レギオンマンティス掃討作戦 3
群れ全体を確実に仕留めるなら、オレが直接高威力の攻撃魔法を叩き込めば終わりだ。
けど、この距離だと胸部外装を開いてる最中に奴らの物理攻撃が届いて、アルゴーレが壊されるから嫌だ。
胸部外装を開閉する動きは、戦闘とか騎体の運動能力には全然関係ないし、むしろ戦闘中に 騎装士 の安全を守る為にって理由で、一番重くて分厚い装甲施してるから開閉速度は遅いし、緊急時に即パージ可能な爆発ボルトみたいな仕掛けだって無い。
それに、武器とか防具に身体の傷は男の勲章、みたいな考えはある意味理解出来るけど、今それを自分でやるってのは、この騎体が借り物なのと英雄騎って呼ばれてるのを踏まえると、わざとぶっ壊させるのを躊躇うんだよなぁ。
しかもだ、そういう“肉を切らせて骨を断つ戦法”をやるほど、手札を使い尽くして騎体もボロボロなピンチってわけでもねぇ。
んー……何かこう、それこそ魔法みたいな解決手段でも有れば……って、ちょっと待てよ。
そういやこいつら、さっきからオレが攻撃魔法使って遠距離から一方的に叩いてくるのを警戒してるから、こっちが一騎なのに攻めたり逃げたりしないで、守り固めて睨み合ってるんだよな。
もし、オレが魔法を使えないからって物理攻撃に切り替えたとしたら、向こうはどう動く?
奴らは女王含めて二十三体、こっちはたったの一騎、攻撃手段はどっちも物理オンリー。
なら、足止め食らわせた原因を排除すれば、奴らを遮る障害はもう無いって考える、か?
『……じゃあ、ホントに引っ掛かるかどうか、試してみるか……“雷槍”っ!』
おっ、魔法が飛んでくると思って一瞬ビクッて動いたけど、何も起きなかったから首傾げてやがる!
よしっ、ならこのまま白兵戦に誘い込むっ!
『“雷槍”っ! ……“雷槍”っ! ……くそっ!』
……いよっしゃあっ!
下手な芝居打ったかいがあって、群れ全体が釣れたっ!
この状況だと、ひょっとしたら女王は後ろで動かないまんまか、でなきゃ手下に戦わせて奴だけ逃げるかもって思ってたけど、まさかボス自ら出陣するなんて、博打としちゃあ予想外の成果だ!
さぁて、ここまで場を動かしたからには、どうせなら勝って帰りたいしな。
馬にゃ乗ってないけど、騎体の速度と重量を活かした馬上槍術バリの全力重突撃っ、ぶちかましてやるっ!
『おぉぉぉぉっらぁぁっ!』
どうだっ!
お前ら今まで、普通の速さの 紋繰騎 しか相手してなかったんだろうけどな、こっちは出来立てホヤホヤの改良騎なんだ。
初体験の速度と、それを繰り出すパワーを目の当たりにしたら、ちょっとやそっとの戦力差があっても、どうにもならない勝負があるって分かったろ。
その証拠に、女王の右腕側はまだ痺れてるらしいから、ギリギリまで寄せてすり抜けざまに、走る為の足一本ぶった斬ってやったぜ!
おーおー、すれ違った勢いでそのまま逃げれば、まだ生き延びられたかもしれねぇのに、どうしてもオレをぶち殺したくなったらしいな。
残った三本足で不器用に向き変えてまで、わざわざ正面からぶつかる構えに入りやがった。
って、アレはもしかして……。
よしっ、ならこっちから先に動いて、もう一度こいつらを足止めしとくか!
『はぁぁぁぁっ!』
いいぞっ、さっきと違って今度は女王も手下もその場から動かないで、オレの速さを止めるつもりだっ!
その対応力は、虫にしちゃすげぇのかもしれないけどな、残念ながらオレは一人っきりで戦ってるわけじゃないんだよ。
「「「「【雷槍】」」」」
「「「「【炎槍】」」」」
「ゆう君お待たせっ!」
『ユージさんっ、無事ですよねっ!』
よっしゃ、これで戦力差はひっくり返したっ!
しかも、オレ相手に集中してるとこから無防備にバックアタックされたせいで、女王自体に攻撃魔法は当たってないけど、それでも群れ全体がかなり混乱してる!
ナイスタイミングだぜっ!
『みんなっ、女王を最優先で仕留めるぞっ!』
『了解っ!』
「オッケー……って、まずいわっ!」
あっ!?
こんにゃろうっ、形勢逆転されたって分かった瞬間、手下見捨てて単独で逃げる気かっ!!
くそっ、手負いなのに飛び立つモーションが恐ろしく速いっ!
藍華達はまだ間合いが遠いから、飛んで逃げられたら追撃戦が面倒だし、街の上空にでも入られたら攻撃魔法は使えなくなって、打つ手が無くなる。
こうなりゃ、いちかばちかでジャンプして――
「絶対に逃しませんっ! ……【雷槍】っ!」
――よくやったっ、アリスっ!
背中の付け根から広げてる、安定翼みたいな甲殻のど真ん中に雷属性魔法食らって、羽根全体が麻痺しちまったらしいな。
それでもこの高度からだったら多分、多少はダメージ負っても死にゃしないんだろう。
だけどな、もうオレは突撃の為に走っててほぼトップスピード出てるし、せっかくアリスが作ってくれた絶好のチャンスを、みすみす見逃すつもりもねぇっ!
『ぅうおぉりゃあぁぁぁぁっ!』
群れの直前で思いっきり飛び上がって、勢い任せで女王の左脇から右肩まで、 長重槍 の鋭い刃でバッサリ斬り裂いた手応えが、騎体越しに伝わる。
そして、群れの反対側に上手く着地した瞬間に、他の個体からの反撃を警戒して素早く振り返るのとほぼ同時に、一部のレギオンマンティスを巻き込んだ女王の死骸が、地面に激突するのを見届けた。
……でもまだだ、まだ全部終わったわけじゃねぇ。
目の前には十体くらいだけど、本隊が相手してる分はどのくらい残ってるか分からないんだ。
言葉が通じる種族なら和解出来るかもしれないし、スロウホースみたいに大人しくて無害なら、飼い慣らすのもいいだろう。
けど、レギオンマンティスはそのどっちでもないし、女王を倒されて混乱はしてても、完全に動きが止まったりはしていない。
オマケに、女王が逃げる時のレギオンマンティスの特徴、他の全個体が狂乱して無差別に暴れるってのも、ひょっとしたらこれから始まるかもしれないからな。
『みんなっ、残党狩りだっ! こっちをさっさと終わらせて本隊の手伝いにも行くから、一匹も逃すんじゃねぇぞっ!』
群れを全滅させない限り、このまま放置しても百害あって一利なしってんなら、害獣とか害虫はさっさと駆除して終わらせるのが一番いい。
んでもってこの作戦の後は、紋繰騎に関わる反省会と次の改良点選びを、とっとと始めるんだっ!




