキコさんなんだろうけど、一体どんな依頼だったんだろうな?



「その合金の用途って何だったの?」


「使い(みち)自体はそう難しいもんじゃなくてねぇ、盾や外装の材料にしたかったらしいのさ……ただし、“あらゆる魔法を完全に防ぐ”なんて、馬鹿げた前置きが付いていたけどねぇ」



 な、なんつー無茶振りだ……。


 魔法によって、効果も範囲も威力も持続時間も全然違うのに、それを丸っと無視して全部防げだって?


 つか 紋繰騎(クレストレース)紋装殻(クレッシェル) は、 騎導紋(ガイスト) っていう魔法を主体に動作してるのに、外装をそんな合金で造ったりなんかしたら、それこそ何の意味もないただのガラクタになっちまうだろ。


 何考えてたんだ、そいつらは。



「とんでもなく馬鹿な連中だろう? 転換炉だって魔力と魔法で動いているというに、それを完全に防ぐ合金なんて、造れるわけがないのにねぇ」


「けどさ、キコさんはそれを造ったんだろ?」


「確かに造るには造ったけど、連中の求めた完全になんてのからは程遠い、要求未満の失敗作だったよ」


「失敗作って、そこまで酷い代物なの?」


「成分の九割が銀鉱石だから、外装や盾に使えるような硬さは無いし、そのくせ中途半端に依頼要求通りの性能なもんだから、魔力や魔法での強化も出来ない。そして何より、たった一回造るだけでも魔石を山ほど消費してしまう……これだけ悪い要素が揃えば、後は分かるだろう?」



 うわぁ、思った以上にコスパ劣悪だ。


 物理的な装甲性能はほぼゼロ、精製後の魔法的な改良も強化も受け付けない、それ以前に材料の価格が……。


 って、待てよ?



「銀鉱石はともかく魔石を大量に使うって、魔法を防ぐのにどうして……」


「そりゃあ簡単な理屈だよぉ。無属性の障壁魔法は知っとるかぇ? アレと同じ事を、合金化しただけさねぇ」


「あっ! そうかっ、無属性魔力の反発干渉効果! その性質を合金に持たせたんだ!」


「おぉっ、ちゃんと解っとるじゃないかぇ! 正解だよぉ、ユージどん!」



 弾んだ声でそう言って、さっきと一転してすっげぇ嬉しそうな顔したキコさんは、かつて取り組んでいたテーマをウキウキしながら語ってくれた。



 “魔法を使って精製される合金に、魔法と同じ効果を性能として持たせられるか?”



 このテーマを思い付いてから五十年近く、外から来る色んな依頼の合間を縫って、キコさんは様々な新合金を試作しては、記録したり世に発表したりしてたんだそうだ。


 で、研究し続けて解った事が幾つかあるんだと。



 基本的には、自然界に存在する物質と無属性魔力は、一番相性が良い。


 それ以外の属性は無属性魔力より一段劣るし、鉱石やその他の素材や魔力量に魔法の効果との組み合わせ次第では、更に相性が悪化する。


 ただし、合金に持たせた性質と同じ属性の魔法を後付けで使うと、合金の性能は変わらないけど、後付けした魔法の効果を向上させる場合がある。



 それらの事実を、長年研究して少しずつ解き明かしていったんだ。


 ちなみに、その複雑で難解だった組み合わせパズルが見事に解かれた今じゃ、色んな魔法効果合金が実用化されて普及してるんだとさ。


 流石はキコさん、流石は技術の研鑽を一切妥協しない長寿の魔人、ってわけだ。



「なるほどなぁ。つまり、キコさんがその依頼で造ったのは、合金内の無属性魔力の量を上限近くまで高めて、障壁魔法と同じ能力を再現してるって事か」


「ほっほっほっ! ちょっぴり教えただけで、そこまで狙いを読み取るとはねぇ!」


「いや、そんな大した事じゃないよ。ところでその合金ってさ、何か名前とかってあるの?」


「ん? 名前ねぇ……そいつら、確か公爵家の連中が勝手に付けとったけど……」


「なんだって!? ……公爵って、まさかフレメルト家なのかっ!?」



 おいおい。


 なんでここにきて急に、フレメルト家が出てくるんだよ。


 何の為にそんな合金を欲しがったのか知らねぇけど、ルカールの関係者が依頼主だとろくでもない用途にしか使われない、そんな変な確信が持てちまうぞ?



「おぉおぉ、そのフレメルト家だよぉ。馬鹿げた依頼を持ち込んでおいて、始める前に私が念押ししておいたのに、完成後にさんざん難癖つけてきたから、終いには生産ギルドを仕切っとる伯爵家を仲介に、けりをつけなくちゃならんかった」


「なんだよそれ。熟練の職人に無茶振り頼んどいて、思い通りにならなかったらガタガタ文句ぬかすって、最低最悪じゃん」


「そうだねぇ。ここだけの話だけども……その後すぐ、私に依頼を寄越した連中が根こそぎこの世から吹っ飛んだ、なんて聞いた時は人の不幸とはいえ、清々しく思ったくらいさ」



 あぁ、うん。


 心優しいキコさんがそこまで思うって事はきっと、その当時どんないちゃもん付けられたか全然知らないオレでも、相当酷かったんだろうなって予想出来るほど、胸くそ悪い状況だったんだな。


 けど、フレメルト家の連中が吹っ飛ぶ直前に、何でそんな妙な依頼を出したのか、そこがまた謎だな。


 でもまぁ今はとりあえず、キコさんが造った魔法効果合金についてもう少し話を聞こう。


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