英雄騎
領都に入る時は、大型運搬台車とエリナとフィラードさんは壁の外に残して、アリス達とオレとルーナが乗る馬車だけで駐騎所に来たけど、建物の中にはトリィと爺さんしか居ないんだな。
「おぉっ! 馬車が馬無しで動いているっ!」
「なんだなんだユージ! お前さんちょっと見ない間に、また妙な物を造りおったんか!」
「トリィも爺さんも元気そうだな。細かい話は全部後回しだ、まずは二人が準備した新しい騎体を見せてくれ」
まぁ、そうは言ってもインガルの士導院ほど広くない駐騎所だし、整備台座に止まってて使えそうに見えるのは一騎だけ、多分アレがそうだろ。
……へぇ、全身深い蒼の外装に所々を白くライン取りか、カッコいいデザインセンスだ。
武装は今のところ無しだけど、そいつは後から幾らでも選べるだろうし、まだいいか。
大型運搬台車も外に何台か残されてたし、先発隊を追いかける時は、エリナとオレの分で二台連結すれば問題無し、ついでに藍華がある程度単独で戦えるように、 紋繰騎 用の武装を予備で積めば、準備完了だ。
「おうおうそうだったな。今から急いで走ればユージくらいなら、先行した連中に追い付けるだろう。さっさと騎導準備を済ませるか」
「いや、その前にこの騎体も改良するから、腰前の外装を一度外そう」
「なんだってっ!?」
「騎体の改良、だと……一体どういう事だ?」
「これもまた後で詳しく話すけどさ、あっちにいる時に強い味方が出来たおかげで、向こうに残してたエリナの騎体を使って、改良試験をしたんだよ。おーい、藍華!」
馬車から分離してこっちに向かってくる、スライムに載ったデカくて無地のサイコロみたいな藍華を見て、二人ともビックリしてるな。
『ゆう君お待たせっ、この青くてカッコいい騎体がそうなの?』
おっ、わざわざ自分からオレに触れてきてダイレクトリンクで話すって事は、この場で声と姿を出すのがマズいって理解してくれてるのか、細かいサポートがありがたいな。
いくらここにはトリィと爺さんしか居ないっつっても、どこで誰が見聞きしてるか分からねぇし、藍華とエンペリオンコアの存在は出来るだけ隠しときたいからなぁ。
領都に来て駐騎所に入るまでは派手に見られてたけど、エンペリオンコアは馬車の中に隠してたし、魔導生物を見られるくらいならまだ大丈夫なはずだ。
とはいえ、この気配りを無駄にしないように、オレも出発前にはフィラードさんに他言無用だって、釘刺しとくか。
『おぅ、今からちょっと外装取っ払うし、その間にトリィから色々と話聞いとこうぜ』
「んじゃトリィ、爺さんが作業してる内に、この騎体について説明を頼む」
「いやいやいやっ! あの、そのだね……ユージ、一体全体これはどういう事なんだい!?」
あー、ナーキスでは 紋繰騎 話以外だとあんだけ冷静に行動してたトリィだけど、流石に突然こんな登場されたら、取り乱すか。
でもな、あんまり大っぴらには話せないんだよ。
「悪いけどここじゃ話せない事も多いし急いでるからさ、質問は全部グッと堪えてくれ」
「っ……それは……しっ、仕方ないか。なら、後で全てをしっかり話す為にも、必ず無事に戻ってくると約束してくれ」
「もちろんだ、流石に被害無しとまでは言えねぇけど、みんなで無事に戻るって約束するぜ」
色々と根掘り葉掘り聞きたいだろうに、それでもオレ達が無事に帰ってくるように心配してくれるなんて、ホントありがたいな。
あぁそうだ、確実に激戦になるから無傷とは言えねぇ。
けど必ず、みんな揃って帰ってくるんだ!
「ありがとう、ユージ。それじゃあこの騎体、その名も……」
「……この 紋繰騎 の名前は、“アルゴーレ”」
嬉しそうに騎体を紹介しようとした、そんなトリィの言葉を遮って飛んできたのは、静かでそれほど大きくはないけど、しっかり響くアリスの声。
「アルゴーレ、か……アリス、その名前ひょっとして……」
「お察しの通りです。この騎体はかつて、ラクスター侯爵家に仕えていた、最強と賞される二人の男女が使っていました」
オレと、アリス達が知り合う切欠になった二人。
そして、オレが一度も会えなかった二人、か。
最強……アルゴーさんとマーレさんは、顔も性格も知らないけど、ラクスター侯爵やラクスター家に関わる人達や領地のみんなからは、そう呼ばれてたんだな。
「そんなお二人の使っていたこの 紋繰騎 は、最も早く戦場へ駆けつけ、誰よりも長く戦い、相対したどんな魔獣でも倒れるその最後まで戦場に立ち続けた、ラクスター家と全ての領民達の憧れと希望、“英雄騎”」
「英雄騎……」
そこまで讃えられるくらい、すげぇ戦いぶりだったんだろうな。
「この騎体を用意したお父様が、何を考えているか……私には解りません。ですが今、ラクスター領で用意出来る最高の騎体、それは保証します」
多分……いや、確実に。
最強って呼ばれてた二人は、 紋繰騎 への適合も戦闘技術も経験も高くて、そんな人達の為に用意されてた騎体だって、最高って言うからにはかなりいい出来なんだな。
「いいのか、そんなさ……思い出とか願いとか誇りが詰まった大事なモノ、オレみたいな奴に使わせて……」
「はい、構いません。ユージさん……いいえ、ユージ・ヒューガ様」
まるで、祈るみたいに目の前で跪いて、オレの右手をアリスは捧げ持つように両手で包む。
「おぅ」
「貴方に、この 紋繰騎 を預けます。どうか、この地に住む人々を助ける為に、その力をお貸し下さい」
「……その想い、確かに受け取ったぜ、アリス。ただな……」
一つだけ、気に入らない事がある。
「オレとお前……いや、オレとみんなは、対等な立場の仲間だ」
「わ……」
オレは握られた手を握り返して、腕に込めた力でアリスを立たせて、きちんと目線を合わせる。
「忘れるな、オレ達は仲間なんだよ、助け合うのはお互い様だ」
「は、い……はい、決して忘れませんっ、ユージさんっ!」
……ったくよ、こんな厳かっぽい雰囲気で必死に訴えなくたって、仲間の為ならオレは全力なんて幾らでも出すっての。
場の空気に押されて真面目な顔してたけどさ、実はかなりこっ恥ずかしいんだぞ!
「……解ったんならいいや。んでトリィ、この騎体に使ってるマッスルメタルの番手は?」
「やれやれ、ユージはどうにも恥ずかしがり屋らしいね。さて、それじゃあ仕切り直してその問いに答えるとだ、全身統一で七番手、ラクスター領で入手可能なマッスルメタルの内では、間違いなく最高品質の物だよ」
最高品質の七番手マッスルメタル、これだけでも相当な出費だけど、それでもオレに騎体を預けて魔獣との戦いに引っ張り出す時点で、どれだけ今の状況がマズいのかがよく分かる。
ならオレだって、可能な限り出来る事を全力でやってやるさ!




