転換炉と士導院の関係
「おかえり、ゆう君。どう、錬金師さんは味方になってくれた?」
「藍華お前、皇女時代に地球の情報元ネタにして、何をどんだけ造ったんだよ」
「急にどうしたのよ。何か見つけた?」
「錬金師の工房で、この世界の技術レベル的にあり得ない物が、魔導具として普通に使われてたんだよ」
「え、その魔導具ってもしかして、また私の作品なの?」
キコさんを連れて、アールさん達の住むラクスター家の本邸に戻ったオレは、アールさんに挨拶しに行くキコさんと爺さんから一旦離れて、アリス達の馬車に隠れてる藍華に会いに行った。
その理由はもちろん、こいつが造ったかアイディアの元ネタを提供して産み出されたかもしれない、あの転換炉とか他にも色んな魔導具について、アレコレ問い質す為だ。
ちなみに、本邸に来る途中の雑談でキコさんと爺さんに聞いた限りじゃ、いつの時代に錬金師とか転換炉が登場したかは分からないけど、最低でも百五十年以上前から在るらしい。
まぁ、キコさんはそういう技術の歴史よりも、転換炉で精錬出来る合金に使える、鉱石と素材の組み合わせの方にすっげぇ強い興味を持ってたから、昔話にはあんまり詳しくなかったけどさ。
それと、キコさんほどじゃなくても長生きの爺さんでも、流石に完全な畑違いになる錬金師の歴史は知らなかった。
それでもここ最近の最新技術、ってわけじゃないのは確実だ。
そして藍華は過去に、宝石とか魔晶を 水流成形加工 する為の、水刃の魔導具を造ってたのにど忘れしてた、って前歴がある。
だから、転換炉とかその他の魔導具だって大昔に開発して普及させたけど、また忘れてるかもしれないって思ったわけだ。
「ふーん……だから私に聞いたのね。それで、一体何が有ったの?」
「転炉だ」
「てん、ろ? 何それ?」
えっ、転炉を知らないのか?
おいおい、とぼけてるんじゃないよな?
……でもなぁ、前に機械は苦手って言ってたし、何より藍華は状態異常を魔法で治すまで、戦う為だけの奴隷にされて別な人格に操られてたんだ。
なら、ちょっと聞き方を変えてみるか。
「正式名称は転換炉、別名ベッセマー転炉。地球じゃ鉄とか銅とか、金属を精錬する為に使われる専用炉だ。何か覚えはないか?」
「うーん……」
無理やり聞き出すよりヒントを与えて、思い当たる事を記憶から引き出した方が、より鮮明に思い出せるかもしれない。
っつっても、転炉って聞いたのに首傾げてたし、もしかしたら何も覚えてないのかもな。
というか記憶って話なら、肉体が無い藍華の場合だとエンペリオンコアの記録に依存してるのかもしれないし、そっちにデータがなきゃ思い出すも何もねぇんだろうけどさ。
「今んとこそんなの造ったり思い付くのは、オレかお前か初代ラクスター侯爵だけだろ。他にも過去に誰かが地球から、転移したり転生してたのかもしれないけど、そっちは気にするだけ無駄っつーか、今の状況にゃ関係ないからな」
「初代さんの作品、って筋はないの?」
「うーん、それもあり得なくはないけど、過去の功績とはいまいち結び付かないんだよな」
そう、初代ラクスター侯爵はオレ達と同じ地球出身だけど、それでも転換炉とは結び付かないんだ。
初代さんが侯爵の地位まで上り詰めた功績は、前世の知識を活かした数多くの便利な魔導具の開発と普及に、ラクスター領西部にあった森林地帯の大開拓、そしてそれに伴う大規模な魔獣討伐だ。
それなら開発して普及させた魔導具の中に、転換炉も含まれてたんじゃないか、普通はそう思うだろ?
けどアレは、転換炉は“便利な魔導具”とはちょっと違う。
確かに 紋繰騎 用の部品とか、他にも色んな道具に使われるのに必要な合金を造るには、便利かもしれない。
でもそれは例えばキコさんとかみたいな、きちんとした技術と経験と知識を身に付けた錬金師とセットで運用されて、初めて便利になるんだ。
逆に言えば、開発したばかりの転換炉単体で、効率的に運用する知識も経験も技術も無い状態だと、ただ扱いが面倒なデカい道具に過ぎない。
それに、もし初代さんが開発して普及させていたとしたら、なんで“世界中で普及している、 紋繰騎 に必須な合金を精練出来る魔導具の権利を、わざわざ手放したのか?”ってとこに謎が生まれる。
初代さんの生きてた時代には、既に 紋繰騎 は有ったんだ。
森林地帯の大開拓とか、大規模な魔獣討伐をやってる時に、 紋繰騎 用部品を量産するのに使える転換炉なんて開発してたら、絶対に権利を手放したりなんかしないだろ。
「な? 実際にあった事と照らし合わせたら、おかしいだろ?」
「でも権利を手放した理由は、当時も今のラクスター家と同じ状況だったなら、説明つかないかしら?」
「いや、それには 紋繰騎 関連限定だけど、各国のトップを飛び越えられる影響力を持つ、士導院の存在は無視でき……」
ちょっと待てよ……士導院が転換炉を開発して普及させた、ならあり得るのか。
紋繰騎は、四~五メートルの高さになる全身がほぼ金属製で、一騎造るのに文字通り山ほど金属が必要だ。
そんな代物を、鍛治師がわざわざ金属精錬から手作りなんてしてたら、今の時代にここまで普及してるはずがねぇ。
けど転換炉を、紋繰騎の量産と普及の為に用意した布石の一つとして捉えたら、納得がいく。
「急に黙っちゃって、どうしたの?」
「……“ 紋繰騎 を世界中に普及させる為に、合金を大量生産可能な転換炉を、士導院が開発した”。これなら筋が通る話だって、そう思ったんだ」
「まさか、その士導院に転移者か転生者が居た、ってこと?」
「そいつはどうだかな。つかむしろこれも、藍華に関わりがある事かもしれないぜ」
「えぇっ!? それこそまさかでしょ!?」
さてなぁ、こいつ自身がまだ話す気になれないらしいから、根掘り葉掘り聞くのは待ったをかけちゃいるけどさ。
アールさんから、士導院の本部が在るっていうロカビリン大王国の国名を聞いた藍華は、かなり様子が変だったんだ。
紋繰騎の大元になったエンペリオンかセンチネリオンの残骸が有って、士導院の本部もその国に在る。
紋繰騎を最初に造った製作者にしたって、なんで“魔王の残骸を解析してマッスルメタルを造ったのか”は謎のまんまだしな。
だけどここまでヒントが転がってたら、根っこが全部士導院に続いてるってのは、流石に気付く。
ま、それはまたロカビリン大王国に行ってからの話だな。
「それより藍華、今は引っ越しの準備だ」
「えっ、引っ越し?」




