掃討作戦の終わりに
『よう、フィナ。久しぶり、ってほどじゃないけど、元気そうだな』
『あ、ユージさん……』
女王がいなかった方の群れでも残党狩りをきっちり終わらせた後、サッと見渡したら少し離れた所に、オレ達が初めて改良して今はフィナ専用騎になってる騎体を見つけたから、声をかけた。
頭部に探索魔法の魔導具で造った角を持ってるから、他のどの騎体より目立ってていいな。
でもなんか、フィナの様子が少し変だ。
もしかして戦闘中に、騎体がどっか壊れたのか?
『どうした、どこか壊れたんならさっさと修理しないとマズいし、爺さん呼ぶぞ?』
『いっ、いえ! 騎体は損傷無しですからっ!』
そうか、なら良かった。
仕方なしだったけど、途中で本隊には数が多いこの群れとの戦い全部押し付けたようなもんだし、いくら相手が対魔獣戦闘のスペシャリスト揃いな紋繰騎隊でも、ちょっと後ろめたい気分だったんだよな。
『フィナもケガしてないよな』
『あ……し、心配してくださるんですね?』
『そんなん当たり前だろ。……あっ、まさかお前、オレが紋繰騎しか心配しない奴とかって、そう思ってるんじゃないだろうな?』
『いえ、そうは思ってませんけど、この騎体はユージさんの厚意でお借りしているのに、許可も得ず勝手に出撃したものですから……』
『なんだよ、そんな事か』
確かにオレは、フィナ達五人に騎体を貸してる。
けど、逆に言えばオレがフィナ達の持つ 騎装士 の腕前と経験を、ラクスター侯爵家から借りてるとも言えるんだ。
なら、状況とかその場の都合に応じて互いに融通出来る所は、譲り合ったり助け合ったりした方がいいだろ。
しかもそれが、オレ一人じゃ運用出来ない 紋繰騎 の事で、貸し出した結果がよりいい戦果とか改良や改造に繋がるんなら、尚更だ。
『はぁ……ユージさんならそういった風に軽く仰ると思っていましたけど、私は男爵位を持つクノックス家の者、貴族がそのお言葉に甘えるわけにはいきませんのよ?』
『……あー、そうだったな』
『ご理解頂けまして、何より……』
『そういやフィナって、貴族だったっけか』
『えっ、もしかして忘れられていたんですのっ!?』
掃討作戦の直前にラクスター侯爵とその奥さんに会った時は、他に知ってる貴族なんてナーキスで相手したあのゴミ女だけだって思ってたけど、実はフィナも貴族だったんだな。
いやぁ、すっかり忘れてたわ。
っつっても、だからどうしたって話だ。
『うん、フィナが貴族なのを忘れてたのは悪いと思ってるよ。けどな、逆にオレはこの国の人間じゃねぇんだ。んで、オレ達は仲間なんだから、身分が理由で勝手に生まれる貸し借りなんて知ったこっちゃねぇ、コレがオレの答えだ』
『それは……』
『騎体を貸してるオレがフィナ達を信頼してるんだから、お前の判断で動いた事はオレの意志、何か文句あるか?』
『…………』
『いよっし、回答無しなら文句ねぇってこったな。んじゃあ、この話はこれでお終いだ!』
これがもし、軍隊とかの規律が厳しい組織だったら、独断専行とか命令違反は厳罰ものなんだろうし、それよりは緩いっつってもこの国とか貴族に定められた法律上は、もしかしたら何かお咎めが下るのかもしれないな。
でもそんなの、根なし草な旅人のオレにゃ関係ねぇし、そんなオレが信頼してる仲間のフィナ達が良かれと思って動いていい結果出したんなら、文句無しだ。
『それよりな、これから先の話が重要だぞ』
『……これから先、ですか?』
『あぁ。まずは改良した騎体の評価と問題点の解決だろ、それと掃討作戦の反省会に、ラクスター侯爵家との協力体制とか今後の活動予定、オマケに新しい仲間の紹介もだ』
改めて思い返して起きた出来事を数えると、フィナ達と別行動になってから今までだけでも、色々あり過ぎで恐ろしく密度が濃いって分かるな。
藍華と出会って仲間になって、初代ラクスター侯爵の出身とか魔導生物の由来とか、この国の王様がクソ外道な奴だとかが分かったりしたし。
藍華とエンペリオンコアのおかげで、紋繰騎に新しい改良が二つも施せた。
ただ、これから先何も問題なく紋繰騎ライフを楽しむ為には、この国でシレッと王様やってるクソ外道のルカールと、野郎が古代魔導文明時代から今までずっと続けてる人工神化計画、その両方を確実に仕留めて葬る必要がある。
単純に奴一人だけ相手にすりゃいいなら、オレが神体能力全開で突撃したらあっさり終わるんだろうけど、国を隠れ蓑にしてるって事は、必ず手下とか協力者がいるはずだ。
だったら、そういう連中も含めて国一つ丸ごと相手する為に、こっちも他所の国とかデカい組織を後ろ楯にすればいい。
その候補は士導院とそこに関わる世界各国、そして後ろ楯にする見返りは紋繰騎の改良案と魔晶のエネルギー資源化。
っつっても、有名な研究者でも貴族でもないただの旅人なオレが一個人で動いたって、今挙げた候補はどこも相手にしてくれないのが明白だから、アリスや両親は当然だけど、ラクスター侯爵家とは仲が良いウィンズビル伯爵家も、味方として巻き込む予定だ。
『先ほどの戦闘中にチラッと見ましたけど、少し離れている間にとんでもない改良と、今まで見た事も聞いた事もない乗り物まで造ったようですわね』
『どっちも後で詳しく話すし、それと一緒に新しい仲間も紹介するさ』
『新しい仲間、ですか……ふふっ、知らない人はいらっしゃらないように見えましたけど、またこの事でも驚かされるんでしょうね』
まぁ、初対面なら二重の意味で、絶対驚くだろうなぁ。
おっ、台車牽引用のスロウホースをガルバに送っていってた藍華達が帰ってきたな。
「ユージさんっ、準備が整いました! この後はガルバの衛兵隊と紋繰騎隊に任せるそうです!」
『おう、リッシュもエリナもお疲れさん。んじゃ、出発するまで休んでていいぞ』
「はいっ! いこっ、エリナちゃん!」
「うんっ……あのっ、ユージさんっ! ありがとうございますっ!」
『あいよ、街が無事で良かったな』
この大量に落ちてるレギオンマンティスの死骸、どうするんだって思ってたら魔石以外も全部回収して、アレコレ素材として使うんだと。
だから、その輸送に必要な大型運搬台車はガルバで用意してもらって、動かすのに必要なスロウホースはオレ達が所有してる分を貸し出したんだ。
こっちは 紋繰騎 を載せる台車さえ有れば、藍華のコントロールしてるスライムで連結してやって、列車感覚で移動出来るからな。
森に近い街で、台車とか馬車の製造もメイン産業の一つだからこそ、数が揃ったってのはありがたい話だ。
んでそのお使いついでに、リッシュと一緒にガルバ出身のエリナも街に行かせて、家族とか知り合いが無事かどうか確かめさせてたんだけど、あの様子なら問題ないか。
『さてと、準備出来たって言ってたし、そろそろオレ達も領都に帰るとするか』
『了解ですわ』
それと侯爵夫婦の護衛ついでだし、移動中は盗み聞きされなくて安心出来るから、今までの出来事もこれからの行動方針も、みんな揃ってじっくり話し合うか。




