改良騎動作試験 問題点発見編
「いやー、ボクとしては魔晶の試験も同時に進めたかったんだけど、ユージ君とアイカさんが安全第一だって言って譲らなくてね、そっちは不完全なんだ」
「「当たり前だ(でしょ)」」
改良後の初回試験で魔力切れが原因の事故起こして、エリナをケガさせたり騎体を壊すわけにゃいかないからな、完全な魔石抜きは許さなかったんだ。
「あの、でもユージさん……今ルーナさんが、“不完全”と言いましたけど……」
「あー、大丈夫だよイレーヌさん。流石に魔石無しは許可しなかったし、必要最低限の魔石はちゃんと入ってるからさ」
これならもし何かあってうつ伏せで倒れた時も、仰向けになって胸部外装を開けるなら、 騎装士 の救助と魔石の交換は可能だからな。
ついでに言えば、藍華とオレしか知らない仕掛けとして、エンペリオンコアとスライムのネットワークは維持してるから、中でエリナが気絶しててもこっそり動かすってのも出来る。
試験は成功させたいし、安全の為なら妥協はしねぇ!
……つってもそれだって、今は 騎導紋 との連動接続にスライムが持つネットワークリソースのほとんどを消費してるせいで、エンペリオンコアからの指令なんて単純なものしか出せない。
いくらエンペリオンコアのスペックが高くても、指令を実行する端末に問題があると、まともに動かないからな。
今回は簡単な動作試験だからまだいいけど、その内必ずちゃんと組み直す。
「それより次は腕と上半身、その後は両足膝下の動作、それから直立と歩行だ。エリナ、頼む」
「了解です!」
焦らなくていい、ゆっくりでいいから確実に、しっかり動作するかを確かめよう。
「それにしてもユージ、かなり慎重に試験するのね」
「そりゃあな、戦場で 騎装士 が命を預ける大事な相棒なんだ、慎重にもなるさ」
こうして会話してても動作試験からは目を離してないけど、今のところ可動範囲は問題無いし、誤動作とか破損にエリナからの不具合の報告も無い。
藍華にもネットワーク越しで監視してもらってるけど、異常の警告も出てない。
腕も足も、座ったままなら問題無し。
さて、それじゃいよいよ直立だけど――
「って、おいおい……これ、ルーナの入れ知恵か?」
「えっ、腕の補助無しで、立った!?」
「なんと……凄まじいまでの安定性ですな……」
――大型運搬台車を椅子代わりに座ってた騎体が、両手使わないで勢いも付けずに立ち上がったよ。
人間で言うなら、椅子有り開始の中腰スクワットやってるようなもんだけど、それってつまり両足と腰にかなりの負荷をかけてるって事だ。
筋トレならともかく、 紋繰騎 でやっても筋線と板筋に余計な金属疲労を溜めるだけだってのに、それ分かっててこんな事やらかすとか、まだ頭冷やし足りなかったか……。
「おぉー、出来るはずだからやってみてって言ったけど、ここまで姿勢が安定してるなんて、本当に凄いよねぇ」
「おまっ! 確信無しでいきなり無理させんな!」
「えぇー、でもエリナちゃんってフィナさん達五人の中で一番運動が得意だから、上手く出来ると思ってお願いしたんだよ」
あのなぁ、藍華と情報交換してなかった時までだと、 騎装士 本人の運動能力が直接騎体のバランス感覚を左右するかなんて、はっきり分かってなかったんだぞ。
なのに、改良施してすぐにこんな事故に繋がるかもしれない、危険な動作をさせるなっつーの。
「まぁ、もうやっちまった事は仕方ねぇ……【鑑定】……両足、各関節、腰部に不具合も異常も無し! エリナ、そのままゆっくり歩いてくれ!」
「了解です!」
「……む、やはり騎体が重くなっておりますな」
「うーん、大雑把な計算だけど、従来の騎体より三割くらい重くなってるから、全身強化されて動きには支障無くても、地面に影響出るのは避けられないんだよなぁ」
「雨上がりの 泥濘 を歩いてたら、ちょうどこんな感じになるんだけど、雨降ってる最中とかは今まで以上に気を付けないと危ないわね」
騎体サイズは変わらずに重量が増したせいで、足裏の接地面積との兼ね合いで、土の地面だと今までより深く沈み込むってのは、ちょっとマズい。
けど、だからっていきなり足裏の面積増やすのは無理だし、ソッコーで対策施すとしたら、スパイクを取り付けるくらいか。
「そうねぇ……私が今すぐ思い付くのは、パワーアップした分の筋線と板筋を減らすか、外装の厚みを削るか、でなきゃ他に新しく軽量で頑丈な素材を造って騎体を新造するか、くらいね。ゆう君はどうしたいの?」
「そいつは今後の改良課題だな。今は領都に行ってる 造師 の爺さんとも話し合って、エディタに 紋繰騎 のデータを蓄積させて、シミュレートしながら完成度を高める、そのくらいだ」
……って、さっきから黙って考えてるみたいだけど、アリスは何か思い付きそうなのか?
「あの……ユージさん、地面に地属性の魔法を使って足元を固めるのは、ダメですか?」
「ん……んー、ずっと続けるのは魔力的に難しいけど、足場造りながら素早く動いて戦うのは、有りか?」
「有りか無しかで言うなら、一考の余地有りよ。いざって時にしっかり踏み込めるし、その分攻撃も防御もやり易くなるでしょうね。それに……」
「それに?」
「何よりロマンが熱いわっ!」
さいで……。
このままほっといたら、ロマンって燃料でかっ飛んだ藍華がやらかして、普通の地面だけじゃなく水走りとか空中立体機動とか、あれこれ頭おかしいプランを組みかねないな。
「ま、アリスの案は検討と実験次第で採用するか決めるから、今は動作試験を続けようぜ」
「えー、上手く使えば空だって飛び回れるのに……」
やっぱそっちに突っ走り始めてたよ……。
「今の内に言っとくけどな、 紋繰騎 で空飛ぶのは禁止だ」
「なんでっ!?」
「なんでって、元々空飛ぶ用にゃ造られてない 紋繰騎 を無理やり飛ばして、もし事故ったら 騎装士 が危ないだろ」
「そ、それは……」
「完全な無人騎なら実験くらいは許すけど、それだって金と騎体と時間に余裕がねぇ今はダメだ。ほれ、いつか許可するその時まで、しっかりデータ蓄積しとけ」
ったく、趣味が満喫出来て嬉しい気持ちは分かるけどな、それより先に片付けなきゃならない問題忘れるな、って――
「あん? なんか、馬がこっちに走ってくるけど……」
「あれは、ラクスター家所属の巡回騎馬隊ですね、何かあったのかもしれません」
――巡回騎馬隊が急ぎで来たって事は、魔獣絡みか。




