決闘
まさか、こいつら全員が 紋繰騎 に乗って来るなんて思わなかったなぁ。
だからせめて、一体だけでも命乞いの代わりに差し出してこないか挑発してたけど、謎の爺さんが気前よく全部賞品として提供してくれたし、ホントありがたいぜ!
それはともかく、そろそろ風魔法は解除しとくか。
この世界の技術的に、全環境対応の 完全密閉 コックピットは造れないはずだから、たかが風でも中は台風並みの大荒れだったろうな、ざまぁみろだ。
「お前ら良かったなぁ、あの爺さんが賭け草大盤振る舞いしてくれたおかげで、オレが勝ったらその紋繰騎は全部没収、でもこの場は命だけは失わずに済むぜ」
「くはっ! ペッ! ペッ! な、何を勝手に決めて……」
「女の子を好き勝手に奴隷にする、そんなクズ共が偉そうに言うんじゃねぇよ、恥知らずだな」
「その口永遠にふさいでやるぁ! くたばれぇっ!!」
ありゃま、おつむがカリッカリに焼け焦げてるらしいな、開始の合図も待たずに一体突っ込んできやがった。
「焼け死ねっ! 【球炎】っ!」
「バッター第一球……打ちましたっ!!」
ははっ、なんの捻りもねぇ真正面からのヘロヘロ魔法攻撃なんざ、あっさり打ち返せるぜっ!
「くあっ!?」
「よっしゃっ! ジャストミートッ!!」
案の定、火の玉追っかけて突っ走ってるでけぇツラに一発かましただけで仰け反ってるし、ここはさっさと沈めとくか。
さてさて、泡食ってる奴の懐に潜り込んだし、対巨大兵器戦闘での定石通りにまずは足狙いっ!
「はぁっ!!」
「うわわっ!?」
いいねいいね、丁度踏み出して浮いてる左の足首突いたら、更にバランス崩してくれたなっ!
んじゃあ仕上げに、つんのめって下がってきてる腰付近の重心に、引き戻した鉄棒ガッチリ突き当ててっ――
「ぃよいしょおっ!!」
「はっ? ……ぐがっ……」
――流石にこんだけ重量あるっつっても、やっぱ中身ギッシリじゃないんだな、勢いよく一回転して地面に叩き付けられたせいで、釣り鐘みたいにゴワンゴワン鳴ってるわ、あーうるせっ。
背中から綺麗に落ちたし、ケガとか失神はしても生きてるはずだけど、それにしてもマズいな。
「まさか、受け身取れねぇくらい操作が下手くそだなんて、予想外だったなぁ。これじゃ終わる頃にゃ全部全損になっちまいそうだし、爺さんの怒りがマッハで恐くてヤバいわ」
「なっ、なっな……投げ飛ばしたぁ!?」
いや、純粋な投げ技とは違うぞ、あれは奴の勢いを利用した突き飛ばしだ、ってんな事より――
「おーい、審判役の衛兵さん! 開始の合図前に攻撃って、あいつ反則じゃねぇのー?」
「……はっ! そ、そうだっ! 先に手出しした奴は失格っ、場を仕切り直すぞっ!」
――つっても今だってピクリとも動かねぇし多分、決闘中に起き上がって途中参戦なんて、出来ねぇだろうけどな。
「爺さんごめーん! こいつらド下手過ぎて、これ以上手加減するの難しいわー!」
「ぶわーっはっはっはっ!! そんなこと気にせんで、思いっきりやれぃ! むしろ中途半端な方がつまらんぞぉっ!」
「あいよー!」
それ聞いてホッとしたよ、終わった途端にお説教とか、テンション下がるからなぁ。
「きっ貴様こそ反則ではないかっ! 魔法を反射するなど、なんだその武器はっ!」
は? 何的外れなこと言ってんだ、こいつ。
「はぁ、騎装士として雑魚なだけじゃなく、魔法や魔力のことさえ知らねぇのか。なら教えてやるけどな、属性付与された魔法ってのは、無属性の魔力と反発干渉するんだ」
だから魔法には、射程距離や効果範囲に持続時間なんてものが存在する。
「んで、さっきのはこの鉄棒にただ魔力を通して魔法の火の玉を打ち返しただけ、強化魔法すら使ってねぇんだよ、マヌケ」
「ぐぬっ!そっ、それくらい知っとるっ!」
「知ってて負け惜しみ口走ったんなら、なおさら無能だな。この際ここではっきり言っとくぞ、お前ら全員あの女の子達より紋繰騎の適合、低いからな」
「どっ、どういうことですかっ、ユージさん!」
それはオレが聞きたいんだけどなぁ。
彼女達とこいつらを一通り鑑定したけど、一体どういう理屈なんだろ。
「どうもこうも理由は不明だけど、そういう鑑定結果が出たんだよ。なのにこのバカ共の評価が高いのは……」
「まさかっ、教官が評価の改竄をっ!?」
「でなきゃ、士導院所属の鑑定魔法使いがこいつらの仲間か、ってとこだ」
士導院での適合検査のやり方は聞いてたとはいえ、見知らぬ相手を疑うのはどうかと思うけど、念押しくらいはしといてもいいだろ。
あ、早速衛兵さん達が何人か動いたか。
それならそっちはお任せして――
「さてと、流石にお喋りの時間はもう終わり、これからはキツいお仕置きの始まりだぜ」
「よし、改めて始めるぞ……決闘開始っ!!」
「はっはぁっ! 今度は先手必勝ぉっ!!」
――なんて、わざとらしく宣言して突っ込むけど、無策でバカ正直に真正面から当たる気はねぇ。
神体能力、向上。
紋装殻 ブースト機能、オン。
強化魔法、発動…………戦闘準備完了!
