転換炉の試運転
「さぁてと、それじゃあ引っ越して早々だけど、まずは転換炉の試運転から始めるかねぇ」
「オレも近くで見てて構わないかな?」
「そりゃあもちろんえぇよ。とは言っても、きちんと動くか確かめる為だから何も難しくはない、従来の鉱石と素材と魔添材を使った、魔力路向けの合金を造るんだけどねぇ」
魔導生物技術研究所に、キコさんが引っ越したその日。
荷物の整理もそこそこに、早速ここでの初仕事をするって動き始めた。
んで、移転後の工房製品第一号は、どうやら 紋繰騎 用部品に使う合金らしいな。
「へぇー! 紋繰騎 専用の合金製造かぁ、楽しみだなぁ!」
「ん? いやいやユージどん、魔力路向けの合金というのはねぇ、何も 紋繰騎 専用なだけじゃないんだよぉ」
「えっ? でも、魔力路って……」
「あぁ、そういえばユージどんは知らんかったかぇ。魔力路は 紋繰騎 だけでなく、魔導具の魔力供給にも使われるんだよぉ。魔導具を造れるお嬢ちゃんがおるし、今度もっと詳しく聞くとえぇよ」
……あー、言われてみりゃ当然か。
紋繰騎と魔導具は、どっちも魔力が動力源だ。
動作させる為には魔力を供給しなきゃいけないし、その通り道に使うならそれぞれ違う物を別々に造るより、どっちにも使える合金をまとめて用意する方が楽だよな。
地球の製品で例えるなら、よっぽど特殊な使い方じゃない限り、電気を通すだけなら銅線を使うようなもんか。
まぁそれはともかく、魔導具として造られた転換炉の動作が直接見られるのは、楽しみだ。
さて、一体どんな試運転になるのか――
「銅鉱石はたっぷり……銀鉱石を少々……結合材をちょいちょいと……魔添材をさらりと、な。ほい、下準備はおしまいだよぉ」
「ねぇキコさん。その鉱石とか素材の入れ物ってさ、もしかしてそれぞれの分量を計る為の物なの?」
「ほほっ! ユージどんはたった一目眺めただけで、私が何をしとるか解るんだねぇ」
「いやぁ……そりゃさ、目分量で造るわけじゃないって言ってたのに、計りもしないでいきなり転換炉に材料放り込んでたら、その前にあらかじめ計った物を入れてるんだろうな、って思ったんだ」
「そうだよぉ。この計量器を使えば楽に、微妙な加減の手前まで済むからねぇ。転換炉と一緒に売られとる、錬金師の頼もしい道具さ」
――なるほどな。
オレは転換炉を目にするまで、ファンタジー系の鍛治仕事はレンガ造りの炉でやるもんだろ、なんて思い込みがあった。
だから、材料になる鉱石を計ったりしないで、それこそ蒸気機関に放り込む石炭みたいにスコップでザクザク適当に突っ込んで、精錬の後は必要な分だけ製品に仕上げて、余った残りは次に持ち越し、って流れを想像してたんだ。
でもやっぱ、錬金師と転換炉は違う。
錬金師は、鍛治ってよりは化学者か料理人みたいな、丁寧な細やかさが求められる。
そして転換炉は、大量生産を前提に効率良く運用する為の、まるで工場で扱うみたいな使い方を、開発当初から組み込まれてる。
ホント、この魔導具を造った人物って、一体何者なんだろな?
「さぁさ、必要な加減も終わったよぉ。それじゃあ転換炉の試運転を、始めようかねぇ」
「おぉっ、いよいよか!」
「ほっほほっ。あんまり派手じゃあないけど、とくと楽しんでおくれ……いくよぉ!」
さてさて、それじゃオレもちょっと鑑定魔法で転換炉の動作を確認してみようっと!
(【鑑定】……な、なんだこりゃあ……!)
おいおい、この魔導具ってたった一つなのに、内部じゃとんでもない事やってるぞ!?
放り込んだ材料の種類を、何回か鑑定魔法をかけて調べたら……。
わ、解らねぇ!
今のは一体どんな工程なんだ!?
何かしらの魔法が使われたのまでは追えたけど、不純物をキレイに分離して分解する為の魔法も、要らない物が分解されてどうなったのかも、完全に謎だ。
比べるのも馬鹿らしいけど、地球の転換炉とは全然違うし、もしかして魔法があるファンタジー世界での錬金術ってやつに近いのか、これ?
……つか不純物を処理する魔法の実行式が、隠蔽魔法で隠されてた。
騎導紋の時と同じ、重要な核心技術には暗号鍵が必須な隠蔽魔法を使う手口って事は、こりゃいよいよ転換炉は 紋繰騎 を普及させる為の布石だった、って確証が掴めたな。
って、それより次の工程を……。
あぁ、ここからは火と風の魔法で金属を融点まで熱して……じ、重力制御かこれっ!?
どっからどう見ても、火と風の魔法の動きに逆らって、溶けた金属が炉のど真ん中に浮いてやがるっ!
くそぉ、また実行式に隠蔽魔法が仕込まれてるのか!
って、そうこうしてる内に氷の魔法で冷やされながら、風の魔法で大雑把に整形された金属が炉の底に落ちて、炉が自動的に回転したら……。
「ほいっ! これにて試運転はおしまい、特に問題なく魔力路向けの合金は完成さねぇ!」
「…………」
「おんや? どうかしたかぇ、ユージどん?」
「……あ、あぁ。実はさ、今の試運転を鑑定魔法で見てたんだけど……」
「ほっほっほっ! ……何やら魔法で見ても、わけの解らん事があったようだねぇ」
うん、まさにキコさんが言う通りだ。
次から次に、オレの常識をぶっ壊すような情報が流れてきてたけど、特に解らなかったのは二つ。
不純物処理用の魔法と、重力制御してるらしい魔法だ。
けど落ち着いて単純に考えたら、どっちも便利な魔法ってだけで、隠蔽魔法を使う意味がねぇ。
……いや、重力制御魔法に関してだけは、使い方次第で色々とヤバいから隠すってのは有りか。
やろうと思えば、大量に重量物を運ぶのだって、何なら空を飛ぶのだって、簡単に出来る。
例えば、沢山の紋繰騎や大勢の兵士を素早く移動させてどこかと戦争する、とかな。
でも、不純物処理用の魔法については、なんで隠さなきゃならないのか全然分からねぇ。
「ふぅむ……何を見たのか知らんけど、転換炉を詳しく調べたいんなら、生産ギルドに聞いてみりゃえぇんでないかぃ?」
「あ、そうか。こいつを売ってるのは生産ギルドだから、誰が造ったかも教えてもらえるかもしれないのか」
「流石にそこまでは、教えてくれんだろうよぉ」
「えっ、もしかしてなんかあるの?」
「生産ギルドは造る人間の登録と管理に、造られた物や道具の販売や流通をやっとるけど、私もそうだが登録されとるギルド員の情報は、きちんと保護されとるからねぇ」




