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士導院の謎


「……そうか、この国の王家……いや、過去から生き延びてきたルカールという男はずっと昔から、そんな恐ろしい事を企んでいるんだね」


「結構あっさり信じるんですね」


「いやいや、アイカさん。あっさりも何も、実際に君がその生き証人じゃないか。だとしたらきっと、生き物の魂に干渉出来る魔法だってあるんだろう? それなら、信じるとも。それにだ……」


「それに?」


「私達は、ユージ君達を信じているからね」



 やれやれ……口調と雰囲気は軽いってのに、すげぇ重い信頼だ。


 それこそ、本来だったら今はもうほぼ夫婦の間でしか呼び合わないって言ってた愛称――アールシュナウドさんはアールさん、フェリエルさんはエルさん――でオレが呼ぶのを、身分とか歳の差を超えて二人に許してもらえるくらいのな。



 でもこれで、このままだとラクスター家の一族郎党全員が、それともしかしたら関係者のみんなも、命と人権と人としての尊厳を理不尽に奪われそうだって事は、ちゃんと伝わった。


 ホントは出来る限り人払いしてもらって、アールさんとエルさんだけに話したかったんだけどな。


 過去の被害に遭った藍華がどうしてもって言うから、この場に居る全員に他言無用だって強く念押ししてから、異世界侵攻計画と、その大前提になってる人工神化計画、その全てを聞いてもらったんだ。


 当然だけど結果は、男女関係無くみんな怒るか真っ青になるか、そのどっちか。


 特に、似た被害に遭う一歩手前だった 騎装士(スキナー) のフィナ達五人娘とルーナは、恐ろしさが振り切れたのか絶句してた。


 それとは逆に、アリスはすげぇ怒った。


 そりゃあもう、ハウザーさんとイレーヌさんとミトリエが、全力で抑えたり宥めたり慰めたりするくらいには、怒ってた。


 多分、アルゴーさんやマーレさんとの関係と、五人娘とルーナの気持ちを汲んでるんだろうな。


 まぁ、そのせいで乗ってきた馬車に軟禁まがいの隔離状態にされちまったのは、仕方ないさ。


 まだ冷静だったのは、アールさんとエルさんにフィラードさん、トリィと爺さんの大人組だけ。


 この反応の境目はきっと、社会経験の差だろう。


 だもんで、オレと藍華の説明係とエルさん以外の大人組は、今後の状況とか予定について話し合いの真っ最中。


 エルさんは、五人娘とルーナの相手をするって言ったから、そっちはお任せしといた。



 それより今のアールさんの言葉で、 紋繰騎(クレストレース) だけじゃなく 紋纏衣(クレスキン)紋装殻(クレッシェル) とか 騎導紋(ガイスト) までの、発見やら開発の経緯が曖昧だったり、調べて知るだけでも危険な理由についても、また少し分かった。



 きっちり確認してないから多分だけど、どうもネクロマンサー系の魔法は公開されてないらしい。



 こいつはまた別な意味で問題だ。


 例えばこれが、藍華と出会う前のオレが知らないってだけなら、問題になんてならねぇ。


 なんせ、調べて知るだけでもヤバいって釘刺したのは、女神視点で色々情報持ってるアルフェだ。


 あいつはその時確かに、古代魔導文明時代の七体の魔王――エンペリオンや六体のセンチネリオンの事だ――に関する情報は機密指定扱いで厳重に隠蔽管理されるっていう、オレの考えに同意はしてた。


 けど思い返してみれば、アルフェは“具体的な国の名前は出していなかった”んだ。


 そりゃそうだろ。


 何百年も前に開発されて、今じゃ世界中の国々で当たり前に普及して使われてる、同じ起源で同じ構造に同じ制御方法の道具を、一体どこの国が機密指定にするってんだ。


 そんなの、一つの国がいくら中核の技術やその由来を隠しても、必ずどこかでバレる。


 アルフェ自身もチョロチョロ漏れるって言ってたし、実際に一般人のルーナが調べて知る事が出来る程度までは、情報が出回ってるみたいだしな。


 なら、なんでオレが知らないだけなら問題ないかって言うと、“ 紋繰騎(クレストレース) 関連のネタバレを避けるアルフェの気遣い”って前提条件が付くからだ。


 ところがこの事を、オレ以外にアルフェとの接点なんてゼロな上に、 紋繰騎(クレストレース) が身近にあるこの世界の人達、特に王族や貴族に学者や技術者なんかの、支配者層とか知識人が知らないってのは、かなり厄介な話だ。


 前にハウザーさん達との雑談で聞いた話じゃ、侯爵ってのはどこの国でもトップから数えて三番目か四番目くらいの、かなり高い爵位だそうだ。


 まぁ、三十年前からずっとこの国の王家っつーか、主にルカールのクソ野郎につけ狙われてるラクスター家は、ちょっと例外に近いけどな。


 それでも、そんな高い爵位の家の当主が、国家戦力の主軸になってて自分達も使ってる道具の、しかもその中核の技術について全く知らないってのは、どう考えてもおかしい。



 でもこれは、ルカールの仕業じゃない。


 自分の生まれ育った世界だけじゃなく、よその世界まで征服したがる奴が、その邪魔になるような 紋繰騎(クレストレース) なんて戦力を、世界中に普及させるわけがねぇ。


 むしろ過去の技術を独占する為に、例え全然使い物にならない残骸だろうと必ず手に入れて徹底的に隠し通す、そう断言出来る。


 竜族と巨人族っていう、名前だけでもかなり強そうな種族を含めた世界中を敵に回しても、ほぼ互角に戦えるレベルの兵器、エンペリオンと六体のセンチネリオンが対象なら、なおさらな。


 それに、ラクスター家に都合の悪い事は全部奴のせい、って押し付けられるほど単純な話じゃない。


 つか今の状況からすると、魔王の残骸の発見と解析から 紋繰騎(クレストレース) に至るまでの開発と普及に、ルカールは介入も関与も出来なかったんじゃないか、そういう印象を受ける。



 それなら一体どこの誰が、って話なんだけど――


「しかし、いくら君達を信頼していると言っても、情けない事に今のラクスター家では力不足だ。ユージ君達にはアリスティアを連れて、北のロジェード公国か南のロカビリン大王国の、いずれかに行ってもらうしかないだろう」


「……ロカビリン、大王国?」


「うむ。そこには 士導院(しどういん) の本部があってね、かつて発掘された魔王の残骸が保管されているから、見るだけでもきっと良い勉強になる。それに、世界中の 紋繰騎(クレストレース)騎装士(スキナー) に関わる大きな組織だし、騎体の改良や新規開発にもきっと協力してくれるはずだよ」


――そんな事が可能なのって、やっぱ 士導院(しどういん) くらいだよな。



 まぁ、クソ野郎とはいえ一国のトップを出し抜いて、過去の兵器の解析結果から役立つ道具を開発して普及させ、その上で中核技術はきちんと隠蔽出来てるんだ。


 事実オレと藍華でも、っつーよりエンペリオンコアの性能でも、“ネクロマンサー系の魔法”ってくらいのざっくりした情報しか得られていない。


  騎導紋(ガイスト) を書き換えようとした時の話だけど、実行式には隠蔽の魔法が付与されてて、暗号鍵なしじゃ解除出来なかったからなぁ。


 頼みの綱だった藍華も、当時はネクロマンサー系にはほぼ興味なかったらしくて、魔法の詳細は不明なままだし、エンペリオンコアにも記録は無かった。



 その藍華の様子が、ロカビリン大王国って国名聞いた途端におかしくなったけど、その国に何かあるのか?


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