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改良騎動作試験 基礎動作編


「お待たせーっ! みんな呼んできたよっ!」


「おぅ、ありがとな。まだ普段通りに騎導したばっかで何もさせてねぇ、タイミングばっちりだ」


「そっかそっか! じゃんけんに負けた時はガックリしたけど、そういう気配りは嬉しいな」



 そう、なんで改良に関わったルーナが騎導時にはその場に居なかったのか、それは先走ってアリス達抜きで動作試験を全部やろうとした、ずっと興奮しっぱなしのルーナを止める為だった。


 普通なら少しでも考えれば例えじゃんけんだろうと、オレの神体能力に一般人のルーナじゃ勝てないって気付くだろうに、そこに一切気が回らない時点でマズいからな。


 だもんで、その辺黙って卑怯上等でわざとじゃんけん一発勝負を挑んで、ちょっと頭を冷やしてもらったんだ。



「はぁ、ふぅ、お、お待たせしまし、た……」


「お嬢様、大丈夫……ではありませんね」


「そりゃあそうですよ。普段はめったに走らないのに、ユージが呼んでるって聞いた途端に走り出すからこうなるんです」


「はっは、このくらいであれば極度の疲労という訳ではありませんし、問題無いでしょう」


「ミ、ミトやイレーヌさんだけで、なく……ハウザーさんにも負けちゃう、なん……て」



 いや、その考えはかなり甘い。


 ハウザーさんは長い年月鍛えてるんだ、むしろオレ以外の全員より頑丈でスタミナもあるし、積み重ねた経験の分だけ身体の動かし方も上手いぞ。


 ま、あまりにも畑違いなんだし、それはわざわざ指摘しなくてもいいか。



「慌てなくても動作試験は逃げたりしないぜ」


「い、いえ……ユージさんが、紋繰騎を改良したんですから、ちゃんと見届けないと……」


「オレだけじゃなく、藍華もルーナもエリナだって関わってるんだ、アリス達だけのけ者にする気はねぇから、安心しろよ……【治癒】」


「あ……ありがとうございますっ」


「おぅ。さてと、そんじゃそろそろ動作試験始めるか。エリナ、まずは手だけ動かしてくれ」


「了解です!」



 さっきエリナが言ってた気になる点、それがどう動きに影響してるか注意しないとな。


 両手握って開いて、指一本ずつ曲げて戻して……うん、こうして細かい動きを改めてきちんと見てると、 紋繰騎(クレストレース) の操作システムを司る 騎導紋(ガイスト) の利点がよく解る。


 人間の魂を不完全とはいえ騎体に宿らせて、本人の動きそのものをトレースさせてるんだ。


 金属製の板バネとワイヤーと、魔法で動く外骨格と魔導生物だけで構成された駆動系とは思えないくらい、スムーズな動作だよ。


 これがもし地球で、科学的にそれ実現しようとしたら、まずは魂を扱う方法から模索しなきゃならないから、恐ろしいくらい精密で複雑な大型機器が必要になるだろうし、そうすると開発が大掛かりで時間がかかって、その間にやれ生命倫理がどうとか宗教がなんたらとか人権がうんぬんとか、クソ面倒な事にもなるはずだ。


 そんな物理的制約も厄介な世間体も無くて、数百年前からこうして使い続けてるこの世界なら、ちょっとした改良くらいは朝飯前感覚で出来る。


 需要と供給の思惑が一致して、求められる道具が優遇される世の中ってのは、いいもんだな。



「ふむぅ……動作に伴う音が静かですな」


「あ、ハウザーさんもそう思います? ボクもそこが気になったんだけど、やっぱり中身空っぽじゃないのが影響してますよね?」


「うーん?」


「ミト、何か気になるんですか?」


「あ、いえ……その、なんとなく動きが違うな、って……」



 動きが違う?


 確かミトは、 騎装士(スキナー) の素質があるって分かってから、フィナ達と一緒に訓練してたんだよな?


 なら、エリナの動きも見慣れてるだろうし、些細な違いにも気付くかもしれねぇか。



「なぁミト、それもうちょい具体的に言えるか?」


「うーんと、なんて言うか……そう、細い枝とか持って振ったら、止めてもしばらく揺れ続けるでしょ?」


「あぁ、そうだな」


「そういう動きって、 紋繰騎(クレストレース) だとよくある事なんだけど、どうもそれが無い……みたいなのよ」


「揺り戻しが無い、だと……」



 そうか、そうだったのか……!


 従来の騎体だと全身がバネ仕掛けだから、少しでも動いたら 騎導紋(ガイスト) のサポートでも打ち消せないくらい、強い揺り戻しが起きてた。


 それが、粘性の高いスライムを新しい駆動系として組み込んだおかげで、揺り戻しを抑える衝撃吸収の機能が高まってるんだ!


 しかも、利点はそれだけじゃねぇ!



「藍華の発想はやっぱすげぇよ!」


「えっ、私がどうかしたの?」


「あぁ、スライムを組み込んだ事で動作中の反動が抑えられて、魔力消費とか筋線と板筋の無駄な疲労とか、その辺がかなり軽減されてるんだ」



 そう、騎導時に音が静かって言ってたのは、空っぽだった騎体にスライムが収まって、音が反響しないから静粛性が向上したってだけじゃない。


 人間の魂を騎体に宿らせる操作システム、 騎導紋(ガイスト) に特有のちょっとした問題点、“無意識の動作もトレースして騎体に伝達する”せいで、揺り戻しが続くのも抑え込んでるからだ。


 人間に限らず生き物ってのは、取った姿勢を維持する為に、ごく僅かだけど常に動き続けてる。


 例えばこれが、魔法でも科学技術でもいいけど、そういった無意識の動作をするパイロットと機体の動作が直結してない操作システムなら、特に問題は無い。


 でなきゃ、 紋繰騎(クレストレース)騎装士(スキナー) とは別な制御中枢でも装備されてりゃ、そこで余計な動作はカットされてたかもしれねぇ。


 けど、古代魔導文明の遺産を解析した結果から産まれた紋繰騎は、そのどっちでもなかった。


 だから動くたびに、筋線と板筋の大元になってるマッスルメタルの持つ特性、“魔力を与えると元の形に戻る復元能力”が働いて、常に魔力を余計に消費してるし、動けば動くほど進む金属疲労にも拍車がかかる。


 それをスライムで抑え込めるなら、完璧とは言えなくてもかなりの効果が期待出来る。



「……なるほど、これまでの騎体では常に起きていた現象が抑えられる事で消耗が減る、という訳ですな」


「そういうこと。しかもそれでいて全体的に強化さてれる上に、魔石を使わずに魔力を供給出来るから、より一層お財布にも優しいんだ」


「な……魔石を、使わないですとっ!?」


「えっ!? ま、まさかユージ、この騎体……」


「魔石を積んでないんですかっ!?」


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