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気になる彼の、その狙い

短めですが、場面は決闘開始前、助けられた女性騎装士のエルフィナ・クノックス視点です。


「何よあれ! 全騎実戦装備じゃないっ! あいつらどこまで卑劣なのよ!!」



 お嬢様やイレーヌさんと一緒に私達を助けてくれた謎の男性、その彼がライアー達五人とまとめて決闘をする、その為に訓練場で一足先に待っていたら、遅れて現れたのは武装した五騎の紋繰騎クレストレースだった。


 重剣持ちが一騎、長柄戦棍ロングメイス とフレイル持ちが一騎ずつ、魔法戦杖バトルスタッフとスラッシュダガー併装の中~長距離戦想定仕様が二騎……どの騎体も盾は装備していないけど、それでも対大型魔獣戦用の確殺戦術を人間相手に持ち出すなんて、狂ってる。


 しかも、どの騎体も士導院しどういんで使い古された訓練騎じゃない、まるで新品同様。


 ライアーの私物……いいえ、例えたった一騎で紋繰騎はとても高価、いくら士導院の教官でも私物化なんて出来るわけがない、これは明らかに異常だわ。


 その前にたった一人で堂々と立つユージさんは、さっき武器代わりに渡した長めの鉄の棒を肩に担いで余裕綽々そうだけど、大丈夫かしら?



『ほぅ、逃げ出さずに待っているとは、手練れが操る紋繰騎の恐ろしさを何も知らんのか』


『ライアー教官に加えて、ここでの評価が優秀と言われる俺達も相手に、紋繰騎無しで挑むなんて、まさに愚か者だな』


『命を賭けて地べたを這いつくばって、果たしてどれほど持ちこたえられるか……』


「おいお前ら、今のまんまじゃその賭けは不成立だぞ」



 強化魔法か紋装殻クレッシェルのおかげで、軽々と扱えるようになった鉄棒でビシッと相手を指しているけれど、彼が一体何を言っているのか、私にはちっとも分からない。



「今、命を賭けてって言ったな。じゃあお前らの出す賭け草はなんだ?」


『そんなもの、俺達を侮辱した罪の償いに決まっている!』


「それは、お前らが魔法で無理矢理女の子達を手籠めにしようとした犯罪を決闘で誤魔化す、その口実だろ。だからオレは、彼女達の名誉を守る為に受けて立ったんだ」



 そう、それは最初から分かりきった事。



 もしこの場でユージさんが殺されてしまえば、呪いを解く手段は無くなって、またあいつらは魔導具を使ってやりたい放題出来る。


 それを阻止する為に、ユージさんは私達の名誉を守るだなんて名目で、本当なら隠すべき恥を公に晒す言い訳を許してくれと、事前に謝ってきた。



 つまり彼は、こうなる事を予想していた。



 だと言うのに、命懸けの戦いになるなんて最初から分かりきった事なのに、ユージさんは一体何を狙ってこんなことを言っているの?



『……減らず口をっ!』


「さぁしっかり答えろよ、オレが命を賭けてるんなら、お前ら全員は何を賭ける?」



 ひょっとして、殺されないように手加減させる為の条件を引き出したいのかしら――


「それなら、こいつら馬鹿共が使っとる紋繰騎を全騎、賭け草としてワシが肩代わりする!」


――えっ、いきなり現れたのは誰なのっ!?



「爺さん、あんた誰だ?」


『なぜ貴様がここにっ! 余計なお喋りは……』


「うるっせぇよ、しばらく黙ってろ 【強風】」



 ユージさんが使ったのはただの風魔法なのに、たったそれだけでライアー達の声も身動きも一切封じるなんて、本当に彼は何者なの!?



「ワシは、こいつらに孫を人質にとられて扱き使われとる、情けない造師ビルダーだ。それでどうだ、紋繰騎五騎では足らんか?」



 なるほど、そういう事なの。


 紋繰騎造師クレストレースビルダーのお爺さんは、家族を人質にされて無理やりあの五騎を造らされたのね。


 どの騎体も良い出来のようだから、かなりの腕利きなのは間違いない。


 ライアー達が汚い手段を使って従わせているのも、その事を証明しているわ。


 そうなると、ますますユージさんにとって圧倒的に不利な状況、のはずなんだけど……。



「いいや、足りないどころかお釣りが出るぜ! ……ところで爺さん、あんたの孫はひょっとして、隷属の呪いをかけられてるのか?」


「そうだ。古代の魔導具は強力な効果を持つからな、もはや助けてやることは出来んが、せめて仇討ちくらいは……」



 そうよね、普通は古代の魔導具の効果なんてどうにもできないもの、死んだも同然と考えて絶望しても仕方ないわ。


 でも、ユージさんなら、ね。



「なら、こいつらぶちのめした後で解呪するから、それでお釣りとトントンでいいか?」


「なにっ、それはほんとかっ!?」


「えぇ、本当ですよ。私達五人も呪いをかけられてましたけど、ユージさんに解呪して頂きました。貴方のお孫さんもきっと大丈夫です」


「そうか、そうか……しかし、それではむしろこちらの賭け草が足りん。全て終わらせてくれるのなら、ワシと孫はお前さんに一生ついていこう」


「いやいや、せっかく自由になるんだから、後は好きに生きればいいじゃねぇか」



 まぁ、腕利きの造師ビルダーがどれほど貴重な人材か、ユージさんは知らないのかしら。


 でもなんとなく、彼ならそう言ってしまうんだろうって心のどこかで思ってたみたい、実際にそう聞いてホッとしてるのよね。



「ところで爺さん、紋繰騎全部って言ってたけど、ホントにいいのか?」


「ありゃ全て、ワシの持っとった材料を使っとるからな、自分の造った持ち物を誰に渡すかはそれこそ、自由ってもんよ!」


「へぇ、そいつぁすげぇな!! 精魂込めて造った爺さんにゃ悪いけど、あいつらぶちのめす為にちょいと壊さないといけないのが嫌だったんだ。でもそれならむしろ、後で直してもらうのを見学するのだって楽しみだぜっ!」


「ぶわっはっはっはっ!! なんと愉快で剛毅なことよ! いいぞ、どんな壊れ方しとっても新品同様にしてやる、作業は好きなだけ見てくれぃ!」


「うっひょおっ! マジでラッキーっ! 爺さんありがとなっ、これでやる気万倍だぜっ!!」



 いつの間にかお爺さんに元気を取り戻させて、しかも二人してこんなに良い笑顔で意気投合してしまうなんて、少し微笑ましいけれど、結局ユージさんの狙いは分からないままなのよね。


 まさか、ライアー達の騎体を奪う……いえ、この言い種だとユージさんに失礼だわ、お爺さんの持ち物とお孫さんを取り返す為に、なのかしら。


 でも彼はどうやら、ものすごく紋繰騎が好きみたいだし、例え一騎だけでも手に入れれば、かなりの財産になるのは明らかだし……。



 まさか、ね。


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