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錬金師工房の引っ越し


「はい、オーライ! オーライ! オーラーイ……ストーップ!! よしっ、固定してくれ!」


「おぉ、かなり重い転換炉まで、あっという間に据え付けられとる……ほんに、魔導生物というもんは何度見てもたまげたもんだわぇ」


「引っ越し急かしちゃってごめん、キコさん」



 藍華と馬車の中で転換炉と士導院(しどういん)の関係について話し合ったその翌日から、オレ達は急ピッチで工房の引っ越し作業を始めた。


 手順はキコさんにも説明した通り、スライムで埋め尽くした地下空間から、魔導具とか鉱石とか素材や、その他にも家具とか梱包した荷物なんかを全部、一つずつ丁寧に運び出して大型運搬台車に積む、これの繰り返しだ。


 キツい力仕事はスライム任せ、スライムの制御は藍華が担当、生身の人間の手が加わるのは台車に載せた後とか、今みたいに決められた位置に下ろされた物を固定するとこだけ、ってな分業体制だから引っ越しがすげぇ捗った。



 んでまぁ、ちょいとした見落としから始まった事なんだけど、キコさんの新しい工房は地上に建築した。


 アリス達に聞くのも考えるのも忘れてたけど、錬金師の工房が丸々一つ納まるような広い地下空間なんて、魔導生物技術研究所には無かったからだ。


 それに気付いたのは、もう領都を出発してティトールに着く直前、しかもそこで問題がもう一つ出た。


 研究所には地下空間どころか、デカくて多い荷物を納められるような、物置部屋も無かったんだ。


 ところがだ、喜んで協力してくれるキコさんの荷物とか大事な仕事道具を、野ざらしにするわけにゃいかないってんで、さてどうするかってみんなで頭を抱えそうになったその時、藍華がサラッと解決策を口にした。



“魔導生物を使って研究所を拡張すればいい”、ってな。



 あんまりにもあっさりした口調で言うもんだから、一瞬みんなポカーンとしちまったよ。


 でも詳しく聞けば、なるほど良く思い付いたなって感心した。



 魔導生物には、二つの分類がある。


 一つは、無機物的でスタンドアローン(独立)動作させる、リビングオブジェクト系。


 もう一つは、有機生命体的でエンペリオンとかセンチネリオンに搭載されたコアとの連携を目的に動作する、フェイクライブズ系。


 この二つの内、リビングオブジェクト系の魔導生物の実行式を建材に付与して、ただの物置じゃなく本格的な工房を建てる事になったんだ。


 具体例っつーか建築実績は、古代魔導文明時代に藍華が散々積み重ねてきたんだと。


 本人曰く、自動開閉機能付きの門やドアに天井や窓や橋、エスカレーターにエレベーターに昇降用のリフトやフロア。


 釣り天井に落とし穴、壁に隠された秘密のドアに隠し階段。


 果ては災害救援用にって、簡易的な居住施設も各種サイズを取り揃えてたらしい。



 なもんで、オレ達専属の連絡要員になったフィラードさんの初仕事には悪いと思ったけど、大急ぎでティトールに先行してもらって、街にある建築専門の商会とか工房で指定したサイズや種類の建材を爆買い。


 そうして集まった材料を、藍華が提示した規格に沿った形に魔法とスライムを使ってサクサク加工したら、パッパと組み立て。


 後は魔晶を使った魔力供給機能――って言うとカッコいいけど、その正体は単なる魔晶とスライムと砥石の三点セット、こいつも早いとこ何とかしなきゃならない――を、各魔導生物と工房内での動力源として組み込んだらおしまい。


 この世界の技術レベルからすれば恐ろしいほど素早く、研究所併設の魔導生物プレハブ工房が完成した。


 あ、ちなみに魔導生物技術研究所は自爆機能付き結界があるせいで街の外、それもそこそこ離れた所に建ってるから、錬金師の工房に定められた地下に全部納めろってルールは適用外だ。


 キコさんにはしばらく使ってもらって、それでもどうしても地下がいいって言われたら、真下に空間を設けてプレハブ工房ごと昇降させる予定、なんて秘密基地的なノリで藍華とオレはこっそり合意した。


 まぁ、そんなドタバタはあったけど、とりあえず以上の体裁は今ここに整ったわけだ。



「そんな事は気にせんでえぇよ、ユージどん。おんしの話がなけりゃ、私一人が錬金師を辞めたところで、結局はほんのちょっぴり時間稼ぎが出来ただけだろうからねぇ」


「そっか、分かったよ。……でもさ、“錬金師の職を引退する”なんて大っぴらに宣言して、ホントに良かったのかな?」


「あぁ、それねぇ。ユージどんはまだこの世界に来て間もないけど、権力を握っとるもん……特に王家というのは、油断ならない連中だからだよ。どこで誰がこちらをこっそり見聞きしとるか判りゃしないなんて、気味が悪いったらないわぇ」



 そうそう、実はキコさんがアールさんに工房移転の挨拶に行った時、オレが遅れて顔出したらもう、そういう流れでキコさんの今後の動向を発表するって、全部決まった後だった。


 所属してる生産ギルドの登録は一応残すけど、これからはどこからも依頼を一切受けないし、領都からも引っ越して、表舞台からは完全に降りる。


 そういう通達を生産ギルドと、その元締めをしてるウィンズビル伯爵家――アールさんは、ウィンズビル家へ協力を要請する時には裏話もきちんと伝える、って言ってた――の両方へ、正式に出すそうだ。


 んでまぁ、そうする理由は今キコさんが言った通りで、オレ達っつーかラクスター家を潰したがってる王家、その監視の目を欺くのが目的らしい。


 オレ個人としてはついさっきまで、見ず知らずな他人の目が届かない魔導生物技術研究所っていう、全員が身内の少数精鋭チームに加わるんだし何もそこまでしなくてもいいのに、なんて気楽に思ってたんだ。


 けど、錬金師として長年頑張ってきたキコさんがそこまでするって事は、多分だけど過去に何か権力者絡みで嫌な事があったせいで、そんなに警戒してるんだろうな。


 ……しかも、わざわざ王家を名指しするのは、もしかしたらキコさん本人も気付かない内に人工神化計画の候補にされてた、とかなのかもしれない。


 会って話して間もないオレにも、こんなに心配してあれこれ気遣ったり、領都で生活に苦しんでる他の若い錬金師達の将来を想って、自分から引退しようとまで考えた優しいキコさんを、だ。


 実際の真相は、ルカールの野郎しか分からねぇけどさ。


 でもこうして無事に、キコさんはオレ達の仲間入りしてくれたからな。


 お互いに出来る限り力を尽くして、最高の成果と最良の未来を必ず手に入れるんだ!



「ユージどん、改めてこれからよろしくねぇ」


「うん、こっちこそよろしくっ!」


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