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錬金師と工房の実態


「私の工房へようこそ、ユージどん」


「はー……これが錬金師の工房か」


「おんや、ユージどんは錬金師の工房を見るのは初めてかぇ」


「うん、見るのも来るのも初めてだよ」


「そうかぇ、そんならあんまりあちこち触ったら危ないから、気ぃ付けるんだよぉ」



 敷地内の小屋にある階段から降りた地下、そこには表と全然違う景色が広がってた。


 広い天井も壁も床も全部頑丈な石造りで、補強には主に木材じゃなく鉄骨が使われてる。


 なんで鉄骨補強って解ったかっていうと、地球でもよく有るL字とかH字の形だったからだ。


 肉抜きされた軽量型じゃないのは多分、鍛治師の手作りだからだろうな。


 それがパッと見で分かる程度には、ハンマーで叩いて加工した痕が残ってる無骨な造りだし、ボルトやナットじゃなくリベット留めなのが、より一層それらしい雰囲気にさせてる。



 でもそんな事よりもっと目を奪われたのが、錬金師が使う金属精練用らしい、炉の存在だ。


 これ、サイズは小さめで知らない部品が幾つもくっ付いてるけど、どっからどう見たって“転炉”じゃねぇか。


 ファンタジー系の異世界での鍛治って言えば、レンガ造りの炉を使うはずだろ。


 ……まぁ、その知識っつーかネタ元はラノベだし、確実で正確な情報ってわけじゃないけどさ。


 けどそれにしたって、金属精練の技術的歴史からすれば、間にある幾つかの重要なポイントを完全にすっ飛ばした代物なのは、間違いない。


 オレだって地球に居た頃は、ロボット製作の過程で素材が気になったからって理由で、多少は調べて知ってるおかげではっきり言えるくらい、この転炉は異常な存在だ。



「ねぇキコさん、この……」


「あぁ、これかい? こいつは転換炉と言ってねぇ。買ってきた鉱石と、魔獣の素材から造った魔添材(まてんざい)だとか、それ以外の素材なんかを、適量放り込んで動かしてやれば、 紋繰騎(クレストレース) 用の部品や他にも色んな用途に適した合金を精製してくれる、ちょいとお高い魔導具だよ」



 な、名前の意味すら同じなのかよ……。


 ただし、用途っつーか金属精練のプロセスがおかしいけど、そこはまぁ魔法とか魔力がある世界だし、とりあえずは無視するとしてだ。


 今キコさんは確かに、“合金”って言ってた。


 もうホント何度目か分からねぇけど、異常だろ!


 製鉄……いや、鉄だけじゃなく金属全般の加工や精練の技術的な積み重ねとか歴史とか、どんだけあれやこれやと無かった事にしてんだよ!


 ったく……でもまぁ、一体全体どの時代に誰がどうやってこんな技術を生み出したのか、なんて愚問を考える必要はねぇ。


 こいつを造ったか、でなきゃアイディアの元になったのは、藍華か初代ラクスター侯爵のどっちかだ。


 初代さんはもうこの世にいないから諦めるとして、帰ったら藍華を小一時間くらい問い詰めないとな。


 結果的には、この時代の鍛治師とか、他にも精練された金属を使う仕事だとか、もっと言えばオレだって楽が出来て助かってるけどさ。


 でも、それとこれとは話が別だ。


 あぁ、爺さんがオレの様子から、なんかしら察したらしいな。


 そうだよ、多分爺さんが予想してる通りだ。



「はぁ……キコさん、この転換炉って使い方は難しいのかな?」


「うーん……扱いに慣れた錬金師にとっては、難しくもなんともないんだけどねぇ。鉱石やら魔添材(まてんざい)やら素材を適量放り込んで、と言ったろう?」


「その適量って、もしかして目分量とか?」


「そんな事はないよぉ。ただし、鉱石と素材の組み合わせは膨大だし、魔添材(まてんざい)の配合量はより高品質な合金を精製するには、微妙な加減が物を言うからねぇ。そこそこ長い年月と数多の経験に知識が、錬金師には必要不可欠なんだよぉ」


「そこんとこ、キコはまさに熟練そのものでな。ワシはこいつが依頼要求を外したとこなんて、出会ってこのかた一度たりとも見ていないぞ」



 うわぁ……転換炉自体はこの世界の技術レベル的にはかなり高度だけど、意外な部分でファジィっつーかアナログ感覚なのか。


 まぁそこら辺は、地球でも未だに熟練技術者の叩き出す精密度には機械加工じゃ敵わないって話と、どっこいどっこいだけどさ。



「そりゃあもう、かれこれ百年以上はずうっとこいつと、ここで向き合ってるからねぇ」


「ひゃ、百年以上だってっ!?」


「おぉ、そういえばユージにはキコをちゃんと紹介しとらんかったか。こいつはな、樹木の精霊と人間との間に産まれた、いわゆる魔人だ」



 魔人……この世界に来て初めて面と向かって知り合った、純粋な人間以外の種族か。


 あ、久しぶりに脳内メモが仕事してるな。


 魔人の特徴は長寿命で、大体平均五百年前後は生きるらしい。


 その性格とか気性は、父親か母親になる精霊のそれを基本に、大なり小なり個人差が出る。


 寿命が長い特性のせいか、何らかの技術的な経験を研鑽する者は、他種族の追随を許さないレベルまで到達したがる、か。


 腰を据えてじっくり取り組む系の頑固なベテラン技術者が、恐ろしく長生きする種族になったみたいな印象だ。



「百二十年くらいは生きてるけれど、母上や一族のもんからは、まだまだ若造と言われるけれどねぇ。改めてよろしく頼むよぉ、ユージどん」


「いや、そんだけ生きてて知識と経験があるんだから、むしろキコさんによろしくお願いしたいのは、こっちの方だよっ!」



 すげぇ……百年以上の技術的な経験って、そんじょそこらの錬金師を紹介してもらうより、よっぽど今後の研究と改良に必須だろ!



「さっきも言ったけれどもねぇ、私は若いもんに仕事を譲りたいんだよぉ。このラクスター領内で頑張っていたけれど、どうしても食うや食わずな生活になって、仕方なしに他所へ移り住んでいった若いもん達を、幾人も見たからねぇ」


「そういう人達に新しく仕事を用意するにしても、今のオレ達だってまだ研究を始めたばっかりでさ。錬金師の知識と経験は、有れば有るほどありがたい状況だし、それに見合う話なんだ」


「そうかぇ……そんならまずは、ユージどんの言う話を詳しく聞かせておくれ。くれぐれも、決めるのは全て聞いてから、だよぉ」



 よしっ、取っ掛かりは掴めた!


 それじゃキコさんが望む通り、最初から今の今までの全てを話そう!


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