改良騎動作試験 準備編
「これで……よし。エリナ、まずは通常の手順で騎導してみてくれ。ただし、まだ立ち上がるなよ。オレ達は一旦、騎体から離れるぞ」
「はい……騎導しますっ!」
「さぁて、藍華とエディタのおかげであっさり組めたんだ、問題なく動いてくれよ」
ロボ物ネタだとこういう場合、パワーアップした代わりに操作性に難有りとか、パイロットが持て余して事故ったりとか、部品の強度不足で壊れたり、なんて色々起きたりするんだけど、わざわざ口に出してフラグ立てるのも嫌だし、何も言わねぇけどな。
創造したスライムの中枢になる核は、 騎装士 の足元の下にある空きスペースに収まるくらいの大きさで、人間の身体で例えると丹田の辺りに配置、同じ場所に魔晶と研ぎ道具もセットした。
んでエリナが乗る前、内容を見直して修正しといた 騎導紋 との連動を確かめる為に試験動作しただけなら、何も問題は起きなかった。
今目の前にある 紋繰騎 は、これまでのほぼ金属だけで構成された騎体とは違って、七割近くがスライムに埋め尽くされてる状態だ。
重量は概算だけど元の約三割増し、ただし増えた重さの全部が駆動系なんだから、間違いなくパワーアップには繋がってるはずだ。
「しっかし、 騎導紋 がネクロマンサー系の魔法をベースにしてるなんて、これっぽっちも思ってなかったな」
「構想段階は思い付く限り何でも組み合わせてたんだけど、私だってまさか何の対策も無しにそのまま採用するなんて、ちっとも思ってなかったわ」
騎導紋の実行式、その胸辺りの部分がポッカリ穴空いてた理由は、エンペリオンとセンチネリオンだとそこにコアが収まって、更にコア内部に入ってる魂とリンクさせる方式だったからだ。
けど、古代魔導文明時代からはかなり劣る今の技術だとコアなんて造れないから、人間の身体って器から魂が引っ張り出せない。
でも偶然っつーかほぼ奇跡的にだけど、 紋纏衣 側の騎導紋と騎装士の身体がコアの代わりを果たしてるから、騎体側の騎導紋とは不完全ながらリンク出来てる。
だから、ある意味じゃ機能不全状態な今のまんまだと、ネクロマンサー系の魔法に適性を持った人間だけが、騎装士になれる。
最初にこれ知った時は、 紋纏衣 とか 紋装殻 も魔法適性に左右されるんじゃないか、なんて思ったんだけど、その二つの場合は魔法の効果対象が魂の持ち主自身の身体なせいで発動前でオフにされて、適性無しで扱えるもう一つのベース、無属性の強化魔法だけが発動するようになってた。
完成度が高いのか低いのか、判断に困る話だ。
ちなみに、構想段階でこの方式にした理由は藍華の趣味と主義で、人機一体とか機体融合系のコックピットにしたかったらしい。
魔法だと魂を機体に直接入れられるから、より自然な動作と素早い反応速度が得られるし、パイロットの身体的な負荷や危険も排除出来るからだとさ。
まぁ、レバーやらペダルやらスイッチ満載なのは熱いロマンはあっても複雑過ぎるし、モーショントレースはスペース取り過ぎで機体サイズに影響出るしで、藍華の選択には一理あるけどな。
ただ、一度は構想段階で計画が止まっちまった理由、それは魔法と医学に大問題があったからだ。
まず魔法の問題は、時間と空間に作用したり干渉出来る魔法が無かった点だ。
藍華は前世の記憶を持ったまま転生したと気付いてから、物心ついた頃にラノベ系主人公が使うようなチート能力を、自分も身に付けてないかを真っ先に確認した。
けど、身体的にも魔力的にもこの世界の普通の人間と変わらないと知って、それからは地球には無かった魔法と魔導具の勉強に熱中した。
本人曰く、能力的なチートが無いから、知識でチートをやりたかったんだそうだ。
で、帝国の皇女って立場がそれを助けたおかげもあって、国を繁栄させて次々と素晴らしい知恵や技術をもたらす若き賢者として、国内外に名を知られていって目論みは成功。
弟子入りしたいとか共同研究したいって奴らが、膨大な知識と技術を引っ提げて世界各地から帝国に集結していった。
ところがだ、それだけ豊富な人材が集まっても誰も、ファンタジー系ラノベだと有りがちな便利スキルの“無限収納”とか同系統のスキルは持ってなかった。
そして、スキルが無いなら魔導具で再現しようってんで発案した“マジックバッグ”も、時間の減速や停止、異空間への接続と拡張を実現する為の魔法が手掛かりすら見付からなくて、お蔵入りになった。
でもな、そこまで頑張って研究した理由も分かるんだよ。
魔法を勉強してる最中に、ゴーレムとか使い魔を見てロボットを造りたくなって、構想を練ってる途中で一度はいい操作システムを思い付いて。
なのに、この世界はなまじ治癒系魔法があるせいで医学と医療技術が未熟だから、魂の抜けた身体の生命維持だとか、仮死状態からの蘇生法なんてどこにもねぇ。
それどころか、魂が抜けて仮死状態になった人体に何が起こるか、それすらろくに理解してもらえなかったんだ。
そりゃあ、時間停止した異空間に仮死状態のパイロットの身体を保管したくもなるだろうさ。
そしておまけだけど、ルカールのクソ野郎が当時帝国の最強戦力だったエンペリオンに乗ってなかった理由も、推測出来た。
多分、ある程度建造が進んだどこかの時点で、動作試験でもやったんだろうな。
んで、そこにきて初めてこの操作システムの問題点に気付いたんだけど、解決策を出せなかった。
その段階だと、アイディアの持ち主の藍華は精神魔法で操り人形にされてたみたいだし、他の誰も異世界の知識なんて持ってないからな。
けどもう造った物は仕方ないから、計画を達成するまではパイロットを使い捨てにする、そう決めたんだろうって、オレ達は結論付けた。
ホント、どこまでも胸くそ悪い野郎だ。
ま、野郎はその内必ず仕留めるとして、今は改良した騎体の試験からだ。
「騎導しました!」
「よしいいぞエリナ、まだ動かなくていいから、何か異常が無いか気付いた事を言ってくれ」
「はい、特に何もおかしい様子はなさそうです。ただ、いつもより少し音が静かな気がします」
音が静か?
んー、オレは造師じゃないから爺さんみたいに音で騎体の状態を診断なんて、出来ねぇんだよな。
「ねぇゆう君、エリナちゃんの言う音が静かって、もしかしてスライムのおかげ?」
「……あり得るな」
この研究所には紋繰騎の駐騎場所がねぇからって、外に停めた大型運搬台車で作業やってるんだけど、藍華がここまで来るのに使ってるスライムだって、足音なんか一切無かった。
今までの騎体だと、外装の下は筋線と板筋と魔力路に、それらを支えるフレームくらいしかなかったんだ。
実際、決闘した時にも地面に叩き付けられた騎体は、中身空っぽなのがはっきり分かるくらいにグワングワン鳴ってたもんな。
ただ、あの時と違ってまだ動いてないのに静かってのが気になるし、もうちょい慎重に試験してみるか。




