決着
紋繰騎の外見はどれも大体高さ4~5メートル、デカいせいで加工が面倒なのか、直線的な形状が多い西洋鎧の姿だ。
中はちゃんと見てないからはっきりしないけど、肩の辺りに空洞を設けて、そこに騎装士の腕を通してるらしいな。
で、頭部のすぐ下に騎装士の頭を、胴体部に残りの全身を納めるからやや幅広な胴長、だからバランス取る為に腕部と脚部も長めの造り。
もう決闘で負けて出てきた奴らを見る限り、胴体より下に騎装士の身体が入ってる物は無かったし、間違いないはずだ。
でもそうするとスペースとか配置的に謎なのが動力源なんだけど、こいつら動いてる時に金属が擦れたり軋む音しかしてないし、エンジンみたいな動く出力機関とは違うんだろうなぁ。
「くそっ! くそぅっ! どこだ、どこに居るっ!」
「しっかし、こうやって動いてるの見てると、操縦系統が一番わけ分かんねぇよ。どう考えてもマスタースレイブ方式にゃスペース足らねぇのに、騎装士の動きのトレースは結構忠実だし、これもやっぱ魔法の仕業か?」
「おーい兄さん。そろそろ日が暮れるし、いい加減かわいそうだし、とどめ刺してやれー」
おっと、決闘より観察してる時間が長くなっちまってたか。
確かに衛兵さんが言う通り、かわいそうなくらい取り乱してるし、そろそろとどめと――
「くそっ! 魔力切れだとっ!?」
「えー……そりゃねぇだろ」
――結構燃費悪いのか、余計な動きが多すぎたのか、急に動きが止まった紋繰騎から、クソ野郎が胸部ハッチ跳ね上げて、転がり出てきちまった。
「はぁ、最後が締まらねぇな。どうするクソ野郎、そのまま続けるか?」
「当たり前だ! 負けたわけでもないのに、このまま終われるかぁ!」
いや、お前が出した決闘の条件は紋繰騎戦だから、魔力切れの時点で負け確定だぞ。
でもまぁ、これ以上壊すのは嫌だし、一騎くらいはほぼ無傷で確保ってのもいいな。
「んじゃ、続行。でもって……おらぁっ!」
「ぎゃーっ!」
そんなボサッと立ってるなら、がら空きの尻にケツバットかましてやるよ、お仕置きにゃ丁度いいだろ。
「そぉれもう一発ぅ!」
「あぎゃぁっ! まっ待て……もうやめ……」
「ならこれで、ラストッ!!」
「ひぎぃっ!!」
鉄棒使ってるからちゃんと手加減してひっぱたいてたけど、もう抵抗する意志もポッキリ折れたみたいだし、おしまいにしようっと。
「もう決闘は兄さんの勝ちで終わってるけど、仕置きもおしまいでいいか?」
「うん、こんなくだらねぇ決闘騒ぎで、わざわざ審判役やってくれてありがと、衛兵さん」
「なぁに、こんな凄い戦闘を間近で見られたんだ、楽しかったから気にするな」
あー、目の前の衛兵さんだけじゃなく見てたみんな、いかにも痛そうに自分の尻押さえてるなぁ。
それでもちゃんとクソ野郎一味を全員捕らえてる辺り、職務に忠実なんだな。
「いよぉ爺さん、待たせたな。さっさとあんたの孫を助けようぜ」
「なんだ、紋繰騎はそのままでいいのか?」
「そっちに早くかかりたいから、先に済ませるんだ。さ、案内してくれ、って……」
あん? なんか所属不明な紋繰騎が一騎、ダッシュで近付いてくるけど、なんなんだ?
「おーいっユージ! 助けに来たわよー、って何これどうしたの?」
「あっ! ミトリエてめぇこの野郎! 連れてかれたと思ったら、なんで一人だけ紋繰騎に乗ってやがんだよ!! 羨ましいぞっ!!」
ちくしょうこの野郎、どさくさにまぎれて衛兵さん達から借りてきやがったのか!
