新たな問題とその解決策 その3
土産……手土産かぁ。
ナーキスでも似たような事で悩んだけど、あの時は手土産じゃなくてオレ個人からみんなへの、世話になってるお礼としてのプレゼントだった。
けどそれは参考にならねぇっつーか、むしろ参考にしちゃダメだろうな。
まず、今回は個人の間柄じゃなく家同士、そして一般人でもなく貴族同士の絡みだ。
次に、お互い派閥が全然違う貴族で、しかもお願いするラクスター家の方が爵位は上。
なのに、ずっと前からルカールのクソ野郎が暗躍してるせいで、勢力としてはこっちが弱小。
更に言えば、公式にはラクスター家は悪い意味で王家に目を付けられてる。
さて、こんな状況でいくら家同士の仲が良くても大々的に協力し合えるか、ってのはオレには分からねぇ。
現代の日本で例えるなら、企業同士の業務提携とか共同経営とか……。
いや、なんか違うな。
そもそも貴族の事なんて学校で習ったくらいの、豆知識レベルでしか知らねぇからなぁ。
だから、って言ったら言い訳にしかならないけど、こっちの世界じゃ一番付き合いが長くて深いラクスター家の事だって、ほとんど知らない。
つか、知らないって言ったら――
「そういやハウザーさんはさ、ウィンズビル伯爵家の事って、どこまで知ってるの?」
「どこまで、ですか……そうですな、執事として旦那様やアリスティアお嬢様の補佐に過不足ない程度には、存じておりますよ」
(まぁ、そうだよな)
――ラクスター家以前に、オレってウィンズビル家の事は全く無知だった。
家名と爵位、領地の大雑把な位置と範囲、クーブリック王国の食糧庫っていう第一印象。
この程度の情報じゃあ知ってる内に入らねぇし、そこから踏み込んだネタになるラクスター家との血縁関係なんて、初対面の人間が好き勝手に喋ってもいいような軽い話じゃない。
手土産をあーだこーだ悩むにしても、相手の事を全然知らなきゃいい答えなんて出るわけがねぇ。
だったら悩む前に、聞いて知るだけだ。
「それじゃ簡単にでいいけど、ウィンズビル伯爵家について出来るだけ教えてほしいな」
「ふむ、ウィンズビル家について……畏まりました。では、以前お話した王国の食糧庫と呼ばれている所以、そこからお教えしましょう」
「あれっ、それってあっちの領内が長年かけて土壌改良されたから、だけじゃないの?」
そう、初代ラクスター侯爵が魔導生物のスライムを使って実現した、テラフォーミング級の土壌改良でウィンズビル領内全体の土地の状態が良くなって、そのおかげでそう呼ばれるようになったはずなんだけど。
「いいえ、ただ単に食糧の生産力が高いだけならば、穀倉地帯や国内最大の生産地といった呼び名が相応しいでしょう。しかしそれが食糧庫となれば、貯蔵や流通にも強いという事です」
「……まさかウィンズビル家って、この国の食糧事情を牛耳ってる?」
「はい、正解です。より具体的には、生産ギルドの運営を派閥全体で取り仕切っておりますな」
うわぁ、思ってた以上に相手の規模がデカかった。
こりゃアールさんの根回しゼロで動いても、オレ個人じゃ門前払いされるだけだな。
「とはいえ商業と流通に関しましては、シークアルト辺境伯の派閥には今一歩及ばないようですが、そこは本筋から逸れてしまいますので、また必要な機会にお話致しましょう。それよりウィンズビル伯爵家についてですが、今申しました通り生産ギルドを運営しておりまして、ラクスター侯爵家もその恩恵を受けております」
「こっちが買うのはともかく、ラクスター領内から売れる物って何があるのかな?」
「ウィンズビル領内には大きな森が有りませんので、ラクスター領南西部の森林から得られる木材や、魔獣の素材が主な商品です。しかしそれも、ウィンズビル領から見ればラクスター領よりも遠いガランド侯爵領産と比較すれば、少ない取引量ですな」
「もしかしたら、初代ラクスター侯爵が森を全部は開拓しなかったのって、こういう所まで見据えてたのかもね」
「魔導生物だけでなく、森から得られる資源をも遺して頂けていたとは、本当にありがたい事です」
「そうか……魔導生物だ!」
そうだよ、ラクスター侯爵家って言えば、魔導生物があったな!
紋繰騎の改良案は、オレ達も研究を始めたばっかりで、士導院相手ならともかくたった一回の実戦経験だけで売り込みかけるには、アピールが弱い。
新しく造った魔導具だって、まだどこにも登録してないから、格安で売ったり手土産として渡す事も出来ない。
けど、ウィンズビル伯爵家相手に出すのに、魔導生物なら話は別だ。
なにせ、長年かけた巨大な成果の土壌改良が、今のウィンズビル家を支えているんだ。
こっちから魔導生物について話を切り出せば、向こうは必ず食い付いてくる!
例えば、今オレ達が乗ってるエアクッション台車だって、既存の大型運搬台車にスライムを組み合わせただけで、特に複雑な仕組みじゃない。
しかも、馬とかの生き物と違って疲れ知らずで、魔力が続いて壊れない限りどこまでも動かせるし、こうして大量の重量物を素早く運べる乗り物なら、確実に喜んでくれるはずだ。
あ、鑑定の魔導具の機能を魔導生物に付与して贈り物にしたら、それも喜ばれるかもな。
うんうんっ!
こりゃ早速、魔導生物技術研究所に戻ったらアレコレ造らないと!
「ユージ殿、何か良い案が出ましたか?」
「うん、ウィンズビル伯爵家が喜んで協力要請を受けてくれそうな案が、幾つか出たよっ!」
「えっ!? ユージ君っ、それは本当かいっ!?」
「アールさん、初代さんの頃からラクスター家の一番の売りになってる魔導生物技術で、ウィンズビル家に渡す手土産をオレ達が造るんで、それ持っていって根回ししてくれます?」
「おぉっ! なんてことだ……私は、ラクスター侯爵家の現当主だというのに、そんな素晴らしい案も思い付かないだなんて……」
いやいや、なにもそんなに落ち込まなくたっていいと思うけどなぁ。




