錬金師の想い
で、オレの素性とか今まであった事とか、ラクスター家や領内での出来事なんかを、それこそ余すところなく全て伝えたんだけど――
「はぇ……ま、まさかそんな凄まじい話とは……」
「既にユージと組んどる、そんなワシが言うのもなんだがな。ここまで洗いざらい全てを聞いておいて、後は若い錬金師に任せて自分だけ引っ込む……そんな事が果たして、お前さんに出来るのか?」
「おっ、おんしという男はっ! ぜぇんぶ知っておったのに、わざと黙っておったんかぇ!」
「人聞きの悪い事を言うな。それに、どうにもこうにも仕方なかろう。ユージはお前さんに直接会って、話したがっとったからな。なら、最初から全て拒否するか、全てを聞いてしまうか、どちらかしかないわぃ」
「そりゃ確かにそうするしかないわぇっ! でもってここまで聞いたらもぉ後には退けんわっ!!」
――うぉ、なんか全部話したら放心してたのに、今度は爺さんと言い争い始めちまったぞ。
「えーと、キコさん。その、もし嫌だったら……」
「あぁ、勘違いせんでおくれ、ユージどん。私は嫌だとかそういう、感情で物申しとるわけではない。いいや、むしろ感情に任せるならば、好く思っておるよぉ」
「え、それじゃ……」
「まぁ、慌てなさんな。ここまで聞いたらもう後には退けんというのはねぇ、嬉しいからなのさ」
「嬉しい、って……」
おぉ、なんだなんだ?
急に大きく見開いた目をキラキラ輝かせて、多分喜んでるんだろうけど、一体何がそんなにキコさんの琴線に触れてるんだ?
「私はもぉかれこれ、百年以上も錬金師をしとるからねぇ。今時の必要な合金も、そうでない物も、あるいはもっと昔に必要とされなくなった物も、ありとあらゆる鉱石と素材の組み合わせを知っている……」
「……長年の経験で得た膨大な知識、か」
「そう……だがいくら多くとも、この世に在る鉱石も素材も、数に限りが有るからねぇ。……もうこの長い旅路の先に、新たな道は無い……今の今まで、そう思っていたんだよぉ」
「………………」
「分かるかぃ、ユージどん。これまで積み上げた知識が通用しない、そんな素晴らしい道が見えた瞬間を」
あぁ、そうか。
若い錬金師に仕事を譲る、それはキコさんにとっては本心の一部でしかなかったんだ。
そしてそれ以外のいくらか、もしかしたら結構大きい割合かもしれないけど、その正体は一つの道を極めた末に至る、いわゆる頂点に立った求道者の虚無感ってやつなんだな。
オレ自身がそういう感覚を聞きかじった程度しか知らなくて、すっげぇ申し訳なさが強いけど。
「おんしらには感謝しとるよぉ。おかげで私はもう一度、この道を楽しんで歩いてゆける」
「そうか。そう言われれば、話を寄越したワシらも嬉しいわぃ」
「引きずり込み方がエグかったのは、ユージどんに免じて飲み込むとしようかねぇ」
「わ、悪かったよ。キコさん、ごめん」
「ふはっ! なぁに謝っとるかねぇ! こういう時はねぇ、ユージどん……男としての、責任を取りゃあえぇ」
うっ……!
なんだよ、そのうっとりした表情はっ!
口調は変わらず年寄りっぽいのに、若い女の人の外見してるせいで、背筋に悪寒が走るくらいの妖艶さがあって、むしろ恐ろしく感じるよっ!!
やっべ……もしかしてオレ達、とんでもない人を引っ張りこんじまったのかも……。
「とっ、とりあえずっ! オレ達に協力してくれる、それでいいんだよねっ、キコさん!」
「そりゃあもちろん、喜んで手を貸すよぉ。しかしそうなると、今度はユージどん達との距離が問題になるねぇ」
「距離?」
「さっきも言ったろうが。ワシらはこれから魔導生物技術研究所へ戻るんだろ、なら領都と研究所のあるティトールの街とは距離が遠すぎる。キコには、引っ越してもらわにゃならん」
「まぁ、そうなるねぇ」
あぁ、そうだよなぁ。
これからキコさんにはオレ達の要求に応じて、色んな合金を精製してもらわないといけない。
そうすると、わざわざ連絡とか運搬の為にティトールと領都を行ったり来たりするのは、効率最悪だ。
だったら最初の手間はかかっても、こっちに引っ越してもらう方がいいか。
それにこの工房の引っ越しで結果的には、今まで領都でキコさんが請け負ってた仕事が他の錬金師に回って、その分の時間的猶予も作れるからな。
なら後は、オレ達の研究が単なる延命策にならないように、きっちり成果を上げて錬金師の技術的発展に繋げるだけだ!
「んじゃあ早速、これからキコさんにはアールさんとこへ一緒に行ってもらって、工房の移転を伝えようか」
「はぇっ!? もしやユージどん、今からすぐに引っ越しを進めるつもりかぇ?」
「そうだけど、なんかマズい?」
「いやいや、早く動くのはもちろんいいけれど、転換炉だって他の魔導具だって、大きくて重い物が多いんだよぉ。一度分解して外に運び出すだけで……」
「あ、それなら大丈夫だよ。魔導生物を使えば、重さも大きさも問題ないからさ」
引っ越しの手順はこうだ。
まず、一度全員地上に出てから、地下全体をスライムで埋め尽くしたら階段や扉を撤去して、必要な物を一つずつ順番に外まで運び出す。
全部外に運び出したら、撤去した物を元通りに戻す。
移動に必要な大型運搬台車は、アールさんとこから借りて、輸送にはまたスライムを使えばいい。
魔導生物技術研究所に到着したら、今度は同じ方法で運び入れればよし。
これで万事オーケー、また一つ 紋繰騎 の改良とか魔導具の開発に必要な条件が整うわけだ。
「……って感じで進めるから、大事な魔導具も鉱石も素材も他の荷物も全部、無傷で素早く運び出せるよ。さ、アールさんに話を通しに行こう」
「はぇぇ……たまげたもんだわぇ」
「おう、ワシもそりゃ驚いたわぃ。ユージの住んどった異世界ってぇのは、凄まじい所だな」
「いや、オレと藍華が居たとこじゃ、魔法とか魔導生物なんて空想、娯楽で読むような物語の中にしか存在しなかったんだ。ただまぁその娯楽は大量に溢れかえってたから、発想だけなら種類は豊富なんだよ。例えば……」
そんな雑談をしながら、オレ達はアールさんの居る領主邸に向かった。
時間は有り余ってるわけじゃないし、さっさとやらなきゃならない事を終わらせて、本格的に動き出そう!