「くっ! 奴の狙いは足だ!」
「近付いたらぶっ潰せ!」
はっ、一度戦い方見せたくらいでお前ら雑魚が簡単に防げるかっつの!
「おらよぉっ!」
「なにぃっ!?」
「飛び越えただとっ!!」
棒高跳びがこっちの世界にあるか知らねぇけど、人間相手に背後を取るなら横から回り込むより飛び越える方が、意外と有効なんだぜ。
それが人型してても小回り効かない、巨大兵器ならなおさらだっ!
「はぁっ!!」
よっしゃ、二体目の左股関節頂きっ!
そのまま続けてぇ――
「うらっ!!」
――三体目の右膝もだっ!
「くっそぉっ!」
「うわっ! 無理に暴れるなっ!」
ははは、振り返る為に接近してたし、そうやって正面から縺れ合ったら腕が使えねぇだろ、それ狙ってわざとお前ら二体の真ん中辺りを飛び越えたんだぜ。
だってのに暴れるのを止めねぇから、どんどん互いのバランスが崩れるんだ――
「お次は腰ぃっ!」
――だから、二体目が俯いて腰の装甲に出来た隙間に鉄棒ぶち込んで、下半身の動きを支えてる辺りを強引にねじ曲げてやりゃあ、支えを失った上半身の重みが、相手側の負担を更に増やす。
そして、倒れた奴らが身動きとれない今の内に、脇の下から両肩壊して、はい二体無力化っと。
「調子に乗るなぁっ!!」
「ぎゃっ!?」
「がっ! 止めてください教官っ!!」
このクソ野郎、下に味方が寝てるってのに、乗っかってるオレを真上から攻撃したら、同士討ちになるのは当然だろうが!
つか、狙って最小限の破壊だけに留めてるのに、よくもオレの紋繰騎を傷付けやがったな!!
「てめぇは必ず生身もぶっ飛ばすっ!」
「今だっ! 魔法攻撃っ!」
「えっ!? で、でも……」
うん、味方諸共殺る気だったんだろうけど、誰もがみんな素直に従うわけじゃねぇよな。
でもまぁ、そのおかげでどっちも動きが止まってるし、まずは離れてる奴から仕留めるっ!
「いっ! くっ! ぜぇぇぇぇっ!!」
剣を振り下ろして、片膝立ちになってるクソ野郎の紋繰騎、その膝と腕と肩を踏み台にして、高さと飛距離を稼いで空を駆ける!!
「うぉぉっ!? なんだっ! 何も見えんっ!!」
あ、飛ぶ勢いつける為に奴の頭ぶっ叩いたけど、何か壊れやがったか?
でも今は、いい感じでほぼ真上から強襲出来てるし、そのまま突撃ぃ!!
普通は上から見た人なんて、的が小さくて狙い辛いんだけど、紋繰騎ならそこそこデカいから問題ねぇ!
「ふんっ!」
「あぐっ! ……ぅわっわっ!」
肩口の隙間に突き刺して固定した鉄棒にぶら下がる感じで、オレを視界に入れようと仰け反って崩れた姿勢に、飛んできた速度を上乗せして後ろに引き倒してやれば、後はもう弱点の関節を狙い放題で、四体目もお掃除終了だ。
さてと、これで残りはクソ野郎だけなんだけど、あっさりとどめ刺したらオレがつまんねぇし、ちょっと息抜きして遠間に眺めるか。