吐き気を催す邪悪
「……さっき話した、私をこんな目に遭わせた奴。ルカールはまだ生きてるわ、この国の国王としてね」
「ふぅん……」
「ふーんって、驚かないの?」
「そりゃあ、目の前に現在進行形で千五百年ちょっと生きてる藍華が居るし、魂なんて代物を扱える技術だってあったんだ、他にも生き延びてる奴がいるって考えてもおかしくねぇだろ」
「確かにね、言われてみればそうだって思い返せるけど、それでもこんなに早く答えにたどり着いちゃうんだもの、ゆう君って本当に高校生だったのか、呆れたくなるわよ」
あぁ、ジト目で呆れてそうなその顔、そっちの意味だったのか。
つってもなぁ、これだけ違和感やらヒントやらがごろごろ転がってて、藍華っていう生き証人まで居るんだぞ、予想しない方がおかしいだろ。
「つかオレの事より、そいつの狙いとか目的の想定、次に対処方法の検討だな。ちと長いけど説明するぞ」
「うん…………」
まず、ルカールって奴は、方法は謎だけど千五百年以上生き延びて、今はこの国の王様だ。
そしてオレ達は、ラクスター家と仲がいい。
遥か昔とはいえ、ヤバいレベルの悪さしてなお生き延びてる奴と、そいつとは現在進行形で仲が悪いアリス達と、ほぼ孤立してるラクスター家とは仲がいいオレと藍華。
お互いの人間関係だけでも現時点で既に、この国の王家はオレ達にとっちゃ、仮想敵って扱いになる。
しかも、それだけじゃねぇ。
ルカールがまだ生きてるなら、三十年前の騒動には筋の通る理屈がつく。
魔導生物の由来を知らずに欲しがるなら、王家としての対応はラクスター家に献上させて、代わりに何か褒美を与える、それで良かったはずだ。
ところがだ、実際には初代さんの研究所はアリスの祖父さんが罠にはめられて、一度は根こそぎ奪われた。
当時の第二王子が、何をどこまで知ってたかはもう迷宮入りだけど、ここに魔導生物を知ってたルカールが一枚噛んでたなら、話は別だ。
奴は、古代魔導文明の遺産そのものとか、それに使われてる技術の独占を狙ってる。
古代の魔導具が発揮する強力な効果で周囲に与えられる影響を考えれば、充分あり得る話だ。
そんな奴が藍華を、っつーかエンペリオンコアが使える状態なのを知ったらどうなるか、なんて問答するまでもねぇ。
今のまんまだと抵抗なんて何一つ出来ない藍華を、ルカールに差し出すなんて死んでも嫌だし、そういう意味でも敵対は確定してる。
「だから後は下っ端いじめと、歴史をわざと歪めてる理由が判ればなぁ」
「…………あの、ね……それってやっぱり、全部私が悪いと、思うわ……」
「なんでそうなるんだよ?」
「歴史をわざと歪めてるのはね、水増しした方がより一層、王家にありがたみを感じるだろうってあいつが考えてるからだし、下っ端いじめについては、ね……これ、読めば分かるわ」
「あん? なんだよこれ……えーと人工、神化計画……と、異世界侵攻計画ぅ?」
異世界侵攻計画は、まんま文字通りの意味だろうから今は置いとくとしてだ。
人工神化計画は、控え目に言っても最低最悪、狂気の鬼畜計画だった。
吐き気を催す邪悪ってのは、きっとこういうのを指してるんだろう。
データを読み進めてみたら、魅了に隷属の魔導具とか下っ端いじめや他にも色々、それは全部この計画を達成する為の手段に過ぎなかった。
切欠は、ルカールがまだガキの頃にふと思った、この世界の生き物に宿るスキルへの疑問らしい。
“スキルとは何か?”から始まって、種類や効果の調査、スキルの質の上げ方に下げ方、特殊なスキルを意図的に発現させる方法の模索。
そんなこんなで、あれこれ調べて解ったのは、主に二つ。
一つ目が、スキルってのは生物の脳構造に左右される、つまり血筋による遺伝とか成長する途中の努力次第で、質や効果がある程度は向上する。
二つ目が、スキルを使う為のエネルギー源は、生物の魂を通じて得られる物で、質や効果が高かったり特殊なスキルほど、得られるエネルギー量は多くなる。
だけど、ここからどういう論理のぶっ飛び方をしたのか、“質や効果の高い特殊スキルを得て、魂という名のゲートの先に至る事で、人工的に神を産み出せる”なんて、頭おかしい結論を出してるんだ。
んで、そのイカれた妄想を実証しようとして、ルカールの野郎は倫理をドブに投げ捨てやがった。
なんでも、当時既に確立されてたホムンクルス技術だと、何をどうやってもスキルは発生しなかったらしい。
しかも、藍華にバレないようにこっそり水面下で進めてた、エンペリオンやセンチネリオンの建造に、この世界とか異世界を征服する計画も控えてたせいで、金や物や人員に余裕が無かった。
だからって、可能な限り安上がりに計画を達成させようとしてとってた方法が、“スキルを持ったあらゆる生物の家畜化と、種を無視した交配”だったんだ。
知性の有無とか年齢、種族の違いも全部無視。
交配可能な年齢から、魅了や隷属の魔導具で自由と意志と尊厳を奪って、ひたすら交配とスキル検証実験の道具として酷使しまくって、使えなくなったら廃棄の繰り返し。
特に、高貴な身分の血筋だと高エネルギー消費なスキルが発現しやすかったらしくって、そういう身分の人達を道具として手に入れる為に、国を支えるのに必要な分野だろうとお構い無しで、スキャンダルやら謀略やら下っ端いじめの末にと、あの手この手で色んな人材を叩き潰して計画の道具にしてた。
箇条書きだけど各被害者のプロフィールに、道具にするまでの経緯までご丁寧に残しとくなんて、ホント狂ってやがる。
「こんな事された上に、戦争までやらかされたら、そりゃ国とか文明だって滅びるよなぁ」
「わ、私が、あいつ……あいつに、異世界の……地球の話なんて、しなければよかったのに……」
いや、それは違うな。
計画初期の犠牲者が、その証拠だ。
「藍華、お前この計画書は全部読んだのか?」
「うぅん、最初の数ページだけ……」
だよな、計画の概要だけでも頭おかしいって分かるんだ、被害者の一覧とかそのデータなんて、見るだけで精神的に辛いだろ。
こういう時は冷静さを保ちやすい、今の身体なのがありがたいぜ。
「そうか。なら、ルカールの野郎に初めて会ったのはいつ頃か、覚えてるか?」
「う、うん……あいつが十五歳の時、フレメルト家の当主になったから、それが最初よ」
「フレメルト家の、つか奴の家族については?」
「あいつが十二歳の頃、帝都とフレメルト家の治めるグリドルフ地方の間にある、アルバ領で小規模な反乱が起きたの。その時、丁度帝都に向かってたご両親と姉と妹と弟が、運悪く巻き込まれて全員亡くなってね、生き残りの護衛から知らせを受けて、大急ぎで反乱鎮圧に出た次期当主の長男もその戦いで、準備不足な状態で奇襲されて…………」
「もういいぜ、藍華。野郎の大嘘に、お前が振り回されなくてもな」
お前がやってもいねぇ外道な悪行に、これ以上苦しまなくてもいいんだよ。