「なんでって、だから助けに……」
「だったらお前、オレ達運べや!」
「えぇっ!? 決闘は!?」
「オレの勝ちでとっくに終わってんだよ、この後用事済ませに行くからとにかく運べ」
「もー、五人も相手に決闘って詰所で聞いて大慌てで来たのに、人使い荒いし理不尽だわー」
だって、走って行ったら時間かかりそうだし、ほぼ無傷な一騎はあるけど操作が分からねぇしな。
ということで消去法の結果、やること無くてヒマなミトリエを足代わりにする。
「それより慌てて来たって言ったけど、そもそもなんでこんな時間かかったんだ?」
「あたしは見ての通り小柄だもの、内装調整に手間取ったのよ」
へぇ、インガルまでの道中でミトリエが騎装士なのは聞いてたし、見た目チビッ子なこいつがどうやって乗るのか気になってたけど、ある程度は調整して体格に合わせられるのか。
「ところでユージ、用事ってなに?」
「この爺さんの孫が隷属の呪いかけられてるから、解呪しに行くんだ」
「わかったわ、急ぎましょ」
おぉ、気持ちの切り替え早いな、ホント今回の件は重大な問題なんだろうけど、解決出来て良かったぜ。
「おぉーっ! 巨人に肩車してもらうのってこんな感じか! いい景色だなっ!」
「さっきまで五騎もの紋繰騎相手に大暴れしとったのに、そうしてはしゃいどる姿は、まるで夢物語のように思えるわい」
「ならその夢物語の続きに、あんたの孫もご招待だ。そういや爺さん、名前は?」
「ワシの名はゴロンゴ、だが見ての通り老いぼれだからな、爺さんで構わんさ」
「そっか、オレは勇司ってんだ。悪いけどこの後の修理はよろしく頼むぜ」
何はともあれ、これで念願の異世界製パワードスーツ、紋繰騎ゲットだぜっ!!
ついでなんて言っちゃ悪いけど、製造と整備の担当とも縁が出来たのは嬉しい誤算だな。
「ねぇ、確かにたくさん倒れてたけど、一人で全部やっつけちゃったのっ?」
「いや、一騎目は反則負けで三騎は倒したけど、親玉は魔力切れである意味不戦敗だ」
「その一騎目だけでも、投げ飛ばしたなどとんでもないわい! お嬢ちゃん、信じられるか?」
「はぁっ!? 紋繰騎を生身で投げ飛ばしたっ!? どうやって!?」
おいこら落ち着け、こっちは頭部に近い分、大声出されるとツラいんだぞ。
でもこの拡声機能一つとっても実際に目の前で味わうと気になって仕方ねぇし、この際だから爺さんの弟子になるつもりで詳しく教えてもらうのが面白そうだ。
おっと、気を抜くと思考が紋繰騎一色になりそうだけど、間違いはちゃんと訂正しとかないと後で面倒の種になるから、注意しないとな。
「いやいや、ありゃ投げ技じゃねぇよ。相手がバカ正直に突っ込んできたから、その勢い利用した突き飛ばしでひっくり返しただけだ」
「むしろそっちの方が意味わかんないわよ! 普通は走って向かってくる紋繰騎なんて、避けて当たり前なの! そこからどうやって、投げ飛ばしたり突き飛ばしたり出来るのよぉ!」
「それが避けるどころか、逆に自分から懐に飛び込みおったからな、凄まじいもんだ」
「……ユージって、頭おかしいの?」
「最初の一騎もそうだが、その後の三騎とも一方的に蹂躙しとったし、むしろワシの頭がおかしくなったかと思ったわい! ぶわっはっはっ!」
なんて楽しそうに笑ってるけど、頭おかしい扱いはともかく造る側としてこの決闘をじっくり見てもらったからには、今後の仕事に大いに期待しよう。
んで、爺さんと一緒にもっと強くていい紋繰騎も造るぜ!