謎と答えと結び付き
「え、なに、もしかしてこいつ知ってるの?」
おぉう、いきなりアップで幻視魔法使うなよ――
「こっ、国王陛下っ!?」
「はぁ?」
「えぇっ!? どういう事なのよ!?」
――なんだなんだ、すっげぇ情報が入り乱れてるぞ。
「あー、ちょっと待て。なんかみんな混乱してるけど、まずこの表示されてる男はルカールって奴なんだな、藍華?」
「えぇ、そうよ」
「んでアリスは、この国の王様だって思った」
「は、はい」
世の中にゃ自分と似てる奴が三人は居るってネタがあるけど、それが大昔の人間と今のこの国の王様で起こるってのは、どういう事だ?
「じゃあ、アリスちゃんが知ってるフレメルト家の爵位は?」
「公爵です」
「王家と血の繋がりがあるのね……」
って事は、藍華を罠に嵌めた奴の子孫が、この国の王家なのかよ。
「どうやらそうらしいけど、この国は平和みたいだし……もうどうでもいいわよ」
「そうですか……フレメルト公爵本家はもう消滅していますから、復讐すると言われたらどうしようかと、思いました」
消滅って、王家の親戚が何したらそうなるんだ?
「それは……」
「ゆう君、人には言いたくない事だってあるんだから、あんまり問い詰めちゃダメよ」
「いいえアイカさん、気にしないでください。この研究所に居ればいつかは必ず、話さなければならない事ですから」
「そりゃどういうこった?」
「フレメルト本家の消滅は、初代様の記録や最初の研究所がもう無い事や、この二代目の研究所の一部にも、関係があるんです」
そうしてアリスが語ったフレメルト本家消滅の理由は、簡単に言うと自爆だった。
具体的には、初代さんの建てた研究所には今居るここと同じ自爆機能付きの結界があって、その時中で何があったかは判らなかったけど、そこに集まってたフレメルト本家とか分家に派閥の主だった貴族や、オマケに当時の第二王子まで全員が建物ごと、文字通り消滅したんだそうだ。
そして、なんでそんな連中が研究所に集まってたのかなんだけど、こっちも理由は簡単。
アリスの祖父さんが罠に嵌められて起きた宮廷闘争で、研究所とその周辺の一部領地をフレメルト公爵と第二王子に取り上げられたからだ。
そのせいでラクスター家は税収が減って、しかもインガルまで奪われたから領内に 士導院 が無くなって 騎装士 の育成も難しくなって、その上研究所の自爆で王族と公爵と大勢の貴族が消し飛んだから、一時はラクスター家の取り潰しまで話が出そうになったらしい。
でもまぁ、いきなり何十人も貴族が居なくなって王国が政治とか領地の管理で人手不足になったのと、初代さんの頃から今でも付き合いがある有力な貴族の手助けで処罰を免れたのが、大体三十年くらい前の話だった。
「それ以来、ラクスター侯爵家は王家から疎まれていて、表立って何かをされた訳ではないですけど、派閥の貴族も皆さん離れていってしまったんです」
「なるほどね、あいつならやりかねないわ……」
「ん? 何か言ったか、藍華?」
「うぅん、何でもないわよ」
「そっか、ならいいや」
何でもないとか言ってるけど、怒った表情でとぼけても無駄だぜ。
つっても、今すぐ根掘り葉掘り聞くのもいい手じゃねぇし、後で問い質すか。
「なぁ、初代さんの頃から付き合いがあるっていう、貴族の派閥に入るのはダメなのか?」
「いえ、あちらは伯爵家ですから、爵位や派閥内での関係で私達が下になるのは、ご迷惑になってしまうんですよ」
「ゆう君は知らないでしょうけど、古い歴史を持つ王族や貴族って物凄く面倒な連中なのよ。むしろアリスちゃんがここまで良い子なのは、天然記念物級の珍しい事例ね」
「すっげぇ実感込めた意見をありがとよ……あ、もしかしてトリィが魔導具の登録をロジェード公国でやれって言ったのも、それが原因か?」
「魔導具開発普及協会は、以前はフレメルト公爵家の管轄でしたが、今は王家が管理していますから、恐らくはユージ殿の仰る通りかと」
んー、それ聞くと今度は消し飛ぶ前のフレメルト公爵家の動きに疑問が出るな。
「魔導生物ってさ、魔法の延長みたいなもんだけど、魔導具について管理してたフレメルトが狙うほど、何か優れてるのか?」
「魔導生物そのものは特に高性能じゃないけれど、多分初代さんの使い方が凄かったんでしょうね。さっき話した五十五年の間に、総数で約六十二億体が創造されてたもの」
「ろっ、六十二億っ!?」
なんだよそれ、なんの為にそんな――
「アリスちゃん、この国の地図はあるかしら?」
「すぐにお持ち致しますので、少々お待ちを」
「お願いします。それじゃあ、地図が来るまで少しだけ初代さんが開拓の為に創造したスライムについて、話しましょうか」
――そういやさっきも、魔導生物で開拓って言ってたな。
「スライムにはね、元々の用途に活かせるようにネットワーク機能が付与されてるの」
「アイカさん、ネットワークってなんですか?」
「そうねぇ……なんて言えばいいか、ゆう君分かる?」
おい藍華、そこまで堂々と言っといて、こっちに丸投げすんなよ……。
「そうだなぁ、お互いに連絡を取り合う為の、網の目みたいな繋がりだな」
「そうそうそれっ! でね、その機能を通じてコアに送られて来たのが、広大な範囲の土壌改良に関する情報なのよ」
「広大って、一体どのくらい……」
「お待たせ致しました」
「ありがとうございます、ハウザーさん。ゆう君はちょっと待ってね、今から地図画像を取り込んで、大雑把だけど分布範囲と重ねて表示するわ」
まぁ大雑把なのは仕方ねぇさ、地図っつっても現代日本で手に入ったような精密な物なんて、科学技術が未発達なこの世界じゃ無理難題もいいとこだろうしな。
「……よしっ、大体こんな感じよ」
「おぉ、この国の三分の一くらいか」
「なんと、ウィンズビル伯爵領まで全域に渡って範囲内とは、実に凄まじいですな」
「伯爵って、ウィンズビル家はもしかして……」
「はい、ラクスター侯爵家と長くお付き合いがあって、お祖父様を手助けしてくださったご恩のある貴族です」
なるほど、少しずつだけど色んな疑問の答えが結び付いてきたな。




